第97話 なりきり師、驚かす。

 〜犯人の女〜



「はぁ…はぁ…はぁ……」


 冗談じゃないわ!あのクソガキ共…

 ギルドと警備隊に通報するですって?ふざけんじゃないわよ!


 後1日よ!後1日であたしの完璧な計画が達成するって言うのにこんな所で邪魔されてたまるもんか!!!


 とにかくこれを早く処分しないと!家探しなんかされたら計画が全部壊れちゃうじゃないの!!



「ヒュー…スゥー…ヒュー…スゥー……」


 なんで私が走らなきゃいけないのよ!それもこれも全部あのクソガキ共のせいよ!!!


 情報を喋ったって奴と一緒に絶対探し出して殺してやるわ!!!

 私が頼めば言う事を聞く男なんて五万といるんだから!

 私を怒らせた事を地獄で懺悔なさい!!!



「コォー…コォー…」








 〜ユウキ&ホーク〜



「おっそ…あれで走ってるつもりなのか?」


「歩いてるのに追いついちゃうね…」


 それもそのはず10メートル程を物凄く遅いペースで進んだかと思ったらすぐに休憩するんだ…。


 その度に息遣いが荒くなるのだがあれ普段どうやって生活してるんだ?

 何もしなくても死ぬんじゃないかあれ…



「あそこまでして何処かに持っていくって相当返したくないんだな…」


 マップに映る☆もあの豚女と一緒に移動してる。



「どんなネックレスなんだろうね?」


「わかんない。そもそもあの首の太さでネックレスなんてつけれないだろ…自殺志願者か?」


 見た目だけで言うと300キロ以上はありそうだ…。仰天映像とかでみる外人の太った人よりでかいんじゃないか?



「あっ、また止まっちゃった…」


「ちょっと泳がせて何をするつもりなのかを調べようかと思ってたけどもういっか…。腹も減ってきたしさっさと取り返そうか。」


「そうだね。なんか飽きてきたし…」


「さぁ覚悟しろ豚女。お仕置きの時間だ…。」







 〜犯人の女〜



「カハァー…カハァー…やっと…ングッ…ついたわ…カハァー…」


 どんだけ遠いのよ!200メートル近くも走ったじゃないの!ここ10年で1番走ったわ!!はぁーお腹すいた!


 でも後はこれを投げてしまえば証拠隠滅は完了よ!

 本当ならこんな所まで来たくなかったわ。こんな物家から投げ捨てたかった…

 でも万が一あの女の手元に戻ったら最悪!だから私は下水に捨てるの!


 美しいだけでなく頭もいい私は自分でも惚れ惚れするほど完璧な女ね。これで計画は100%成功よ!



「そこのピンクの服を着た豚女止まりなさ〜い!環境破壊の現行犯で逮捕しまーす!」


 辺りは真っ暗で私の持ってる灯りの魔道具以外に光はない。他に誰もいないのに声だけが聞こえてきた。



「誰が豚女よ!!!出てこい無礼者!!!」


 一体何処の誰よ!私を侮辱するなんて頭おかしいんじゃないの!?








 〜ユウキ&ホーク〜



「何してんのユウキ?」


「ん?お仕置きの準備だよ。演出はもう思い付いたんだ!ホークも手伝ってね。」


「えっ!おれも?う〜んそれはいいけど…おれもそれ塗るの?」


「もちろん塗るよ。大丈夫!ちゃんと後でクリーンしてあげるから少しの間汚れるだけだよ。」


 おれはお仕置きの準備として前に買っておいたトマトに似たトマーと言う真っ赤な野菜を潰し顔に塗りたくっていた。

 

 辺りは日本の都会では考えられない程真っ暗だ。家の中から漏れる光はあるがそれも薄っすらとしかない。


 ホラー演出にはピッタリのロケーションだ。これだけ暗いなら血に見えなくもないだろう…。


 目一杯怖がってもらおうじゃないか…。



「さっ、ホークも塗るよ!」


「うん…わかった。」


 ホークの顔にも塗って他の準備もして準備万端だ。日本とはレベルの違うスキルを使ったドッキリの始まりだ!






