第89話 なりきり師、モヤモヤする。
あれ?街中って言うより…これって……
「ユウキ、盗賊いた?」
パーティーマップは今は使ってないのでホークも結果は知らない。
「あ〜うん…いる事は…いるなぁ……」
「ユウキ君、マップは今現在いるこの街の物だね?と、言う事は街の中に盗賊がいるんだね?」
詳しい事は何も言ってないのにそこまでわかっちゃうんだ…
「街の中って言うか…その〜…多分ギルドの中にいますよ?」
「なんだと!?それは本当かユウキ!」
「あっ、はい。ちょっと待って下さいね…。マップを拡大してっと…これは受付辺りかな?その近くに3人いますね…。」
「シルバ!」
「はい!」
えっ、なに?慌てて出ていったけど…まさか!
「ギ、ギルマス?まさかとは思いますけどシルバさんって…」
「もちろん駆除に行かせた。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!おれがいるって言っただけで殺すなんて…間違いの可能性だって…」
椅子から立ち上がりギルマスに抗議を入れる。
「ユウキ、おれはこの目でお前のそのスキルを何度も見ているし信用もしている。
それに間違いなんて起こらない事は自分が一番知っているんじゃないのか?」
「それは…」
「それにシルバは鑑定が使える。盗賊がいるにしろいないにしろ自分で鑑定するさ。」
「そんな…」
おれのあの一言のせいで人が死ぬ…?
「あっ…」
マップから3つの☆が消えた…
『キャーー!!!』
その瞬間女の人の叫び声がここまで聞こえてきた…。
「お前達はここにいろ。情報提供感謝する。後始末をしてくる…」
おれの肩にポンと手をやりそのまま出ていくギルマス。おれは力無く地面へと崩れ落ちてしまった…。
「ユウキ!!!」
「大丈夫…少し力が抜けちゃっただけ。はぁ、さっきは一人でも依頼受けるなんて言ってたのにこのザマだ…情けないなおれ…」
「そんなことないよ…。ごめんね、おれが聞いちゃったせいで…」
「ホークは悪くないよ。おれの心の準備ができてなかっただけだよ。
話の流れからこうなる可能性は考えられたのに何も考えないで答えちゃったおれが悪いよ。」
「ユウキ…」
「はぁ〜あ…前の世界とこの世界の常識がかけ離れ過ぎてカルチャーショック受けちゃったよ…」
「うん、おれも村と違ってビックリした。ユウキ、とりあえず椅子に座ろう。」
「あぁ…」
椅子に改めて座りおれたちは無言のままギルマスを待った。
「待たせたな。まさかギルドにまで潜り込んでるとは思わなかった。助かったよ。これは報酬の10万プライだ。」
報酬と言って10万プライを机に置きギルマスは何事も無かったかのように至って普通に話してくる…。
「…殺したんですよね?」
「そうだ。」
「他に選択肢は無かったんですか?」
「そうだ。」
「…その盗賊は知ってる冒険者でしたか?」
「知ってる盗賊だった。」
たとえ顔見知りでも盗賊に落ちてしまえば容赦は無しか…なんだか悲しいな…。
「はぁ…ユウキ、さっきも言ったが賊に情けをかけるな。もしホークが襲われて殺されそうな時にお前は賊に情けをかけて殺されそうなホークを前に許すのか?」
「それは……いえ、それは許しません。絶対に。」
「ホーク、お前はユウキが捕まってしまって相手を殺さなきゃユウキが殺される。そんな時でも相手を殺さないのか?」
「…ううん、ユウキが殺されるならおれは間違いなく相手を殺すと思う。」
「その時のお前らと、今のおれらは何が違う?」
「「………」」
「答えられねぇよな。どこも違わねぇんだからな。襲われてから防ぐか、襲われる前に未然に防ぐか。どちらが賢い選択なのかお前らならわかるよな?」
それは頭では理解できる。だけど心が追い付かない。
「それは……でも、だとしても殺すってなると理屈じゃないじゃないですか!もっとこう人として道徳的な物があるじゃないですか!」
ギルマスの話をどこかで納得してしまう自分がいて凄く気分がモヤモヤする…
「先に非道な事をしたから奴らは盗賊になってるんだ。
いいか二人共、普通の人間は人を殺さない。そして自分達の為なら平気で人を殺し、奪うそれが盗賊だ。それはもうモンスターと違いはない。生かしておく価値がある奴はいねぇ。
ここまで言ってまだおれの言ってる事が嘘だと思うならさっき言ってたように自分で確かめてみろ。
2人だけでクルーシェの街の方に向かって堂々と歩いていればその内嫌でも襲って来るだろうよ。
そのかわり奴らは本気で殺しにかかってくるぞ。そうなればその甘い考えも捨てれるだろうよ…。」
「わかりましたよ!元々そのつもりでしたから探しに行きますよ!行けばいいんでしょう!なりきりチェンジ 戦士!行こうホーク!」
「あっ、ユウキ、待ってよ!」
「盗賊の討伐部位は首より上だぞちゃんと持って帰って来いよ。それとさっきの報酬忘れてるぞ!」
「っツ…いりませんよ!!!」
無性にイラついてしまいついギルマスに八つ当たりして部屋を飛び出した。
「アイツらは優しすぎるんだよな…。はぁあ、本当嫌な役回りだよ…」
〜ギルドエントランス〜
『聞いた?光影の土って全員盗賊だったんだって!』
『さっきギルドで盗賊が駆除されたんでしょ?よかったわよね。』
『あれ誰のスキルなんだろうな?首をスパッと斬ってたぜ!』
『盗賊だったんだろ?それなのにギルドにいるとかバカだなアイツら…』
『買取所のシルバが鑑定してたよな?あの人鑑定持ちだから間違いねぇんだろうな。』
なんだこのムナクソ悪い会話は…
3人も目の前で死んでるのに誰も動揺してないし本当に誰一人として盗賊を人間扱いしてない…。
それどころか盗賊だから死んで当然みたいな会話をしてる…
この考えはギルマスやシルバさん達だけじゃない…
そりゃ盗賊は悪い人達だし漫画でも普通に殺されてたりするけどここまで毛嫌いされるのか?
