第103話 なりきり師、誑し込む。
熱い…痛い…長い…いや、それはもう過ぎた…今は感覚すら無くなった…。
ブリザードドームを使っての自爆ダメージ覚悟のこの方法でもドラゴンのブレス1発にすら敵わなかった……
『シュウゥゥゥ…………バタン……』
ドラゴンのブレスが終わりおれはホークの横に倒れた。
意識は朦朧としてるがまだなんとか生きてるらしい…。
「ユウ…キ?ユウキ!!ねぇユウキ!!!」
よかったホークは無事みたいだ…。
「ホ…ク……にげ…」
喉が焼けてしまったのかそれとも身体的な問題なのかはわからないが声がうまく出ない。
でも大丈夫。きっと伝わる。頼む逃げてくれホーク…
「嫌だ!ユウキを置いてなんて行けないよ!ぐすっ…回復魔法使ってよ!そうだアイテム出してよ!おれが使ってあげるから…早く!ズズ…お願いだよ…」
「い゛……け…」
頼むここにいたらホークも死んでしまう。頼むから逃げてくれ…
「絶対に嫌だ!!!」
『ほぅ…
「!!!!!」
ドラゴンが喋った!?それにこれは……おれは動かない身体を精一杯動かし目を見開いてドラゴンを見た…。
『に…ほご?』
ドラゴンが喋ったのは間違いなく日本語だ。なんでこの世界に無いはずの日本語をドラゴンが喋ってるんだ?
まさか転生人から教わったのか?
『ほぅ…この言葉がわかるのか?やはりそなた転生人か。回復を許してやろう。できるなら回復するが良い…』
なんでコイツ上から目線で話してんだよ腹立つなぁ!
まぁ天地がひっくり返った所で今のおれでは勝てない事は確かなんだけど……
おれはこんな所で死ねない…こんな所で死んでたまるか!異世界にに来てまだ何もできてないんだ。
なによりもおれは大切な約束を破る事だけは死んでも嫌だ!
情けをかけられたようで癪だが今はコイツの言う通りにして回復しよう…。
ただ今の状態で魔法を使うのは無理だ。インベントリからギルマスに貰った上級ポーションを出し少しだけ飲んだ。
『ほぅ…空間魔法まで使うのか……』
「いっ…あ゛ぁぁあ…」
上級ポーションを少し飲み回復した事によって感覚が戻ってきたのか今度はとてつもない痛みが身体中を襲ってきた…。
「ユウキ!それ貸して!」
そう言ってホークはおれの後頭部から背中にかけて上級ポーションをかけ始めた…。
自分では見れないけどきっとグチャグチャなんだろうな…
「ぐあ゛ぁぁぁあぁぁ……」
痛みが凄まじい…ヤバイ気を失いそうだ…
「はぁはぁ…ホーク…」
おれはなんとか動くようになった手を少しだけ上げてホークを呼んだ。
「ユウキ!大丈夫なんだよね?」
その手をホークは握り返してくれた。
「ハイ…ヒール。……痛い…所は無い…か?」
「おれの回復なんていいんだよ!ちゃんと自分の回復をしてよ!ユウキ死んじゃヤダよぉ……」
安心しろホーク死ぬつもりなんてない。それにあのドラゴンはどうやら対話をしてくれるみたいだ。
おれの持つ全ての経験を駆使してドラゴンだろうが
こんな序盤でドラゴンが出て来るクソみたいな状況だってひっくり返してやる!
「よかっ…た……。ハイ…ヒール。ハイ、ヒール!ハイヒール!ハイヒール……」
傷がみるみる内に回復していくのがわかる。まだ身体は動かしていないが声が出るようになった。
「ありがとうホーク。ポーションかけてくれて助かったよ。」
「ぅわー…ユウキぃぃぃ!!!」
「ごめんな…心配かけたな。」
とりあえず回復はできた。でもまだ危機が去ったわけではない。むしろここからが本番だ。
「なりきりチェンジ 魔法使い」
空間支配者の服は燃えてしまい立ち上がったら半ケツ状態になってしまっていた…。
これからシリアスな展開なのにこんな格好では締まらないので魔法使いに転職した。
『待たせたな。ドラゴン!』
『構わぬ。これもまた一興…多少そなたに興味が湧いたのも事実だ…。妾の咆哮の範囲内で動く存在が転生人の子なら納得もいこう。』
一興だと?こっちは死にかけてんだぞ?あのまま落ちてたら確実に死んでたんだぞ!それを一興だと!?
