第33話 なりきり師、作戦を考える。
〈〈〈〈〈ヘ゛ェ゛ェェェェ!!!〉〉〉〉〉
なんでどんどん色んな方向から鳴き声が聞こえてくるんだ…?
そう思っていたがようやく理由がわかった…。
バイホーンゴートが鳴く度にホーンゴートの幻影がバイホーンゴートに変わっていっていた。
一回鳴くごとに何体変わるのかわからないがバイホーンゴートが増えていってるんだ…。
しかもホーンゴートの幻影の時にはなかった角を飛ばしてくる攻撃が追加され色んな方向から角が飛んできてる…。
ギルマスがおれたち2人をさっきの銀色の布で守ってくれている。
角が布に当たる度『カンッ』と音がして弾かれている。
物理の攻撃力も持ってしまいもう幻影と言うより分身にレベルアップしてしまったようだ。
ただ相変わらずモンスターマップには反応がない。この近くに本物のバイホーンゴートはいないみたいだ…。
今おれとホークがギルマスに守られているせいでマーガレット所長とシルバさんが変わりに戦ってくれている。
「
シルバさんがスキルを使うとシルバさんの周りに影が浮かび上がり剣の形に形成されていく。
合計8本の影の剣ができシルバさんの攻撃に合わせ、また時には自立して敵に襲いかかっている。
周りにいるホーンゴートの幻影とバイホーンゴートの分身を切り裂き数を減らしていってる。
「なんだあれ…凄すぎないか?」
〈〈〈〈〈ヘ゛ェ゛ェェェェ!!!〉〉〉〉〉
相変わらず鳴き声は止まらない。本体を倒していないので数が一時的に減っても後からどんどんやってきてしまう。
「ユウキ!マーガレット姐さんも凄いよ!カッコイイよ!」
ホークに促され今度はマーガレット所長に注目してみる。
「
マーガレット所長はブーンビーを倒していたスキルをバイホーンゴート達にも使っていた。
物凄い速さで拳を突き出し空気を飛ばすスキルなのだろう。
マーガレット所長は一歩も動いていないのにバイホーンゴート達は潰れながら吹き飛ばされどんどん消えていってる。
「本当に凄いな…でもこのままじゃ…」
「そうだな。確かにこのままじゃ終わりがねぇ。どうするユウキ?倒すも逃げるもお前に決めさせてやるよ。
幸い他の冒険者は入ってこねぇからな。」
「おれたちが五階層に逃げたとしてこのモンスター達はどうなるんですか?」
「通常のモンスターの場合は残り続け倒すまでは消えることはない。分身まではわかんねぇけどな。」
倒す場合と逃げた場合のメリット、デメリットを考えろ……
まず倒す場合…メリットはこの状況がリセットされ次に戦う時はバイホーンゴートはボス本体だけになり角を飛ばしてくる攻撃もなくなる。
探し出せるかはわからないが今より戦いやすい事は間違いないだろう。
それにボスとしての高経験値も期待できると思う…。
次にデメリット…この攻撃の中マッピングをして本体を探し出しかつ倒さなければならない。
しかも鎮静剤をまだ使ってないのでもう一度絶対に戦わなければならない。
それに最悪なのはホーンゴートの本体もバイホーンゴートになっているかもしれない事だ…。
そうなったらホーンゴートの幻影スキルがバイホーンゴートの分身になってしまう……。
そして逃げた場合…メリットは階段まで行けばおれたちの勝ちが決まる。
おれたちはギルマスに守られてるしシルバさん達は物凄く強い。
安全に階段まで行けるだろう。これが一番楽な方法だ。
デメリットは…もしこの分身達が消えず戻ってきた時にこのまま全てのホーンゴートもバイホーンゴートになっている場合だ。
四階層はバイホーンゴートで埋め尽くされてしまう。
上限はあるだろうが最初から全力で攻め込まれてしまうかもしれない。
考えろ…この選択次第で最悪の状況になってしまう可能性もあるんだ…
「ギルマス、ホークをこのまま守っててくれますか?」
「ユウキ?」
「言ったろお前達は守ってやるって。二言はねぇよ!」
「わかりました。ギルマス、おれをここから出してください。」
今おれたちの周りにはギルマスの銀色の布が螺旋を巻きながら全方向を守ってくれている。
角が飛んでくると布も動き硬くなって弾き返しているようだ。
「ここから出てどうするつもりだ?」
「おれがバイホーンゴートの本体を探して倒してきます。」
「何言ってんだよユウキ!どれだけ敵がいると思ってるんだよ!」
「敵が一杯いる事なんて見ればわかるよ。それでもおれ以外本体がわかる人がいないんだから仕方ないんだよ。」
「でっ…でも…」
「ごめんホーク…ありがとう。大丈夫だから!」
「悪いがそんな許可は出せねぇな!」
「なっ!?どうしてですか?」
「ユウキ、お前がバイホーンゴートを倒しに行こうと思った理由を教えてくれ。
確かにさっきおれはお前に選択させたが急にここを出せってだけ言われてもあまりに説明不足じゃねぇか?」
説明不足…言われてみればそうだな…悪い想像をしすぎて焦ってしまっていたようだ…
「すいません、この状況に焦っていたようです。」
おれはさっき考えた事を話した。
もし今逃げて鎮静剤を使って帰ってきた時にこのフロアがバイホーンゴートで一杯になっているかもしれない事。
反対に今ならまだホーンゴートの方が多くておれでも探しにいける可能性がある事。
今倒しておけば次の戦う時はバイホーンゴートが多少探しやすくなる事。
「これはあくまで全部可能性の話です。推測が間違ってる可能性の方が高いのかもしれません。だから…」
「自分一人でケリをつけてくるってか?」
「そうです。そんな不確かな事で皆を巻き込むつもりはありません!
