第102話 なりきり師、絶体絶命。
「マップを拡大してと…ホークこれで鉱石が埋まってる大体の場所はわかるか?」
「うん!わかるよ!」
「じゃあこの埋まってる物を傷つけないように少し大きめに周りを丁寧に掘っていって。おれはモンスターが来ないか見張っておくから。」
「わかった!」
マップを目の前の壁だけを表示する位まで拡大したので、マップでモンスターを見付ける事はできない。
ゲームだったら2、3回カンカンって叩いたら発掘できたりするけど現実はそう簡単にはいかないみたいだ…。
『サクッ……サクッ……サクッ……』
ピッケルが壁に刺さる音をBGMにしながら周りを警戒するが特に変わった事は起こらなかった。
『サクッ…パキッ…パキパキ……ゴロゴロ…』
「あっ!ユウキ!周りを掘ってたら落ちちゃった…」
「ん?あぁ大丈夫だよ。その中にあるなら今度はその周りの岩を取り除いていくんだ。
ほらこれを使って!今度は力一杯叩くんじゃ無くて岩を剥がすイメージで叩いてみて。」
「わかった!やってみる!」
マップを元の大きさに戻して周りにモンスターがいない事を確認する。
ホークになりきり鍛冶士のハンマーを渡しそれでさっき掘った岩を更に削って貰うように頼んだ。
ノミやマイナスドライバーがあればもっとよかったんだけどおれは持ってないからな…まぁ他にも見付けてるし失敗しても別にいいだろう。
何事も経験してこそ意味がある。失敗を恐れてたって仕方ないよ。
『カン!!カン…カン! カン…』
「いいぞホーク!その調子だ。」
「う、ん!壊れそうで怖いね…」
「だぁいじょうぶだよ!別に割れたって構わないよ。そうだ!ウォータークリエイト!ホークこの水で余計な泥を洗い落としてみよう。」
「洗うの?」
「うん。泥が固まってたら落ちるし、もし落ちなくても少しは柔らかくなるかもしれないだろ?そうしたらもっと簡単に銀鉱石が取り出せるかもしれないよ!」
「へぇ〜そうなんだ。わかった!」
直径15センチ程になった岩を洗い軽く泥を落としまたホークはハンマーで叩き始めた。
『カン!カン!!』
「あっ!ユウキさっきよりも簡単に削れるようになったよ!」
「よかったな。もう一息だ頑張れ!ホーク。」
「うん!」
ホークが銀鉱石と格闘する事約10分。
「ユウキ!銀色の部分が出てきた!」
「本当だ!頑張ったなホーク!」
「うん!じゃあはいこれユウキに渡しておくね。」
「ん?最後までやらなくていいのか?」
「いいよ。おれたちは他にも一杯取らなきゃいけないでしょ。」
「まぁそうだな。」
「本当は一つに時間をかけてられないのに待っててくれたんでしょ?ありがとうユウキ。だから最後はユウキに任せるよ。」
「そっか…ホークがそれでいいなら後はおれがやるよ。それじゃあ次々行こうか!」
「うん!」
ホークが掘り出してくれた銀鉱石の部分に触れおれは銀鉱石だけをインベントリに入れた。
ホークの言う通りあまり一つに時間をかけていると街に帰るのが遅くなってしまう。
できれば日が暮れる前には帰るつもりなのでここを夕方前には出発したいと思っている。
さっきやったみたいにインベントリに岩ごと入れてしまえば別にここで鉱石を取り出す必要は無い。街でも岩は壊せるからな…。
でもまさかホークから言い出すとは思わなかったな…。
時間が無くなってきたらおれから提案しようと思っていただけに驚いたよ…。
〜3時間後 坑道内〜
「これ位にして帰ろうか。」
「そうだね!ねぇユウキ何個取れたの?」
「全部で18個だよ。中身は開けてみないとわかんないけどな…」
おれたちはあれから奥に埋まっている鉱石はスルーして割と表面上にある鉱石に狙いを定め、さっきと同じように壁から切り離してからインベントリに入れて回った。
そのおかげもあって発掘自体にそれ程時間もかからず短時間で大量に鉱石類を手に入れることができた。
「街に帰ったらおれもまたやっていい?」
「もちろんだよ!逆におれ一人じゃ多すぎてできないよ。ホークにも手伝って貰うから頼んだよ?」
「やった!やるやる!」
「よし!じゃあ今日はもう帰ろう!」
「うん!」
坑道の奥から迷う事なく歩き無事に出口まで戻ってきた。
この辺にもやっぱり盗賊は出るのかな?鉱石狙いの盗賊とかいそうだもんな…出会ったら面倒臭いなぁ……。
ってか何気に盗賊多くないか?街の外ってこんなに盗賊いるもんなの?