ほぅほぅほぅほぅ、うるさかったけどコイツおれの命をほぅ程度にしか考えてないほぅほぅドラゴンか?
……ほぅほぅドラゴンってなんだよ!
『聞きたいことは山程あるんだ。答えてくれるとありがたい。』
『構わぬ。申せ!』
『その前にこの子にもわかるように日本語じゃ無くこっちの世界の言葉で話せないか?』
ホークがおれとドラゴンを交互に見て何を喋ってるのかわかっていない。
一人だけ仲間はずれみたいだ。ドラゴンは頭が良いって聞くからな。きっとジョブラスの言葉も喋れるだろう…。
「よかろう。これでよいか?」
「しゃ、喋った!!!」
「助かるよありがとう。まず最初に聞く。なんでこんな所にドラゴンがいるんだ?」
「妾が何処にいようと妾の自由。そなたに関係なかろう…」
「関係大アリだ!そのせいでおれたちは死にかけたんだぞ!はぐらかさずに答えてもらうぞ!」
「ね、ねぇユウキ?そんな言い方したら…」
「大丈夫だよホークおれに任せておいて。」
「う、うん…」
「どうした?何か答えられない理由でもあるのか?」
「フン!まぁ良い…特別に答えてやろう。」
「そうか、ありがとう。」
よし、ここまではうまくいってる…。
ホークは焦っていたが何故おれがこの敵うはずのないドラゴンに強気で話してるかと言うとこのタイプの性格は引いてしまっては負けだからだ…。
ドラゴンと人間の違いはあるだろうがおれにかかれば大した事じゃない…。
このドラゴンはおれに興味が湧いたと言った。ドラゴンからすればおれたち人間なんてのは基本虫ケラ同然だ。実力の無いおれたちなら尚更だろう…。
そんなおれに興味が湧いたと言ったんだ。だからおれはそこを逆に利用する。
今あのドラゴンは精一杯虚勢を張るおれが可笑しくて仕方ないのだろう…。妾って言ってるし多分メスだ。
人間で例えるとちょっと生意気な男を可愛いと思えるお姉さんタイプだ。その証拠におれのお願いに聞く耳は持ってくれている。
常に下手に出て女王様気分にさせてもらいたいタイプのヒモ男製造女と違い、このタイプにヘラヘラ媚びて下手に出ても逆効果。気持ち悪がられ怪しまれるだけだ。
そして一度興味を無くしたらそれこそ引き返せない。このドラゴンの場合おれたちの命はそこまでだ…。
だけど勘違いしてはいけない。どちらもヒモ男製造女気質ではあるがダメ男好きにも色々種類がある…
このタイプは生意気なだけだとすぐに飽きて終わる。やってくれた事に対してはちゃんと感謝を伝えるのがコツだ。
命綱無しの綱渡り状態なのは変わらないが、後は怒らせないラインと興味を無くされないラインをしっかり見極め、可愛いと思っていられる範囲を行ったり来たりすればいい。
本気を出して相手を誑し込もうとするおれがそのラインを超えたりはしない。
なりきり俳優の人たらし力の本気を見せてやる!
「妾はこの地にて安静を求めた。」
「安静?」
「静かなる場で子を産み、大人しく育てようとしたのだ…。」
「子を産みって…ドラゴンは卵じゃ無いのか?」
「無論妾が産むのは卵だ。もう時期孵る。」
「えっ?もう産んでんのか?それはおめでとう。」
「うむ。しかしそれは叶わなかった…」
「そう言えば全身傷だらけだよな?誰かに見付かって戦ったのか?」
「そうだ。そなたと同じ転生人4人が妾の前に現れたのだ…。」
「ちょ、ちょっと待て!ものすごーく嫌な予感がするぞ…まさかだよな…」
いや、転生人って言ったってきっと他にもいる。人違いだ。そうじゃなきゃトバッチリを受け続けてるおれは怒りが爆発してしまうぞ…
今回はトバッチリなんて生易しいレベルじゃない…言葉通り死にかけたんだからな!
