第88話 なりきり師、依頼を受ける。

「何でDランクなんだろうな…?」


「おれたちが頑張ったからじゃない?で、きっとギルマスが特別に上げてくれたんだよ。」


「んな事あるかぁ?Eランクに飛び級するだけでも珍しいはずなのに3つも一気にランクが上がるとか怪しすぎるよ…」


「ん〜まぁいいんじゃない?選べる依頼が増えるんだし。お金も稼ぎやすくなるよ?」


「スキルの書を売るからお金は別に気にしなくていいんだよな…それに依頼じゃ無くても素材は買い取ってもらえるし…。」


 何か裏があるなこれは…カマをかけて聞き出すか、今からでもギルマスを追いかけてEランクにしてもらおうかな……。



『ガチャリ…』



 おっと手遅れか…ギルマスが帰ってきたぞ。それなら…



「待たせたな。問題無く手続きするように言ってきたぞ。よかったなこれで晴れてDランクだ。」


「一体何を企んでるんですか?」


「ん?何の話しだ?」


「白々しい…何か理由がなきゃいきなりDランクになんてする訳ないでしょ。それ位おれたちだってわかりますよ。なっ、ホーク?」


「えっ、あ、うん!」


 理由まではわからないが、また何かに巻き込まれそうな気はする…。



「別に何も企んでなんてねぇよ。ギルドとしての正当な判断だ。気にするな。」


 怪しい…怪しすぎる……。まぁさっきDランクになる説明もするって言ってたし今は大人しく聞いておくか……。



「はぁ…まぁいいです。Dランクの説明とDランクに上がった理由を教えて下さい。」


「それならまずはDランクの説明からだな。Dランクと言えば新人冒険者を抜け出した中堅冒険者って位置づけだな。」


「ちょっと待ってください!おれたちまだ冒険者登録して1ヶ月も経ってないんですよ?いきなり中堅っていいんですか?」


「話の腰を折るなよ!おれがいいっつってんだからいいんだよ!」


 えぇ…こんな所でジャイ○ニズム発揮されても困るんだけど……そう言えばこの人その傾向強かったな…



「そして中堅冒険者であるDランクから受けられるようになる依頼があるんだ。」


 おや?おやおや?まさかその依頼を受けさせる為にDランクまで上げたのか?でも面倒そうなら受けないぞ?



