第105話 なりきり師、別れる。



〈キュー!〉



 あっ!しまった!こう言うのって最初に見た物を親と思い込むんじゃなかったっけ?

 おれたちジフより先に顔合わせしちゃったぞ…生まれる事に夢中になって感動的な親子の初対面を邪魔してしまった…



〈キュー!〉



 あっ、大丈夫なのね…ジフの子供はジフを見付けるとパタパタと小さい羽を動かしジフに甘えに行った。顔をスリスリしてて微笑ましいな…。



〈▲?○◆◇△■〜●□〉



〈キュー!〉



 龍語なのかな?おれにはサッパリわかんない言語でジフが子供に話しかけてる…



「フフ…妾の子よ。よくぞ無事生まれてきた。そなたはこれからあそこにおるユウキとホークと共に行動するのだ…。」



〈キュー?〉



「その通りだ。」


 と思ってたらおれたちにもわかるようにジョブラスの言語で話し始めてくれた。

 それにしてもジフさん?キューしか言ってないのに何言ってるのかちゃんとわかってんの?



「なぁジフ?その身体の傷はおれが回復してやるよ。だからもう一度考えてみろって。やっぱり親子は一緒にいたほうがいいよ。その子も甘えたいだろうしさ…」


「いいや、そなたの魔力では妾の傷を治す事はできないだろう…。恐らく回復魔法であっても妾は弾いてしまう。

それに妾は今ここで最大限に愛情を注ぎ込んだ。また次に会える時を楽しみにしようぞ。」



〈キュー!〉



「わっ!ハハッやめろよ!」


 子供ドラゴンは今度はおれの方に飛んできておれの顔を舐め始めた…。

 愛情を注ぎ込んだ?あの龍語の時か?えっ!?一瞬過ぎないか?



「アハハ、カワイイね。ブフェ!おれも?アハハハハ…くすぐったいよぉ!」



〈キュー!キュー!〉



「妾の子もそなたらが気に入ったようだ。ついて行くと言っておる。気にする事はなかろうぞ。」


 この子に気に入られた理由はサッパリわかんないけど本人…本ドラゴンがいいならまぁいいのか…?


 目立っちゃうだろうけどこうなったらなんとかするしかないかな…。



「おれたちの旅は危険が一杯あるんだ。痛い事も怖い事も一杯あると思う。それでも一緒にくるか?」



〈キュー!〉



 キュー!と鳴きながらコクンと頷く子供ドラゴン。



「そっか。わかったじゃあ一緒に行こう。テイムするぞ?」



〈キュー!!!〉



 おれの前の地面に着地しおれを真っ直ぐ見てる。どうやら本当にテイムしていいらしい。



「テイム!」


 子供ドラゴンの周りに光の輪が発生して徐々に内側へ小さくなっていきそして何の抵抗も無く子供ドラゴンの身体に入っていった。



〈キュー!〉



 それが終わると同時に子供ドラゴンはおれに飛び付きまた顔をベロベロ舐め始めた…。



「うわっ!ハハッだからやめろって!」



〈キュー!キュー!〉



 これはテイム成功って思っていいのかな?そう言えばこの子の名前をジフにまだ聞いてないや…



「な、なぁジフ?この子の名前は何て言うんだ?」


「妾は真名を与えた。名はそなたらで好きに決めるが良い。」


 いやいやいや、そこも?名前までおれたちに任せちゃうのか?ドラゴンってそれでいいのか?

 真名を与えたってのはさっきの龍語の時なんだろうけど…まさか最大限の愛情ってそれだけじゃないよね?この子親の愛情不足になったりしない?



「名前を決めろって言われてもなぁ…そんな事した事ないし…」


「ユウキ!カッコいいのにしてあげてね!」


 ホークは考えるつもりは全く無いようだ…カッコいいのって言われても…あれ?ちょっと待てよ…



「ジフ?この子ってオスなの?メスなの?どっち?」



〈キュー!!!〉



 この子おれの言葉は完全に理解してるな…。おれがジフにオスかメスか聞いたらプンプンし始めた。



「見ればわかろう。妾と同じおなごであろう。」


 いや親子揃って見た目だけじゃ絶対わかんねぇよ!おれはドラゴン専門家じゃないんだぞ!



「ごめんごめん、そんなに怒るなよ…そっか女の子だったか…。」


 かと言っておれがドラゴンっポイ名前をつけれるのかは別問題なんだけどな…


 名前なんて日本の犬にもつけた事ないのに…いきなりドラゴンかぁ…ハードル高ぇ!でも名前は今決めないと今後不便だし…



「よし!じゃあ、リシュアドーズってのはどうだ?意味は特にないけど響きだけでもジフに寄せたんだ。普段呼ぶ時はジフみたいに縮めてリッシュってのはどうかな?」



〈キュキュー♪〉



 羽をパタつかせ嬉しそうな声をあげておれの顔をより一層舐めてきた。これは喜んでるでいいんだよな?