「そこのピンクの服を着た豚女止まりなさ〜い!環境破壊の現行犯で逮捕しまーす!」


「誰が豚女よ!!!出てこい無礼者!!!」



『コツ…コツ…コツ…コツ……』



 姿は見えないけど足音は聞こえてるだろう。



「誰よ!!!」


「返せー!返せー!」


 ホークの棒読み感は否めないがまぁ許容範囲内だ。大丈夫!



「返せ?私は何も取ってないわよ!変な言いがかりつけてんじゃないわよ!出てきなさい!!!」


 豚女はキョロキョロしながらも強気だ。その強がりは何時まで持つかな…


 探しったって見付からないのは当然だ。おれのミラージュバリアを使ってるんだから…。

 だけどホークはもう豚女の5メートル位の所にいる。お望み通り姿を見せてやろう。


 ミラージュバリア解除!



「返せー!」


「アンタね!あたしに豚女なんていっ…イヤー!」


 自分の持ってる灯りを使いホークの姿を見てしまったんだろう…。

 頭から血を流し自分に近付いてくるホークを…。


 驚いた拍子に持っていた灯りの魔道具も投げ飛ばしてしまったようだ。


 おっ、コイツは逃げるタイプの奴だったか…。これだけ強気だから向かって行くタイプと迷ってたんだよな…。


 まぁどっちもさせないけどね……



「な、何よこれ!動けないじゃないの!」


 当たり前だ!豚女の足元にはインベントリから出したリトルデススパイダーのベタベタ糸を仕掛けた。

 ギルマス達でさえ苦労してた糸だぞ…引っかかったらお前みたいなデブが動けるわけないだろ…。



「返せー!」


「来るな!どっか行けー!」


「ミラージュバリア」


 おれはまたミラージュバリアでホークの姿を消した。


 おれが何故こんなに堂々とスキルを使っているのか…それは見付からないからだ。


 おれは今空間支配者に転職しファンネルを使い空にいる。シルバさんの真似をして黒いマントで夜に紛れている。


 昨日ホークに言われて気になっていた空間支配者で空を飛ぶ方法を試してみたらできたんだ。


 よ〜しここからはおれの出番だ!



「何処よ!何処に行ったのよ!」


 お前がどっか行けって言ったんだろーが!バカなのかコイツ…


 おれはファンネルの中心の穴に足を入れ逆さまになる。


 ミラージュバリアで結界を張ったのはなにもホークだけの話じゃない。

 今回は空にも伸ばすかなり歪な形のミラージュバリアを作った。

 ホークを隠しつつ豚女の1メートル前までをミラージュバリアで囲い地上からちょうど豚女の顔の前の高さまでの部分を削りとる。

 後は空までの道を作って完成だ。



「さてと仕上げをするか。」


 おれはそのままファンネルで逆さまに降下する。



「ライトボール」


 淡く光るように魔力を抑えた生活魔法のライトボールを地上に数個作り出し若干の明るさを作る。



「な、何よこれ!なんで明るくなるのよ!!!」


 それにしてもなんでこの豚女常に怒ってんの?まぁいいや…


 ミラージュバリアを削った部分から逆さまに顔だけを出し豚女の前に出る。


 豚女から見たら急に目の前に逆さまの血塗れの生首が出てきたように見えるだろう。



「ネックレスかえせぇぇぇぇ〜!!!!アヒャヒャヒャヒャ……」


「ギャアァァァ!ブクブブブ……」


 あ〜あ…気絶しちゃった…まだやりたい事一杯あったのに……



「(なりきりチェンジ 戦士 ミラージュバリア解除)」


 おれは小声で全てをスキルを使い元に戻した。



「ホークこっちおいで!クリーン。」


 血糊変わりに使ったトマーもきれいにしてリトルデススパイダーの糸も回収する。落ちているネックレスも回収した。


 これで誰かに見付かっても第一発見者を装える。


 ただ一人を除けばだけど……



「ったく本当にお前らめちゃくちゃしやがって…女にも容赦ないんだなお前…」


「おれは基本男でも女でもそれ以外でも太ってても痩せててもブスでもハゲでも普通に接しますよ!