「地下労働の後の陽の光は体に染みるなぁ!1日で終わってよかったよ。1050年は耐えられない!」
「何言ってんのユウキ?1050年?それに地下じゃなかったよ?」
「あぁごめんごめん。坑道で仕事したからつい…」
日本でのネタを言ってもこの世界では通用しないんだよな…
そう言う所はちょっとだけ寂しいよな…。
そんなバカな事を言ってるとそれは突然起こった…。
〈ギャオォォォオォォォォ!!!!!〉
突然響き渡る何かの叫び声…恐怖からか全身に力が入り身体が強張り硬直して全く動けない…。
『バタン…』
「ホ……」
おれの横でホークが倒れたが動く事も声をかける事すら全くできない。
なんだよ…なんなんだよこれ……あっ!そう言えばマーガレット所長も確かこんな事があったよな…
確かあの時はキングゴブリンの咆哮を顔を真っ赤にして『ぬん』って言って振り解いてたっけ…
「ん゛……」
ここで諦めるな!早くホークを助けないと!
「……ぬん゛!はぁはぁ…できた!」
息を止めて力を込めすぎて頭がフラフラする…だけどそんな事言ってる場合じゃない!
「ホーク!ホーク!大丈夫か?ハイヒール!」
「………」
ダメだ完全に気絶してる…。
恐らく気絶してから倒れたんだろう…顔面から地面にぶつかったんだと思う。ホークのおでこと鼻からは血が出ていた…。
ハイヒールで血は止まったがとにかくホークを起こさないと……そうだ!
「リカバリーフィールド!」
今は周りなんて関係無い。例え誰かに見られたとしても今はホークの回復が最優先だ…。
それにあの咆哮を近くで聞いてて平気で立ってられる奴がもしいるならおれが動いてる時点で怪しまれるだろうからな…。
「ん…んん…」
「ホーク!ホーク!!」
「ん?ユウキどうしたの顔真っ赤だよ?あれ?おれ寝てたの?」
「はぁ…よかった…。ホークどっか痛い所とか変な所は無いか?」
「うん大丈夫だよ!それよりユウキ?ここでそのスキル使ってもいいの?」
「そんなのは今は気にしなくていいんだよ。とりあえずここを急いで離れるぞ!」
「? わかった。」
「ミラージュバリア!」
ミラージュバリアを使い少しでも隠れながら移動できるように細工をする。
またいつ同じように咆哮がくるかわからない…急いでこの場を離れないと…
一体何者だ?正体は気になるけどとにかくあれはヤバイ。叫び声だけで敵わないと確信ができる。本体に会ってしまう前に逃げないと会ったら死ぬ…
「ねぇユウキ何があったの?」
「説明はあとでちゃんとするから今は走れ!」
「ごめん…わかった。」
気絶してたホークには何が何だか分からない状況だろう…キツイ言い方をしてしまったが今は説明してる余裕なんてない。
生きて帰れたら後で謝ろう…。
「ミラージュバリア!」
くっそ…こんな事ならおれも気絶したかった…まるで生きた心地がしない…。
中途半端に意識を保ったせいでここら一帯のフィールドが物凄く怖い…。
【完全鑑定阻害が発動しました】
「「!!!」」
鑑定された!?ヤバイ!!!
「ホーク耳を塞げ!」
「えっ?うん!」
「リカバリーフィールド!」
〈ギャオォォォオォォォォ!!!!!〉
リカバリーフィールドは消えないように集中して力を込めていたので大丈夫だったがミラージュバリアはかき消されてしまった…。
おいおいおいおい…ふざけんなよ!絶対にそれはまだ早いだろ…
『ドーーーン!!!』
おれたちの前に一体の傷だらけのドラゴンが空から降りてきた…。
そして…
「ホーク!しゃがんで丸くなれ!早く!」
返事をする事もなくホークは身をかがめてくれた。
「防温結界!バリアー!ディフェンシブ!レジスティー!防御上昇!ビッグシールド!肩代わり!」
重戦士の盾と戦士の盾を取り出し、ありったけの防御技を使いホークの上から覆いかぶさる。
ドラゴンはここへ降り立ったと同時にブレスを吐こうとしていた…。
これだけでしのぎ切れるのかは全く自身が無いがホークだけは守ってみせる。
〈ゴオォォォ…!!〉
「なりきりチェンジ 空間支配者 ブリザードドーム!」
足りない…直感ですぐにわかった。最後の悪あがきとして空間支配者に転職してファンネルの分も合わせ3つ重ねたブリザードドームをおれとホークがいるこの場所に向かって撃った…。
『ブォン!バゴン!パリン!』
おれの防御技が壊されるのがわかる。そしてそのままおれたちは炎に包まれてしまった…。
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