だからギルマスはホークを守っててください。おねがいします!」
「ホークはお前にとって守るだけの仲間なのか?」
「村を出る時に決めたんです!おれの都合に付き合ってくれるホークだけは絶対に守るって。」
「おれが言いてぇのはそう言う事じゃねぇよ!お前はホークの強さを信じてねぇのか!?」
「はぁ?信じてるに決まってるでしょ!今そんな事関係ないですよね!?」
何言ってんだこの人?そんなの信じてるに決まってるじゃないか。
「お前が村を出る時に決めた事を否定するつもりはねぇよ。だけどな、ホークだって自分で決めて冒険者になったんだろ?
なんで一緒に冒険者になったお前一人が危険な目にあってホークだけが安全な場所に守られるんだ?おかしいだろそんなの。」
「仕方ないでしょ!まだおれたちはレベルが低いんです!たまたまおれが本体を見つける事ができるスキルを持ってるから行くだけですよ!」
「だからなんで一人で行こうとしてんだよ!」
「決まってるでしょ!危険だからですよ!ホークをそんな場所に連れて行ける訳ないでしょうが!」
「それがおかしいつってんだよ!いいか、よく聞け!お前はパーティーの意味をわかってない。
お前がホークにやっている事は王族や貴族の親が成人したばかりの子供のレベル上げをする為に護衛を雇ってるのと同じ事だ!」
「は?」
「傍からみればホークがその子供でお前が護衛だ過保護に育てるバカ親と同じだ。
それじゃレベルは上がってもいつまでたったってホークは成長できないぞ。冒険者ってのはそうじゃないだろ」
「今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ!勇者パーティーのせいでこのダンジョンはおれたちにとっては格上のダンジョンなんです!
ギルマスには守る能力があるんだから守ってくれたっていいでしょ!」
「はぁ…もしこのままお前を行かせたとしてお前が死んでしまった場合ホークがどれだけの後悔に襲われるのか少しは考えてみろ。」
「後悔?」
「自分もついていっていれば、自分にも戦える力があれば、あの時一人で行かせなければ、変わりに自分が死ねば…そんな思いを長年思わせ続ける可能性だってあるんだぞ。」
「……」
「実際おれはそんな残された冒険者を嫌と言う程みてきてる。これでも一応ギルマスだからな。
自信に満ち溢れてたパーティーも、強いと話題のパーティーも、上位職だけで編成されているパーティーだって、一夜にして死んでしまう場所…それがダンジョンだ。
おれは実際に本物の転生人にあったのはお前が初めてだ。凄い能力を持っているってのも間違いはない。
だけどな、お前もまだホーク同様新人冒険者なんだ。なんでも一人でやろうとするな!」
「でもそれじゃどうすれば…」
「仲間を信じろ!仲間を頼れ!そしてお前も仲間を守れ!
今この場にいる五人は違うパーティーだが同じ目的を持った仲間だ。
一人でやるんじゃなく全員で生き抜ける作戦を考えるんだ。それがリーダーの仕事だ!」
「全員で生き抜ける作戦……」
「おれたち大人はこんな奴らに遅れを取ることはない。このアドバンテージを最大限に使ってみろ。その上でお前達は守ってやるからよ!」
「わかりました…」
まずやらなきゃいけない事は何よりもマッピングだ。
マッピングをしないと本物のバイホーンゴートを見つける事ができない。
次に周りの分身をなんとかしないと。コイツらがいる事でマッピングの邪魔になる…
時間が経つにつれバイホーンゴートも増えてしまうので迅速に行動しなければならないな。
そして最後に本体の撃破だ。バイホーンゴートを倒すのはもちろんだがホーンゴートの本体を倒しても幻影は消える。
もしかしたらバイホーンゴートになったホーンゴートも消えてくれるかもしれない。
この3つを全員で切り抜ける作戦…
ギルマス達の強さを使う作戦…
誰もが死なない作戦……
考えろ、思い出せ、ギルマス達の強さをこのダンジョンに来てからの事を全てを…
(マーガレット所長に小脇に抱えられながら注意されてしまった…)
(ホークも同じようにシルバさんに抱えられてる…)
(全然見えなかったんだけど…あれがギルマスの本気?)
「そうだ!」
「何か思いついたか?」
「はい。あれだけ説教してきたんです協力してもらいますからね!」
「説教じゃなくアドバイスだ。まぁいい聞かせてみろ!」
バイホーンゴート覚悟しろよ!反撃開始だ!
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