この世界に居続けたらおれもそんな風になっちゃうのか…?
「ユウキさん!」
「あ゛ぁ゛ん゛!?」
「ヒッ…」
突然後ろから声をかけられ感情のまま返事をしてしまった。
「あっ、ごめんなさいサナさん…ついイライラしてて…どうしましたか?」
「ごめんなさい。サナさん!」
「い、いえ…私の方こそ急にすいません。姿が見えたので声をかけさせていただきました。
実は先程ここで盗賊が討伐されたのですがご存知でしょうか?」
「…知ってます。」
「そうでしたか。失礼しました。ユウキさん、ホークさんお二人も盗賊には気を付けてくださいね。」
「サナさん、サナさんにとって盗賊ってどんな存在ですか?」
「そうですね…私達のように戦えない職業の人間からすると盗賊はモンスターよりも怖い存在です…。
この辺にいるモンスターと違い知恵もありますし常に集団でいて躊躇いもなく非道行為をしてくる…そんな存在ですね。女である私達からすればただ殺されるだけでなく…」
「あっ、それ以上は大丈夫です。嫌な事聞いてすいません。」
「いえ、ご配慮ありがとうございます。」
女のサナさんに言わせるような内容じゃ無かったな…
「サナさん、盗賊ってそんなに一杯いるの?」
「そうですね、悲しい現実ですがそれなりの数はいます。
ギルドでも討伐はしてるのですが増える方が多くて……
中でも自ら望んで盗賊になる連中もいて街の住人も困ってるんですよ。」
「自分から盗賊になる人もいるんですか!?」
「はい。盗賊に憧れを持っているといいますか…自由に生きたい、好きに生きたいと思って盗賊になるらしいですよ。盗賊になったらそれこそ終わりなのに…」
どうやらこの世界にも悪い方がカッコいいと思ってる連中もいるようだ。
いつ殺されるかわからない盗賊に憧れるなんて何を考えてるんだ…
「そうですか…」
「ユウキさん、ホークさん、盗賊退治に行かれるんですか?」
「えっ?なんでそれを…?」
「私はあなた達の担当受付ですから!…ってのは冗談でこれをどうぞ。あなた達の新しい冒険者プレートです。
この赤のプレートから盗賊退治の依頼が受けられるようになります。
あなた達なら受けてくれるんじゃないかなって思ったんです…。」
「……サナさんも盗賊は死んで当然って思いますか?」
「難しい質問ですね…。それは中堅冒険者がぶつかる壁でもあります。
ただ私が思うのは死んで当然と言うより居てもらっては困ると言った方が正しいかもしれません。」
「居てもらっては困る?」
「はい、盗賊は誰彼構わず殺してどれだけ少なくても金品を奪います。それは子供も例外ではありません。
盗賊が居るだけで平穏な暮らしができなくなるんです。
そんな盗賊ですから居てもらっては困るんです。誰だって怯える事無く安全に暮らしたいですからね…。
ユウキさん、ホークさん盗賊退治の依頼を受けてくれるならこの街の住人の為にもよろしくお願いします。」
この件に関しては冒険者じゃないサナさんの言葉はギルマスの言葉より重い…
戦う術がない人からすれば盗賊がいると安心して暮らせないんだ…
「あ〜えっと…と、とにかく行ってきますね!また来ます!行こうホーク。」
「あっ、うん。」
逃げるようにしてギルドから出た。まだ気持ちの整理がつかない…
はぁ、魔王だけでも大変なのに盗賊にまで頭を悩まされる事になるなんてな…
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