でもそれは普通の相手ならです!敵になれば話は別です子供にだって容赦はしません。

元はと言えばこの豚女が悪いんですよ。おれたちに暴言なんか浴びせるからこんな事になるんです。


それよりなんですかその姿…。」


 おれたちの前に現れたのは一人の少女だ。だけど明らかにギルマスの喋り方をしてるしマーキングもこの子を指してる。

 ギルマスが魔道具かスキルで変身してるんだろう…。



「目立たないように魔道具で変装してんだよ。おれが歩いてると目立つからな。ユウキ、ホークちょっとしゃがめ。」


 歩いてるんじゃなくておれたちをずっと見張ってたんだろ!その姿でだって目立ってたと思うぞ?


 ホークと顔を見合わせ言われた通りにしゃがんだ。



『ゴチーーーン!!!』



「「いってぇ!!!」」


 ギルマスはおれたちにゲンコツしてきた。



「いきなりなにするんですか!」


「やり過ぎだバカ!くだらねぇ事にスキル使ってんじゃねぇぞ!

いつの間にかおれも知らない使い方してるし…お前ら何考えてんだよ!」


「なんでおれまで……」


「今回はホークお前もやってだだろうが…全部見てたんだからな!」


「そんなぁ…もう!ユウキのせいでおれまでゲンコツされちゃったじゃないか!」


「おれのせいじゃないだろ!ゲンコツするギルマスが悪いんだよ!それにおれだってやられたんだぞ!理不尽に殴られたのはおれも一緒だよ!」


「おれが悪いわけねぇだろ!大人が悪い事をしたガキを叱るのは当然だろ。理不尽でもなんでもねぇよ!

おーい!起きろ!大丈夫かぁ?」


 それを理不尽って言うんだよ!おれたちは悪い事をしたんじゃない!仕返しをしただけだ!

 勘違いで殴られたなんて理不尽以外のなにものでもないぞ!



「ん…んん……」


「おーい!起きたか?」


 豚女を起こしてどうすんだよ…ソイツと関わってもいい事ないぞ…



「だ、誰よアンタ!生首は何処行ったのよ!」


「生首?何言ってんだ?」


「あ!クソガキ共…」


 おれの持ってるネックレスを見付けたようだ…



「私のネックレスを返せ!アンタもボーッとしてないで取り返しに行きなさいよ!!!」


「は?」


「いやこれお前のじゃないだろ…外見と中身だけに飽き足らず頭まで悪いのか?」


「何意味分かんない事言ってんのよ!いいからさっさと返しなさいよ!」


 意味がわからない?懇切丁寧に言ってんのになんで理解できないんだ?



「アンタ達こんな事してのうのうと生きて行けると思わない事ね!

私が裏の人間に頼んで殺してやるから!!!」


 あ〜あ自分から地雷踏んじゃったよ…ご愁傷様です。



「ソイツは看過できねぇ発言だな…」


「は?アンタには関係ないでしょ!アンタも殺されたいの!?」


 終わった…完璧に終わった。



「んじゃ、ギルマス後は任せました。あ〜おれたちにゲンコツした事の謝罪は明日でいいですからね。行こうホーク。」


「あっ、うん。じゃあねギルマス!また明日。」


「は?ギルマス?どう言う事よ!この街のギルドマスターは男よ!ちょっと待ちなさいよ!!!ネックレス返しなさいよ!泥棒ー!」


「待つのはお前だ!一緒に来てもらうぞ!」


 振り返って見なかったが声が何時ものギルマスに戻っていた。

 魔道具の発動を止めたのだろう…


 さて、おれたちはこのネックレスをチェリッシュさんに届けて依頼を達成しますか…



「あっ!」


「どうしたの?」


「おれたちそう言えば肝心のチェリッシュさんの居場所を知らないや…」


「そう言えばそうだね…」


「はぁ…もう終わって帰れると思ったのに…また調べないといけないじゃねーかよ!」


 依頼が達成されるのはもう少し後の事だった…。

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