「それが盗賊退治依頼だ。」


「「盗賊退治依頼?」」


「そう。言葉の通り盗賊を退治する依頼だな。これをお前達に受けてもらいたい。」


 異世界ならではでの定番だな…日本に盗賊いなかったし…



「盗賊を退治ってどうするんですか?追い払うんですか?」


「何甘い事言ってんだよ!追い払った程度で退治なんて言うか!盗賊は見つけ次第殺すんだよ!」


 えっ?何そのバイオレンスな展開…普通に殺人じゃん…命軽すぎだろこの世界…。



「おれたちに殺人をしろって言ってるんですか?」


「殺人じゃねぇ!盗賊退治だ!殺人をするのは盗賊の方だ!それを防ぐためにおれらは盗賊を殺すんだよ!」


「一緒じゃん…」


「一緒じゃねぇよ!お前達盗賊を見た事はあるか?」


「無いです。」


「うん、無い。」


 リーイン村には盗賊なんていなかったもんな…



「だからそんな平和ボケした事が言えるんだよ。実際に盗賊だけじゃない。賊と言われてる連中は誰かしらを殺したり、略奪したりしてる連中だ。

生きてるだけで周りに迷惑をかける存在だ。わかるか?」


 平和ボケか…なんかよく日本人は平和ボケしてるなんて海外の人達は言ってるみたいだけど、平和な日本で育ったおれにはそれが普通なんだよな…

 まさか異世界に来てまで言われるとは…ってか地球の海外より異世界の方が危険か…


 ギルマスが言ってる事はなんとなく理解できる…ん〜でも人殺しか…やだなぁ……



「言わんとしてる事はわかります。でもおれは実際に迷惑かけられてないし…」


「人殺しはちょっとね…」


 ホークも嫌みたいだな…そりゃそうだよな。



「かぁ〜!まさかここでガキの精神が出るとは思わなかったよ!ちょっと待ってろ!スペシャリストを呼んできてやる!」


 そう言ってギルマスはまた出ていってしまった。



「盗賊退治の依頼やらされちゃうのかな?」


「ん〜どうだろ?でも嫌だったら断ればいいよ。おれもできればやりたくないし…」


「そうだよね…」


「せめて捕まえるだけとかならいいんだけどな…」


「うん…」


 いきなり賊は殺せなんて言われてもできるわけないよな…。



『ガチャリ』



 今度は帰りが早かった。



「やぁユウキ君、ホーク君、こんにちは。」


「あっ、シルバさん!こんにちは!」


 ホークが元気に挨拶してるけど今ギルマスが連れてきたって事は…そりゃそうか、アサシンだもんな…



「こんにちはシルバさん。やっぱりシルバさんなんですね…。」


「ハハ…ユウキ君は相変わらず鋭いね。そう、僕は今はギルドの買取所兼、賊退治専門の職員なんだよ。」


「えぇ〜シルバさんが?」


「この事は内緒だよ!」


「うん!わかった!」


 本当にわかってるのホーク?なんか口を滑らせそうで怖いな…



「コントラクト使っときますか?」


「いいや、大丈夫だ。君達の秘密に比べれば大した事じゃ無い。それに…」


「それに…?」


「知られたなら始末してしまえばいい…」


 危険です!危険人物発見です!おまわりさ〜ん!



「なんてのは冗談だよ。でも内緒にしててくれよ?」


「は、はい…」


 なんだアサシンギャグか…リアル過ぎて怖ぇよ!



「さぁ、早速だけどユウキ君、ホーク君、盗賊や山賊なんかはなんで存在すると思う?」


「えっ?成人の儀の職業で出たんでしょう?」


「違うよ。」


「えっ?でも盗賊って職業でしょ?」


 おれも新しく出たぞ?



「そうだね。だけど元々は違うんだ。盗賊や奴隷は落ちるって言われてるね。」


「落ちる?」


 奴隷落ち、盗賊落ちって事か?



