第38話 なりきり師、再戦する。

 アイアンスコーピオンのレベルが倍以上に上がったとは言えステータスアップには偏りが出たみたいだ…。

 モンスターにもやっぱりそう言うのってあるんだな…


 あの時あんなに速いと思ったアイアンスコーピオンの俊敏性が今では全然速くない。

 これはおれの俊敏が上がったおかげだろう。油断していなければ全然見えるし避けられる!



「ユウキ、奴の動きを止めれるなら止めてくれ!その方がおれたちもやりやすい。」


「わかりました!やってみます。」


 さっきはサンダーウィップでは止まらなかった。

 おれがアイアンスコーピオンを止めれるとしたらライトニングボルトしか選択肢は残っていない。



「今度は止まれよ!ライトニングボルト!」


 動いてる敵に当てるのは不安だったがライトニングボルトはアイアンスコーピオンの動きより速く頭上から降ってきた。


 狙いをつけて打ったライトニングボルトはアイアンスコーピオンにしっかりと当たり前と同じように動きを止め地面へと放電し始めた。



「よし!止まった!ただあの一帯には気を付けてください!

おれの魔法だけど地面に放電してると思います!感電してしまうかもしれませんから!」



「なるほど了解だ!」


「アースラインボム!」


 止まって放電しているアイアンスコーピオンに向かいおれはアースラインボムを使った。

 地面を崩してしまえば放電の邪魔にはなるだろう。

 前はできなかった事が今はできる。自分で成長がわかるっていいな。



「ユウキちゃん、やるぅ〜♪」


「ユウキ、ホーク、こう言う硬いモンスターの倒し方を教えてやる!よーく見てろよ!ウェポンチェンジ」


 ギルマスが大剣だった武器を銀色の身体より大きなハンマーに変えて走り出した。 



「種族や特性、耐性によって変わってくるがコイツに関しては相手の防御力よりも高い攻撃力の打撃でッ!打つ!」


 ジャンプし勢いをつけくるっと縦回転しながらアイアンスコーピオンにハンマーを打ち込んだ。

 ガッキーーン!!!と言う甲高い金属同士がぶつかり合う音と共にドゴーーーン!!と地面が砕け散る。



「打つ!打つ!打つ!打つ!打つーー!」



〈ギギャ…〉



 ギルマスはハンマーの遠心力を利用し何度もその場で回り上からの打撃を与えた後に最後はまるでゴルフの様にすくい上げアイアンスコーピオンを空中に飛ばしてしまった…。



「スゲー…ってあんなのできねぇよ!」


 倒し方ってコツとかじゃないの?あれじゃただの脳筋攻撃だよ…



「フフッ♪ボーイズ次はあたしを見ててぇ〜!」


 次はマーガレット所長が空に飛ばされているアイアンスコーピオンに向かって行った。



「奥義!真・滅殺ラッシュ!!!」


 速すぎて何をしてるのかわからないけど空中のアイアンスコーピオンがガキンガキン言ってる…

 多分殴ってるよね?鉄のサソリ素手で殴ってるよね?



「「うわぁっ!」」


 最後は凄い勢いでアイアンスコーピオンが地面に降ってきた…。



〈ギ…ギギャ…〉



「ふぅ〜♪久々に硬いモンスターを叩いちゃった!うふッ♪でもちゃんと手加減したから安心してねぇ〜!」


 手加減?あれだけボコボコにしといて手加減?えっ?おれの知ってる手加減と意味違うの?

 ヤバいよこの人デストロイヤーだよ…



「ボーイズ!後は好きになさい。相手はもうあたしの魅力にヘロヘロよぉ〜!」


 絶対違ぇから!あんたの威力にヘロヘロなだけだから!怖いから口が裂けても言えないけど…



「ユ、ユウキ?おれの攻撃ってアイツに通りそうなの?」


「多分通らないと思う…剣だと相性的にも良くないだろうしアイツ防御力300超えてるし…」


「だよね…ユウキ任せていい?」


「わかった。おれの魔法もどこまで通用するのかわかんないけどな…」


 ギルマスやマーガレット所長みたいにおれたちにはまだそこまでの攻撃力はない。

 強化されたアイアンスコーピオンにダメージを与えれるとしたらおれの魔法攻撃しか方法はない。



「と、とりあえずやってみるよ。メガフレイム!ライトニングボルト!」


 明らかに弱りきってるとわかるアイアンスコーピオンに魔法を使う。

 暖めて冷やす。戦い方は前と変わらないがおれにはそれしかできない。



「ブリザードドーム!」


 アイアンスコーピオンの周りにだけ猛吹雪が吹き荒れる。ドームの中は激しい吹雪で何も見えない。



〈ギ…〉



 魔法の効果が切れ姿を現したアイアンスコーピオンはあらゆる場所がひび割れもうほとんど動かなくなっていた。



「相変わらずえげつねぇ魔法を連発しやがるな…まぁいいさっさと仕留めちまえ!」


 あんたらの方がえげつなかったよ!おれの方がおかしいみたいな言い方するのはおかしくないか?納得いかないんだけど…



「わかりましたよ!ライトニングボルトォ!!」


 トドメのライトニングボルトを打ち込むとアイアンスコーピオンはあっけなく消えていった。

 前に戦った時はあれだけ苦労したのに今回はギルマス達の助けがあっただけで随分とあっさり簡単に倒せてしまった…。




【結界師の熟練度が2に上がりました】

【スキル 物理結界を覚えました】


【結界師の熟練度が3に上がりました】

【スキル マジックバリアを覚えました】


【結界師の熟練度が4に上がりました】

【スキル 防温結界を覚えました】


【結界師の熟練度が5に上がりました】

【スキル ミラージュバリアを覚えました】



 全然苦労してなくてもやっぱりボスを倒すと熟練度は一気に上がるんだ…


 今までのピンチはなんだったんだろう……


 あまりにも戦闘に手応えがなさすぎて少し物足りなさを感じてしまうな…他のチートの人もこんな感じなのか?