落ち着けおれ…とにかく話を最後まで聞いてみよう…。
「わ、悪い続けてくれ…」
「奴らは妾が消し切ったはずの気配を感じ取ったと言っておった。そして襲ってきたのだ。
産後で体力も無く、弱りきっていた妾ではあの者達を退ける事はできなかったのだ…。」
「それは災難な時に見付かったな…でもなんでそれなら生きてんだ?」
「それは…アイテムボックスに空きが無いと言っておった…」
「は?」
「妾を殺しても王都に持って帰れない、そして後始末をするのも面倒だと途中で戦闘を辞め引き返して行きおった…。
その際にあの男は妾に隷属アイテムを使って行きおった…
うわ、ヤバイ…思い出して怒り始めてんじゃん…これじゃ全て台無しになるぞ…
ってエンシェントドラゴン!?嘘だろ?なんでそんな奴がここにいておれを襲ってくんだよ!どうなってんだよこの世界は!!!
それに隷属アイテム?そんな物がエンシェントドラゴンに効くのか?あっ…産休後で弱ってたって言ってたな…そのせいか?
「お、落ち着けエンシェントドラゴン!話を最後まで聞かせろ!」
「ぬ?あぁ…そうであったな。奴らはこう言い捨てて行きおった…。
僕らは勇者パーティーでありこの世界を救う英雄だ。お前は僕達に協力する義務がある。
勇者パーティーである僕達が呼んだ場合は、いかなる時でもすぐにかけつけろ。
今度ダンジョンに潜る時はお前も連れて行く。
この世界の主人公に生きて協力できる事を感謝しろ…とな…。」
『ピクッ!』
「そして妾はこの隷属化をどうにか解こうとしたが一度かかってしまった物を解くのは妾でも難しい。
我慢も限界に達し咆哮を上げた所にそなた達がいたのだ…。
憂さ晴らしの為一方的に虐殺してやろうと思うたがそなた達は死ななかった。」
「…この世界の主人公だと?勇者パーティーはこの世界の主人公って言ったのか?」
「ゆ、ユウキ…?」
「そう申しておった。」
「ふざんけんなよ!クソ勇者パーティー共があぁぁぁ!!!!!
やっぱりまたお前等かぁぁぁ!!!!!」
あぁヤバイ!おれはアイツらのせいで何回死にそうになればいいんだ?ただでは許さねぇぞ勇者パーティー!地獄を見せてやる…。
「人間の子よ…この転生人はどうしたのだ?」
「あっ、えぇっと…勇者パーティーがユウキの逆鱗に触れちゃった?おれたち勇者パーティーのせいで色々酷い目にあってて…です。」
「ほぅ…」
「この世界の主人公だと?よりにもよっておれがいるこの世界で世界の主人公を語ったのか!?
テメェ等が英雄や主人公を語る事は勝手だが世界の主人公を語る事はおれがぜってぇ許さねぇぞ!!!
その勘違いした性根と考え方はバッキバキに砕いてやる!」
ダメだ怒りで頭が爆発しそうだ……
「エンシェントドラゴン!」
「な、なんだ?」
「おれたちはお互い勇者パーティーの被害者だ。だからおれたちを襲った事は特別に許してやる!
それとおれがその隷属化を解いてやる!だからそれを解いたらおれたちの事は見逃せ!」
「そなたにこれが解けると申すか!?」
「そんな事やってみなきゃわからん!だがおれは転生人だおれに賭けてみろ!」
「フ、フハハハハ…面白い。俄然そなたに興味が湧いてきたぞ。よかろう!ならばこの隷属化を解いてみせよ。そうすればそなた達にもう手は出さんと約束しようぞ。」
「尻尾を出すとかも無しだぞ!攻撃しないと約束しろ!」
「フハハハハ…本当に可笑しき者よ…よかろう!約束しようぞ。」
怒っていながらもおれは助かる為の段取りだけは忘れていない。
エンシェントドラゴンの話を聞いてこれしかないって位の一筋の光明が見えた。
そしておれにはそれを達成できる力が多分ある…。
このエンシェントドラゴンはどうやらおれを気に入る直前にまできている。きっと約束は守るだろう。
「なりきりチェンジ 奴隷!」
「ユウキ!奴隷になったらまた弱くなっちゃうよ!エンシェントドラゴンを前にいいの?」
「大丈夫だよホーク。奴隷はもうマスターしたんだ。ステータスが下がったり行動に制限がかかったりなんてもうしないよ。」
「えっ?そうなの!?」
「そうみたいだ。おれも今知った。ほら命令しなくても普通に喋ってるだろ?」
「あっ!ホントだ!」
「だから心配しないで見てて。」
「…うん。わかった!」
「いくぞ!エンシェントドラゴン!」
「やってみよ。」
頼むぞ…成功してくれよ…。
「下剋上!!!」
おれは奴隷のマスタースキルの下剋上を使った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます