第92話 なりきり師、盗賊退治。

「ホークそろそろだぞ?準備しとけよ?」


「わかってる。ちゃんとマップ見てるよ!」


 全部で盗賊は7人。その内2人はおれたちの後ろに大回りして待機を始めた。

 アイツらは遠距離攻撃ができるのかな?



「はぁ、どうやら良心はなさそうだな…はぁ〜あ戦わないとダメか…」


「いいよユウキ無理しないで。代わりにおれが頑張るからさ!」


 ホークの言葉はありがたいがそうも言ってられない。おれも覚悟を決めないとな……。



「おうおうおう小僧共!死にたく無かったら金出しな!」


 話しかけてきたのはリーダーかな?剣を持ってる。他のメンツは槍が2人に斧が1人そして爪を付けた女が1人いる。

 おれたちをただのガキだと思って完全に油断してるな…リーダー以外武器を構えてすらいない。



「だ、誰ですかあなた達…えっ、お金?」


「おれらはここら一帯で盗賊やってんだ!ママに習わなかったのか?盗賊には金を渡すんだよ!」


「で、でも僕達お金なんて持ってません!今日全財産使ってやっと冒険者になったばかりなんです…」


「なんだ金持ってねぇのか?」


「はい…」


「そうか…それなら仕方ねぇな……行っていいぞ。」


「本当ですか?あ、ありがとうございます!」


「ありがとうございます!」


「行こう!」


「うん!」


「地獄にな!!死ねぇ!!!」


「ビッグシールド!本当に救いようが無いな…」


 はぁ、盗賊に良心を期待したおれがバカだった…


 こんな弱そうな子になりきっても殺そうとするんだ…皆から嫌われて当然だな……。



「な、なにぃ!おいお前ら…」


「遅い!」


 ホークがリーダーの首を跳ね飛ばした……リーダーかわかんないけど…

 グロ耐性は日本で持ってたつもりだけど生で現物を見るとキッツいな…

 これに慣れるのいつになるんだろ…そうだ!もうこうなったら開き直って殺戮者の役を演じよう!その方が気が楽だ…。



【アーチャーの熟練度が2に上がりました】

【スキル 豪弓ごうきゅうを覚えました】


【アーチャーの熟練度が3に上がりました】

【スキル 疾弓しっきゅうを覚えました】



 うわっ!盗賊倒して熟練度上がっちゃったよ…熟練度ってモンスター以外でも上がるの?知りたくなかった情報だよそれ…



「「「「リーダー!」」」」


 あっ、やっぱリーダーだったんだ?鑑定もしてなかったから確信できなかったんだよね。


 って事で鑑定しとこうかな?



「(鑑定)」



ソウロ


36歳


盗賊


レベル22


HP736

MP53

攻撃121



 あぁやめやめ!見る価値無いなこれ。他の奴も似たようなステータスだし負ける理由が見付からない。



「ホークこっちの4人を5秒だけ相手してて。あの2人片付けちゃうから。あっ、そいつら雑魚だから大丈夫だよ!」


「わかった!」


「さて、隠れてるつもりだろうけどわかるんだよなぁ…ライトニングボルト!ライトニングボルト!」



【アーチャーの熟練度が4に上がりました】

【スキル チャージショットを覚えました】



 初めて人を殺した。殺してしまった。それも呆気なくなんの感情も持たないようにして…


 でもそうしないと殺されてたのはおれたちだ。先に殺そうとしてきたのは盗賊だ!


 仕方無い…仕方無かったんだ……。



「ヒ、ヒィ…ば、化け物!」


「お、おい!逃げるぞ!」


「おいおい失礼な事言うなよ!おれに失礼だろ!バインドプラント!」


 逃すわけがない。コイツらはおれが魔法を使ってる所を見てる。ホークは他の2人を相手してくれてる。


 じゃあおれは残りの2人だな。バインドプラントを使い誰一人逃さずに捕まえる。



「た、助けてくれ!」


「なんでも言う事を聞く!金もやる!奴隷にだってなるから!命だけは…」


「勝手な事をほざくな。テメェらが仕掛けてきたんだろうが!今までそう言う命乞いをした人を何人殺したんだ?一人でも助けたのか?あぁ?」


「お願いしますお願いしますお願いしますお願いします……」


「すいませんすいませんすいませんすいませんすいません……」


「ダーメ♪ 死ね」


 盗賊達の命乞いに耳を貸さずおれは弓矢で頭を打ち抜いた。



【アーチャーの熟練度が5に上がりました】

【スキル 乱れ打ちを覚えました】



 どうやらホークの方も終わってたみたいでおれの方に来てくれた…。

 これでおれたちの初めての盗賊退治は終わった。



「ユウキ、大丈夫?」


「……だ、大丈夫だよ!それよりホーク4人も一気に相手させちゃって悪かったな…」


「おれの前で嘘つかないでよ!強がんなくていいよ!」


「ば、バカだなホーク…嘘なんてついてないよ…。」


「じゃあなんで泣いてるの?」


「泣いてない…泣いてなんか…うぅ……」


 心が壊れそうだ…人を殺した罪悪感、盗賊達の命乞い、本物の化け物を見るような怯えた目、上がってしまう熟練度、全部がおれにのしかかる。



「頑張ったねユウキ。これで殺される人が少しでも減るといいね。」


「ゔん…」


 生きてきた長さが倍以上の年上のはずのおれがホークに頭を撫でられて励まされる。



「ユウキが辛い想いをした分きっと誰かの命を救えたんだよ。」


「ゔん……」


「きっとこれからもこの世界で生きていくには盗賊を殺さないといけない時がくるんだろうね。

だから今は一杯泣いてもいいよ。次立ち上がる為ならいくらでも胸を貸すよ。」


「ホーグぅ……うわぁぁぁ………おで人を殺しぢゃっだよぉ……」


「うん。」


「助げてって言っでだのに…殺じたんだよぉ…」


「おれもだよ。」


「うあぁぁぁぁ…」


 抑えていたはずの感情が止まらなかった。ホークだって初めて人を殺したのにおれのせいで気持ちを整理させてあげる事もできなかった。

 でもわかっていてもおれは涙を止められなかった。





 〜10分後〜



「ユウキ落ち着いた?」


「ごめんホーク…おれの心が弱いせいで手間かけちゃって…」


「手間だなんて思って無いよ。ユウキは優しいからこうなるんじゃ無いかなって少し思ってたんだ…。」


「おれはそんな人間じゃないよ。もう人だって殺した…殺しちゃたんだ……。」


「優しいから殺したんだよ。嫌な事から逃げなかったユウキをおれは尊敬するよ!」


「ホーク…」


「前世の記憶で殺しはダメだったんでしょ?それを曲げてまでこの世界の常識を受け入れてくれたユウキは凄いと思う!」


「…ありがとう……。」


 ダメだまた泣きそうになった…。ここで泣いちゃダメだ!



「さっ、じゃあ帰ろっか!」


「そうだな。でもその前に…シルバさーん!いるんでしょー?隠れてないで出てきてくださーい!」


 おれは空に向かって手を振って大声で叫んだ。聞こえなくても見てるだろう…


 きっと、いや絶対にいるはずだ。マップには映ってないが見てないはずがない。



「えっ?あっ!」


 どうやらホークも気付いたようだ。マップにマーキングの印が現れた。



「全く、君の勘の良さには本当に驚かされるよ…いつから気付いてたんだい?」


 空と同じ色の布を被ったシルバさんが空からシャドーソードに乗って降りてきた。



「最初からですかね?シルバさんがギルドで盗賊を殺してから見てなかったですし、おれたちが盗賊を見付けるって言ってたのにギルドが見張りを付けないはずがないですから。

ギルマスに誘導された感もありましたし…。

もしおれたちが殺せなかった時はシルバさんが殺すつもりだったんでしょ?

ギルドはみすみす盗賊を逃がすつもりは無いでしょうからね…。」


「ハハハ…そこまでお見通しだとは思わなかったよ…それにアサシンとして動いていて見付かったのも君が初めてだ。本当に末恐ろしい子だ…」


「やめてください。普通の子です。それよりこの盗賊達をどうすればいいか教えて下さい。」


「これはギルドで買い取るよ。悪いけど君のインベントリに入れてギルドまで持ってきてくれるかい?」


「わかりました。あっ、ちょっと待って下さいね…なりきりチェンジ マッパー マップ内検索 盗賊」


 うん、さっきとさほど動いてないな。



「転写」


 なりきりマッパーのノートにマップを書き写し一枚破ってシルバさんに渡す。



「これが残りの盗賊達です。後は任せました。おれたちはもう帰ります…。」


「話が早くて助かるよありがとう。それじゃあ気を付けて帰ってね。」


 そう言ってシルバさんは空へと消えていった。



「帰ろうホーク。」


「そうだね!」


 インベントリに盗賊7人を入れておれたちはメルメルの街に帰った。

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