第111話 なりきり師、貴族と出会う。
〜教会 礼拝堂〜
「ユウキ!ねぇユウキ!」
〈キュー!〉
「……ん?あぁそっか…ごめんホーク、リッシュ待たせたかな?」
「ううん。そんなに時間は経ってないよ。ただ声をかけてもユウキが何の反応もしなかったから心配したよ。大丈夫なの?」
「そうだったんだ…うん大丈夫だよ。とりあえず出ようか。」
「うん。」
〈キュー〉
おれたちは教会を出てとりあえず昼ご飯を買う為に屋台街へと向かった…。
〜屋台街〜
「リッシュの分も増えたからいつもより一杯買わないとな!」
〈キュー!〉
おれの頭に乗ってるリッシュがそんなに食べないって言いたいのかペチペチと抗議してくる。
「リッシュ、そんなに怒るなよ。リッシュは一杯食べてしっかり大人にならないとダメなんだからな!一杯食べる事は恥ずかしい事じゃないんだぞ!おれはお腹一杯食べてくれた方が嬉しいんだよ。」
「おれも一杯食べるリッシュ大好きだよ!後で食べさせてあげるね!」
〈キュー…〉
いくら赤ちゃんと言えど人間とドラゴンでは食べる量が違う。実際昨日リッシュは自分の身体より多くの食事をしたんだからそれは決定的だろう。
女の子的に恥ずかしかったのかもしれないけどリッシュにはジフのように立派になってほしい。お腹一杯食べさせてあげよう。
「よしじゃあ1人3軒まで好きな店を選んでいいよ!」
「ホントに!?やったー!行こうリッシュ!」
〈キュー♪〉
「迷子になるなよー!っておれが見付けられるから迷子にはならないか…」
どうやらリッシュの機嫌も治ったようだ。ホークの頭に乗り換えて行ってしまった。好きな店を選ばせるってのは正解だったな…。
おれも日本で子供の頃スーパーで好きなお菓子を選んでいいって言われた時は毎回ワクワクして選んでたもんな…。どこの世界でもそれは一緒か。
って言っても小学生位の話だからホークが喜ぶには大人過ぎるんだけどな……まぁいっか…。
食べたい物を見付けてきた2人の好きな物を買ったのだが見事に全部肉だった。串焼きにステーキ、唐揚げに丸焼き…別に健康に気を使ってる方では無いがこれではダメだ。
と言う事でおれは野菜中心になるように選び一先ず買い物は終了した。
おれとホークは両手に食べ物が入った袋を一杯持ち、料理が冷めないように中身だけ常温で問題無い物にインベントリから入れ替えて宿へと帰った。
アイテムバッグ偽装をしてもいいのだがおれたちはこの街でギルド登録したばかりの新人だ。
偽物とは言えアイテムバッグを公衆の面前で使うには早すぎるのでせめて次の街までは我慢する事にした。
〜ガルーダの止まり木 食堂〜
「ふぁ〜満腹だぁ!お腹一杯!」
〈キュキュー♪〉
「ごちそうさまでした。二人共あんまり大きな声を出しちゃ他の人に迷惑だよ。食堂は皆の場所なんだからな。」
宿に帰った時にネネさんが食堂のテーブルを貸してくれたんだ。
飲食店に食べ物を持ち込んで何も頼まないなんて日本では考えられないがネネさんがいいって言ってくれたからいいんだろう…。
どちらかといえば部屋で食べて汚されたくなかったのかな?
「ユウキあんた本当にしっかりしてるね。ミミもそれ位礼儀正しく育ってほしいもんだよ。
ウチとしてはありがたいけどこんな店さ、多少騒ぐ位構いやしないよ。喧嘩事はゴメンだけどね。」
「ネネさん場所を貸してくれてありがとうございました。何も頼まなくてごめんなさい昼ご飯ちょっとたくさん買っちゃって…」
「気にする事無いよ。あんた達は宿に泊まってくれる常連さんなんだからいつでも使ってくれて構わないよ。」
「ありがとうございます。」
「ネネさんありがとう!」
〈キュキュ!〉
「どういたしまして。お礼がちゃんと言えて偉いねリッシュちゃん。」
〈キュー♪〉
リッシュが撫でられて嬉しそうだ。にしてもリッシュって人懐っこいな……誰でも信用してホイホイついていかないように注意しないとな…
食べた物を片付け改めてお礼を言い、ホークにクリーンを使ってもらいおれたちは再び街にでかけた。
「さて、次は防具屋に行こうか!」
「うん!」
「昨日聞いたんだけど防具屋の店主はシュラフさんの双子の妹なんだって。」
「へぇ〜そうなんだ!似てるのかな?」
「どうだろうな?そもそも女のドワーフってイメージ湧かないんだよな…ホーク知ってる?」
「知らな〜い!」
「だよな…。」
シュラフさんがトゥルントゥルンの子供の見た目だったから妹のチェスさんもトゥルントゥルンなのかな?
いやでもあえて髭まみれって可能性もあるのか?
