第106話 なりきり師、注目を浴びる。

 ジフが降ろしてくれたのは街から歩いて10分程の所だった。

 やっぱり飛行能力ってのはいいな。あれだけの高さから飛び降りても安全に着地できるんだもんな…。


 ミラージュバリアを駆使したのでおれたちが空から降りた事も見られて無いだろうし、ジフも気を使ってくれたのか街とは別方向に飛んでいってくれたので、街がドラゴン騒ぎでパニックになる事は無いだろう…。



 〜メルメルの街 門前〜


 そこからおれたちは歩いてメルメルに帰った。


 リッシュはおれの頭の揺れで気持ちよくなったのかグッスリ寝てる。


 さて、問題はここからだな…



「冒険者プレートです!お願いします!」


「お、おぅ…」


 そりゃ見るよね…頭でドラゴンが寝てるんだもん…おれだって見るよ。


 でも聞いてこない。ただ凝視はしている…



「門番さん?」


「あ、あぁ…悪い…。ところで坊主?頭のそれって…」


 やっぱり聞くよね…。そりゃプロだもんな街に危険が及ぶなら止めるよな。



「新しく入った仲間だよ。あっ!もしかしておじさん達リッシュが人を襲う事を心配してるんですか?大丈夫です!まだ赤ちゃんだしおれたちの言う事をちゃんと聞けるいい子ですから。」


 ここは毅然とした態度でなんの問題もない事をアピールしないと。

 少しでも動揺しようものなら長引いてしまう。


 それにしてもこの前やってしまった手前この門番さん達にはこのキャラでいかないといけないんだよな…面倒臭せぇ……



「い、いや…しかし…」


「今は寝ちゃってるんで証明できないけどおれたちにとっても懐いてるんだよ。ギルドで従魔登録もするんだ!なっホーク!」


「うん!ねぇおじさん?おれたち街に入っちゃダメなの?リッシュはいい子だよ?」


「そうは言ってもなぁ…」


 う〜ん…手強い…仕方無いちょっと可愛そうだけどリッシュを起こすか…。


 スヤスヤ眠るリッシュを頭からそっと降ろしそして起こしてみる。



「リッシュ街に着いたよ。ほら門番さんに挨拶して。」



〈…キュー?〉



「お、おい坊主!起こして大丈夫なのか?」


「? 大丈夫だよ?ほら!」


 リッシュを持ち門番の前に差し出す。



〈キュッキュー!〉



 リッシュはおれの意図にのっかってくれたかのように門番さんに元気よく挨拶をした。偉いぞリッシュ中々空気の読める子じゃないか!



「ほ、本当に危険は無いんだな?」


「迷惑な事はさせないし、もしなんかあったらおれがちゃんと責任取るから!いいでしょ門番さん!」


「なんかあってからじゃ困るんだが…本当に約束できるんだな?」


「うん!絶対!約束するよ!」


「わかった。ただし今日中に従魔登録をちゃんとする事が条件だ。後で確認に行くからもしできてなかったら街から出て行ってもらうぞ?」


「ありがとうおじさん!すぐに登録に行くよ!おれたちの受付の担当はサナさんって女の人だからその人かギルマスに確認してね!行こうホーク!」


「おじさん達ありがとう!お仕事頑張ってね!」



〈キュー!〉



 そして街に入ったのだが…まぁ見られるよね。いくら小さくてもエンシェントドラゴンだもん…

 きっと見た事無い種類だもんね…リッシュが起きちゃって元気だから余計注目を集めてるよ…



「リッシュあんまりはしゃぐなよ。今からギルドって所に行くから大人しくするんだぞ?」



〈キュー!〉



 片手を上げ元気に返事をしてくれたけどホントにわかってんのかな?あぁ…ギルマスになんて説明しよう…







 〜冒険者ギルド〜


 おれたちがギルドに入ったら賑やかだったのに徐々に静かになっていきヒソヒソ話が広がっていった。

 何回やんだよこの下り!もういい加減慣れたよ!



「はぁ…ホーク、サナさんの所に行こうか。」


「うん!」


 夕方の忙しいであろう時間帯にギルドに来るのは初めてだ。

 サナさんのカウンターにも列ができてる。こりゃこの視線の中待たないとダメだな…



「ホーク?先にシルバさんに道具返しちゃおっか?」


「そうだね。並んでると結構邪魔だもんねこれ。」


 ホークには申し訳ないのだが街に入る時におれの分のピッケルと大き目のスコップも持ってもらっていた。

 おれはリッシュを抱っこしているので両手が塞がってしまっていた。

 頭に乗せて移動しようかとも考えたがせめて従魔登録するまでは抱っこして移動する事にしたんだ。



「多分シルバさんの方も並ばないといけないからリッシュは寝てていいぞ。」



〈キュー!キュー!〉



 首を振って返事をしてる…。



「眠たくないのか?じゃあ大人しくして待ってような。」



〈キュー!〉



 うん、完全におれの言ってる事を理解してるよな。賢い子だ。


 そしておれたちはシルバさんのいる買取所に並んだ……のだが…



「ユウキ、ホーク!ちょっとこい!」


 奥からギルマスが出てきて呼び出しをくらってしまった…。

 これは職員さんの誰かがギルマスにチクったな…

 はぁ〜あ…目立たないって最早不可能だよな…。何故だがわからないけどただでさえおれたちは巻き込まれ体質なんだ…うん、最初からわかってましたよ。


 おれたちは大人しくギルマスについていった。









 〜ギルマスの部屋〜



「お前ら銀鉱石を探しに行ったんだよな?」


「教えてないのによく知ってますね!」


「何でお前が驚いた体で話してんだよ!おれが聞きてぇのは何で銀鉱石を探しに行ってドラゴンを連れて帰って来てんだって事だよ!驚いてんのはおれなんだよ!」


「わかってますって。ちゃんと説明しますよ。新しい仲間のリッシュです。」



〈キュー!〉



 おっ!ギルマスにもちゃんと挨拶してる。偉いぞリッシュ!