「ほぅ…妾と同じ響きか?そなた中々粋な事をしてくれるのだな。よかろう…妾の子よ、これからはリシュアドーズ。リッシュと名乗るが良い。」



〈キュー!〉



「ふぅー、これで全部一件落着だな。…あっ!急いで街に帰んないとシュラフさんの店閉まっちゃうじゃん!ホーク急いで隷属アイテム拾って街に帰るぞ!」


 目の前の事に必死になりすぎて辺りが夕焼けに変わっている事に今気付いた。

 シュラフさんの店が何時までやってるのかも聞いてなかったな…夜までやっててくれればいいんだけど……



「あっ!ホントだ!急ごうユウキ!」


「何?そなたら急いでおったのか?」


「ちょっと用事があっただけだよ。急いで帰れば間に合うと思う。リッシュ暫くジフとはお別れになるんだ。だから最後に甘えておいで。

その間におれたちは隷属アイテムを拾ってくるよ。」



〈キュー?〉



「大丈夫だよ。置いて行ったりなんてしないから。またすぐに戻ってくるよ。

でもその時は本当にお別れしなきゃいけないんだ。だからほら行っておいで!」



〈キュー!〉



 本当ならああやって成長するまで一緒にいられるはずだったのにな…


 勇者パーティー…今度ばかりは本当に許さねぇからな。キッチリ落とし前はつけさてやる…。







 空間支配者に転職してファンネルで空を飛び周りをマッピングして隷属アイテムを拾った。


 その時に気付いたのだが驚いた事にボロボロになったはずの空間支配者の装備品が新品になっていた。

 と言うのも、ファンネルだけを使い空を飛ぼうと思ったのだが、ジフのブレスで何処かに行ってしまったので手元に出してみた所ファンネルがいつものようにピカピカだった。


 それでまさかと思い服も装備してみたらボロボロに焼けてしまった服が元に戻っていたんだ。


 これもなりきり師の能力なのかこの能力は装備品がたくさん必要になるおれとしてはかなりありがたい。

 装備品が壊れないって冒険者にとったらかなりのアドバンテージだ。

 思わぬ収穫がまた増えてしまった。ブレスを受けた事も無駄じゃなかったな…。


 そしておれたちはジフとリッシュの元へ戻った。







「ジフ、リッシュ、戻ったよ。」


「ただいまー!」



〈キュー!〉



 リッシュはおれが声をかけるとおれの頭に乗り、手でペチペチして何かを伝えようとしてる…



「ん?どうしたんだリッシュ?」


「妾に街まで送って貰えと言っておる。そなたら急いでおったのであろう?特別に妾が乗せてやろう。」


「えっ?いや、エンシェントドラゴンが街に近付いちゃまずいだろ!攻撃されちゃうぞ?」


「先程そなたは空を飛んでおったではないか。街の近くで飛び降りれば問題なかろう。妾はそのまま見付からぬように通り過ぎようぞ。」


 飛び降りろって中々過激な事を簡単に言ってくれるよ…

 まぁジフに送って貰えればメルメルにはすぐに着くだろうしミラージュバリアを使って見付からなかったらいいか…。



「わかった。じゃあお願いするよ。」


「うむ。任せよ。すぐに届けてやろうぞ。」


「安全に頼むよ…」


 おれたちはジフに乗せて貰いメルメルの街の近くまで飛んで貰った。

 その際にジフの身体に残ってる傷が凄く痛々しくてハイヒールを使ってみたのたがやはり弾かれてしまったようだった…。



「あの街で良いのか?」


 おれたちが2時間近くかけて歩いた道をジフは5分もかからずに到着してしまった…。



「うんあの街だ。ありがとうジフ助かったよ。」


「気にするで無い。ではユウキ、ホーク、リッシュを頼んだぞ。」


「あぁ精一杯面倒みるよ。」


「リッシュの事はおれたちに任せてジフもしっかり傷を治してね。」


「うむ。リッシュよ、ユウキとホークの言う事をしっかり聞くのだぞ!」



〈キュー!〉



 リッシュはジフに最後のスリスリをしにいった。


 暫くの別れだもんな…寂しくないわけがない。



「ホーク、おれにしっかり掴まっとくんだぞ?」


「うん!よろしくねユウキ!」


「あぁ任せろ!リッシュそろそろ行くよ。」



〈キュー!〉



 リッシュは駄々をこねる事なくおれの頭に掴まった。



「ジフ、送ってくれてありがとう。また元気になったら会おうな!」


「うむ。約束しようぞ!」



〈キュキュー!〉



「またな!」


「ジフ!またね!」


 おれたちはジフから飛び降り、ファンネルとミラージュバリアを使いゆっくりと地面に降りていった。

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