「ん?あれなんだ?」


 アイアンスコーピオンが残したドロップアイテムの中に前は見かけなかった本が落ちていた。



「本?」


「ユウキなにそれ?」


「わかんない。ドロップアイテムかな?ここに落ちてたんだ。」


「それはスキルの書だね。かなり珍しい物だよ。」


「スキルの書…」


 あぁ確かギルド登録したときにサナさんが言ってたっけ…スキルの書や転職の書があるって。

 1年に1回報告があるかないかって言ってたと思うけど…もうドロップしちゃったのか?



「ユウキ君、鑑定してみてもいいかな?」


「あっ、はい!どうぞ。」


 シルバさんにスキルの書を渡した。 



「鑑定…う〜んダメだね僕ではわからないみたいだ。まぁスキルの書を鑑定して成功した事はないんだけどね…。」


「シルバさんの鑑定ってスキルの書で覚えたんですか?」


 前から思っていた疑問をちょうどいい機会なので投げかけてみた。



「そうだよ。昔パーティーを組んでいた仲間達とたまたま見つけてね。

話合った結果どんなスキルが出ても無難に使えそうな僕が使うって事になってそれで覚えたのがこの鑑定スキルなんだ。」


「へぇー。そうだったんですね。鑑定って便利なスキルだから当たりのスキルの書でよかったですね。パーティーの人達も喜んだんじゃないですか?」


「そうだね……はいこれは返すよありがとう。使うのか売るのかホーク君とよく話し合って二人で決めるといいよ。」


「あ、ありがとうございます。」


 シルバさんの表情が少し暗くなってしまった。もしかしたら何か地雷を踏んでしまったのだろうか…



「ユウキも鑑定やってみたら?」


「ん?あ、あぁそうだな。」


 シルバさんのあの表情は気になるけどおれが踏み込んでいい様な話なのかわからない。

 とりあえず今は触れないようにしておこう…。



「鑑定!」


 いつもだったら何かしらの反応があるが今回は全く反応しない。



「ダメみたいだ。おれも鑑定できないや。」


 考えてみれば鑑定士の熟練度もまだ1なんだ。相手が強くても鑑定できてる今の状況の方がおれからすればおかしいんだよな…。

 自分より強い敵の鑑定なんて見れないのが普通だと思うんだけどなんでおれ鑑定できてるんだろう?

 それもいつまで今の鑑定が通用するのかわかんないしシルバさんの時みたいにまたステータスが?になっちゃう敵が出て来ちゃうかもしれないからな…。

 また急いで熟練度を上げないといけない職業が出てきちゃったな…



「そっかぁ…ね、ねぇ?ユウキ…そ、それどうするの?」


「別に決めてないよ。ホークが使ってもいいし売ると高く売れるらしいから売ってもいいし鑑定できてから決めてもいいし…」


 あぁなるほどホークが使いたいのか…。

 そういやアイテムボックスのスキル欲しがってたもんな…。



「どんなスキルが出るかわかんないけど使ってみる?」


「いいの!?」


「いいよ。じゃあギルマス達に使い方を聞きに行こう。」


「やったーーー!!!!」






「スキルの書の使い方?」


「はい。ホークが使ってみたいそうなんですけどどうすればいいんですか?」


 早速ギルマスの所へ行き使い方を聞いてみる。

 まぁ近くにいたので知ってる人なら誰でもよかったんだけどね…。



「開けて読むだけだ。そうすれば本は消えて読んだ本人はスキルを覚える。」


「えっ?それだけですか?」


「なんだ?それ以外に何かあるのか?」


「い、いえ…スキルを覚える為にもっと条件があるのかと思ってました。」


「んなもんねぇよ!だからスキルの書は高値で取引されるんだ。

一攫千金を狙ってる冒険者だって少なくない見付けた場合は周りに知られねぇ様に注意しろよ!持ってる事が知られると狙われるぞ。」


 狙われる要素多すぎないかこの世界…転生人だって狙われて、スキルの書を持ってる事でも狙われてって…そんな面倒な物早く使ってしまおう。



「ホーク、開けて読めばスキルを覚えるんだって!意外と簡単だったな。はいこれ。」


「ユウキ、でもこれって売れば高いんでしょ?本当に使っていいの?」


「いいよ。別に今はお金に困ってないしおれにはドロップアップのEXスキルもあるからまた落ちるかもしれないしな。

それよりホークがスキルを覚えて強くなれるならその方がいい!」


「そう?わかった!じゃあ使ってみる!」


 ホークが本を広げると空中に魔法陣みたいなものが浮かび上がり本が光りだした。

 これは街中で使ったりしたらかなり目立つな…次からは使う場所も考えないとな…。

 ってそれよりホークに何か問題は起こってないか?



「ホーク大丈夫か?」


 浮かび上がっていた魔法陣がホークの中に入り光っていた本はそのまま消えた。

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