そんな不毛な事を考えてると前から2人組の男の子と執事のようなカッチリタキシードの老人がおれたちの方を指差した後に歩いてきた。
「貴様がユウキか?」
「いえ、違いますよ。」
「そうかそれは失礼した…。」
「坊ちゃま。彼が噂の冒険者ユウキ様で間違いないと思います。」
「なに!おい、貴様!冒険者ユウキだな!」
「だから違いますって。おれの名前は
「爺、違うと言っておる!僕に二度も間違えさせるとは何を考えておる!恥をかいたでは無いか!」
「いえ坊ちゃま、彼は嘘をついております。彼が冒険者ユウキ様で御座います。その証拠にご覧下さい頭にドラゴンを連れております。」
リッシュは満腹でおれの頭の上で眠っている。
「おぉ、これが噂の……貴様!息をするかのように嘘を吐きよって僕が誰か知っての無礼か!」
「知らねぇよ!誰だよ!ってか何で初対面で貴様呼ばわりする奴に本当の事言わなきゃいけねぇんだよ!」
「なっ!貴族に対して何と言う口の利き方!貴様無礼であるぞ!」
「無礼なのは貴様だ!……ん?貴族?」
えぇ〜面倒臭ぇ!貴族登場かよ…そう言われればこのガキ高そうな服着てんな……。
「ようやく自分の立場がわかったようだな平民!本来なら不敬罪で処刑だが今回は許してやろう。だからそのドラゴンを僕に渡せ!」
「あ?テメェ今何つった?もういっぺん言ってみろ!」
「ひっ…」
「ユウキ相手は貴族の子供だよ落ち着いて!チンピラみたいになってるから!」
「坊ちゃまここは爺におまかせを…。冒険者のユウキ様にホーク様でございますね?」
「違います。」
「「「「………」」」」
「ほっほ御冗談を…先程ホーク様が『ユウキ』と呼んでいたではありませんか。この状況で堂々と嘘を付かれるとは思いませんでしたがこのまま話を進めさせて頂きます。
この御方はゴウロット家御子息のミハエル=ゴウロット様に御座います。
私は執事のオザンと申します。以後お見知り置きを…」
「貴族の方が一冒険者に何の用ですか?ドラゴンを渡せとかふざけた事言ってましたけどそう言った用件ならお断りですよ。」
「1000万プライ出しましょう!」
「「は?」」
「大変失礼ながらあなた方の事を調べさせて頂きました。あなた方はつい先日冒険者登録をしたばかりの新人冒険者だそうですね?」
ちっ!面倒臭ぇ事になってるぞ…シルバさん達が言ってた事は本当だったみたいだ…。
一応おれたちの事はギルドでは最高機密扱いにしてくれてるそうだけどどこまで調べられたんだ?
「そうですけどそれが何か?」
「新人の頃はお金を稼ぐのも大変でしょう?何やらアイズダンジョンもつい先日まで封鎖されていましたしあなた方も金銭面ではお困りでしょう?」
「…何が言いたいんですか?」
「では単刀直入に申し上げます。ミハエル様がそのドラゴンを所望しておられます。
1000万プライでお譲り頂けないでしょうか?あなた方にとっても悪い金額ではないでしょう?」
「お断りします。」
「この金額ではご不満で御座いますか?」
「ご不満です。それにこの子はおれの従魔です。いくら積まれた所で売るつもりはありません。
それにこの子はおれたち以外の言う事は聞きません。過ぎた力を持つと大変なのはあなた達ですよ?なのでお引取りください。」
「ご心配には及びません。こちらもちゃんと隷属アイテムを用意しております。」
「「あ゛?」」
隷属アイテムだと?ジフを苦しめてたあの道具をリッシュにも使おうって言うのか?ふざけてんのかこのジジィ
「ユウキ君!ホーク君!」
この声は…
「シルバさん?どうしたんですかこんな所で…」
「お久しぶりで御座いますゴウロット家の皆様。」
「おぉシルバ殿ではないですか。お久しぶりに御座います。」
「こちらの冒険者に何か御用でごさいますか?」
「いえ、ちょっとした雑談に御座います。ミハエル様本日の所は退散致しましょう…。」
「爺、ドラゴンは?」
「ご心配なさらず。なぁにすぐに手に入りましょう。喜んで渡して貰えるでしょう…。
それではユウキ様、ホーク様失礼致します。次はよい返事を期待しております。行きましょうミハエル様。」
「う、うむ。」
勝手にやってきて好き勝手言って勝手に帰ってしまった…。
これはなんだ?宣戦布告か?軽く脅しをかけてきたのか?いい度胸してんじゃねぇか!
「よし!ホークあの貴族の家潰しに行くぞ!」
「うん!そうだね!」
「待て待て待て待て!待つんだ二人共!何をするつもりだい?」
「いや〜あの貴族の家に大きな岩の雨が30個程降るんじゃないかなぁと思って……」
「はぁ、君は何を考えてるんだ!悪いけど一緒にギルドに来てもらうよ!」
「ギルドに行くのはまだ後なんです!おれたち今日は色々予定があるし、急用が一つ増えちゃったんでまた後で行きますよ。」
「その急用に行かせない為にギルドに連れて行くんだよ!ユウキ君バカな事を考えちゃいけないよ!絶対についてきてもらうからね!」
「えぇ〜!」
「えぇ!じゃない!ほら行くよ!」
はぁ…昨日の今日どころか、さっきの今でまた厄介事に巻き込まれてしまった…。どうなってんだよプライ……
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