「この世界の職業は君の言った通り成人の儀で貰う物が初めての職業になる。だけど、中には奴隷や盗賊みたいに落ちる職業ってのもあるんだ。

考えてもみなよ。成人の儀で盗賊なんて出たら成長されても困るだろ?だから最初は奴隷や賊系統の職業が成人の儀で出る事は無いんだ。」


「へぇそうなんですね。知らなかった…」


 プライが職業を与えてるって言われてるんだっけ?どんな風に選んでるのかな?今度本人に聞いてみよ…



「だったら何故盗賊なんて者が存在するのか?それはね奴らが私利私欲の為に人に迷惑をかけているからなんだよ。

殺人、強盗、誘拐、破壊、他にも色々あるけど、言っても気分のいいものじゃないよ。それを退治する依頼が始まるのがDランクからなんだよ。」


 盗賊=悪ってのはわかったけど、それが殺す理由に結びつかない…。


 なんて言うんだろ…やっぱりどこか他人事なんだよな…。実際に被害にあってたら感情も変わるんだろうけど、見た事すらないもんな…



「じゃあやっぱりEランクの方がよかったじゃん…盗賊退治なんてやりたくないし!」


「君達はまだ汚い闇の部分を知らなすぎるんだよ。

それが悪い事ではないけど、それを避けててはこの世界では生きていけないよ。冒険者として以前に人として致命的だね。

ユウキ君の前の世界がどんな所なのか僕は知らないけどこの世界では簡単に人が死ぬんだよ。

理由はモンスターだけじゃない。人が人を殺すんだ。それが盗賊になるんだよ。」


 それは比較的安全だって言われてた日本でも同じだ。モンスターはいないけどほぼ毎日のようにどこかで誰かが誰かを殺してた。

 別に事件だけに限った話じゃない。交通事故だったりもあった。



「その被害を防ぐ能力が君にはあるからね。僕はDランクへの昇格は妥当だと思うよ。

依頼を受ける受けないは別にして君達が盗賊退治をする事で助かる人達がいる事を忘れないでくれ。」


 う〜ん…悩ましいな…根が日本人のおれには殺人は厳しいぞ…

 でも退治しないと沢山の人達が被害に合うし…この世界は日本の法律なんて関係ないし……


 あれ?でもちょっと待てよ…



「シルバさんは盗賊とか一杯殺してるんですよね?」


「そうだね。」


「それなのになんでシルバさんは盗賊落ちしてないんですか?殺人は盗賊に落ちるんじゃないんですか?」


「何言ってんだユウキ?盗賊なんてのは神から見放された存在だ。殺したからって盗賊落ちなんてするわけ無いだろう。」


 あ〜そう言う事か…今の一言で今まで感じてた違和感の正体がわかった…。

 つまりはこの人達は盗賊を人扱いしてないんだ。思い返せば盗賊を人扱いして話してなかったな…なるほど…それがこの世界の常識か…根が深いぞこれは……



「ギルマス、シルバさん、盗賊って人間ですか?」


「…ユウキ君、盗賊は盗賊だよ。」


「ユウキ、お前の言いたい事はわかる。だけど甘い考えは捨てろ。

神から見放された賊に情けをかけたところでなんの意味も無い。

そんな事をしたところで痛い目にあうのはお前自身や周りの人達なんだぞ。」


 はぁ…やっぱりそうか…。差別問題はどこの世界にも存在するんだな…

 日本に住んでた時も世界規模で色々問題になってたけど正直言っておれ自分の周りの事以外は関心が無かったんだよな…。

 異世界に来てまでそんな事になるとは……まぁ実際に悪い事をして盗賊落ちしてる奴らだから自業自得なんだろうけど話を聞いただけではピンと来ないな…



「わかりました。」


「ユウキ?」


「ごめんホークおれ実際に自分の目で確かめてみるよ。盗賊退治の依頼を今度受けてみようと思う。ホークが嫌ならおれ一人で…」


「ユウキが受けるならおれも受けるに決まってるじゃん!」


「いいのか?盗賊を…人を殺さないといけないかもしれないんだぞ?」


「うん…それはできるかわかんないけどユウキ一人に行かせるつもりもないよ。おれたちは同じパーティーだもん!」


「そっか、わかった。ギルマス、おれたち盗賊退治の依頼を受けてみます。」


「そうか。助かる。」


「で、おれたちがDランクに上がった理由はおれのマップ内検索ですよね?」


 ここまでくれば理由なんて聞かなくてもわかる。マップ内検索があれば盗賊を見つけるなんてすぐだもんな…



「その通りだ。できればアジトなんかも見付けてくれるとありがたい。この街の近くに盗賊がいなくなればそれだけで街の人達は安心して眠れるんだ。」


「はぁ…そんなに期待されても困るんですけどね…言っておきますけど今すぐには受けませんよ?まずは依頼と関係なしに盗賊がどんなものか見てきます。」


「わかった。それなら盗賊捜索依頼を受けるといい。」


「盗賊捜索依頼?」


「そうだ。本来なら被害が報告されて初めて出る依頼で低ランク冒険者も参加するような依頼なんだがお前らなら被害が出なくても探せるだろ?

おれが特別に依頼を出してやるよ。そうだな…報酬は受けるだけで10万プライだ。」


 怪しい仕事をするみたいだ…簡単、楽チン、高収入…日本だったら完全に地雷仕事だぞ……



「わかりました。まずはそこから始めてみます。」


「可能なら退治してしまっても構わない。報酬はまた別で用意する。」


 どうやらギルドは盗賊の存在を許さないみたいだな…なんかおれにとっての部屋に出たGみたいな徹底ぶりだぞ…



「…あまり期待はしないでください。それと…」


 最後に一つだけ確認しておかないといけないことがある。



「あの〜おれなりきりチェンジで盗賊になれるんですけど…殺されちゃうんですか?」


 奴隷をマスターして盗賊の職業が出た。

 もちろんヒャッハーして人に迷惑をかけるつもりなんて無いが、レベル上げの為にその内やろうと思ってたんだけど…



「そうか…お前の能力をおれたちは知ってるから殺すことはないが他の奴らは話が別だ。

転職するにしても誰にも知られないようにこっそりやれ。決して見付かるな!また別の意味で狙われるぞ!」


「ユウキ君、君の事だから人前で盗賊になるなんてバカな事はしないと思うけど本当に気を付けなよ?

ただでさえ君は狙われる要素がたくさんあるんだからね…。」


 あっ、やっぱりダメなんだ…まぁ元々人前では戦士だし他に職業は一杯あるから別にいいんだけどね…。



「そうですか。わかりました。ちゃんと時期を見て転職する事にします…。

さてと、それじゃあ早速やりますか…。ギルマス部屋に鍵をかけてもいいですか?」


「あぁ、もちろんいいぞ。」


 おれは部屋に鍵をかけ誰も入って来ないようにする。



「なりきりチェンジ マッパー」


 盗賊を探す為にマッパーに転職する。



「マップ内検索 盗賊」


 全然埋まりきっていないマップでも☆は表示された。てか街中に普通にいるじゃん…


 これギルマスに伝えたら街中でデストロイな展開になっちゃうの?大丈夫なのかこの世界…

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