「………」


「えっ?終わりか?今ちゃんと説明しますって言ったよな?」


「どうせ皆さんに説明しなきゃいけないでしょ?一度に終わらせたいんでピークの時間帯が終わるまで待ちますよ。

ただ従魔登録だけでも先にしてください。そうしないと門番さんにこの街から追い出されちゃうんで…」


「お前達は本当に騒ぎを起こさずに生きるって事ができない人間なのか?毎日よくもまぁ飽きもせず次から次に…」


「言わないで下さい。自分でも嫌になるほど実感してるんです…。」


「今回は本当にユウキが死んじゃうと思って心配したんだよ!」


「あぁ…確かに危なかったな…。今回ばかりは自分の演技力に助けられたよ。」


「とんでもねぇ話をしそうで聞くのが嫌になってきたな…」


 そしてギルマスは従魔登録の書類を取りに行ってくれたので。おれたちは時間を無駄にしない事にした。








『ガチャリ…』



「………何やってんだお前達……」


「あっ、おかえりなさい。ちょっと待って下さいこの後必要なんです。もうちょっとで終わりますから…。」


「あっ、ギルマスも食べる?」



〈キュキュ!〉



 おれは銀鉱石の発掘作業。ホークにはリッシュの餌やりをしてもらっていた。

 思えばリッシュは生まれて何も食べてなかったんだ。すっかり忘れてたよ。

 赤ちゃんだけどドラゴンだし屋台の串焼きでいいかなって思って出してみたら喜んだのでリッシュには串焼きを与えてるんだが、どうやらホークもつまみ食いしてるみたいだ…。

 そう言えばおれも腹減ってきたな…。


 おれの発掘作業も1つ目がすぐに出てきて今は2つ目だ。これが取れればシュラフさんにホークの剣が作って貰える。

 時間がもったいないので防音対策も万全のこの部屋でカンカンやらせてもらっている。



「はぁ…お前達ここを自分の家と勘違いしてねぇか?自由過ぎるだろ…呆れて物も言えねぇよ…。」


「時間がないんですよ。今はやる事が一杯なんです。あっ!そうだ道中襲ってきた盗賊の死体が13体あるんですけどここに出してもいいですか?」


「いいわけねぇだろ!部屋が汚れるだろうが!」


「ですよねー。」


 おれからすればギルマスも中々だぞ?死体で驚くより部屋が汚れる事を心配するんだからな…

 インベントリに入れて血抜きもされてるんだからそんなに汚れはしないと思うけどこの世界の人は盗賊を毛嫌いしてるもんな…

 まぁいっか後でシルバさんに渡そう。


 そんなこんなで数分、銀鉱石も取り出す事ができた。そしておれは従魔登録の用紙の必要事項を書いていった。



「よし!書けましたよ!これで大丈夫ですか?」


「どれどれ…? ブハッ!古代龍エンシェントドラゴンだとぉ!?」


 ギルマスに嘘をつく必要はないので正直に書いたのだがやっぱ驚くよね……



「お前なんてもんを従魔にしてんだよ…おれは目立たないように注意しろって言ったよな?ウッカリでバレないように気を付けろって言ったよな?」


「おれだってまさかこんな事になるなんて思ってなかったですよ!でももうリッシュは大切な仲間なんです。多少の注目は我慢しますよ。」


「ドラゴンだぞ!多少で済むわけねぇだろ!その子がエンシェントドラゴンなんて知られたら尚更だ。はぁ〜頭痛くなってきた…。」


「お互い苦労しますね…。」


「お前にだけは言われたくねぇよ!」


 そのまま従魔登録はギルマスが情報を極秘にして手続きをしてくれるそうだ。

 なんでもギルドに最高機密とされる物があるらしくおれたちの情報もその最高機密に入ってるそうだ。


 ありがたいけど最高機密扱いされるなんてなんか照れちゃうな…。


 改めてリッシュのステータスとかを聞かれたがそれは全員揃ってから見る事にした。

 おれだってまだ知らないんだから話しようがない…。


 ただ今は冒険者が帰ってくるピークの時間なので4人全員揃うにはまだ時間がかかるらしい。



「ギルマス、まだ時間がかかるなら武器屋に素材を納品に行きたいんですけど…」


「ん?あぁいいぞ。手続きはこのままこっちでやっといてやるよ。」


「ありがとうございます。じゃあちょっと行ってます。それじゃあホークとリッシュはここで待ってて。シュラフさんに素材を渡したらすぐに戻ってくるよ。」


「おれたちは行かなくていいの?」


「リッシュの従魔登録がまだ終わってないからな…。

テイムはしてるけど従魔登録してないリッシュを連れて歩き回ってたらどんな難癖をつけてくる奴がいるかわかんないんだ。だから2人はここで待っててくれるか?」


「ふ〜ん…わかった!リッシュここでおれと待ってよっか!?」



〈キュー!〉



「じゃあパパっと行ってくるよ!リッシュすぐに戻ってくるからいい子にしてるんだぞ?」



〈キュー!!!〉



 ホークとリッシュには留守番をしてもらいおれはシュラフさんの武器屋に向かった。

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