第32話 なりきり師、また囲まれる。

「なるほど…これがホーンゴートがスキルを使った状態か…お前達よく生き残ったな…。

普通の新人冒険者なら間違いなく死んでるぞ…」


「新人ですけどこれを2人で協力して突破したから生きてるんですよ!本物も混ざってるんで注意してくださいね。」


 この階層はマッピングがほとんどできていない。前はたまたま五階層への階段を見つけることができたフロアだった。


 今回モンスターが待機している場所はマップに映らなくて気付かず、マップに反応があった時には向こうの準備は終わってたみたいだ…。



「ユウキ君、前はどうやってコイツらを倒したんだい?」


「旋風を使って数を減らしてからモンスターマップで本物のホーンゴートを見つけて倒したんです。けど今回は前より数が多いです…。」


 多分前より本体の数が多いんだろうな…1体につき上限があるのかは知らないが見ただけで前よりも多いことは一目瞭然だ…。



「ユウキちゃん、マップはオープンにできないのかしらぁ〜?」


「マップをオープン?」


「マッパーの能力のオープンマップよぉ〜。あたしたちにもユウキちゃんのマップが見れるようになるのぉ〜。これだけの数がいると本体を探すのが面倒そうよぉ〜!」


 マッパーにそんな能力があったんだ?…ステータスみたいに任意でオープンにできる感じかな?



「まだそのスキルは覚えてません。マッパーはモンスターマップで止めちゃったんで…」


「そうなのぉ〜?残念ねぇ〜。まぁできたマッパーなんてあたしは本でしか知らないしぃ〜、今じゃ使える人がいないみたいだし当たり前よねぇ〜。」


 マッパーがレベル上げるのって普通は100%パーティーに寄生だもんな…鑑定士とかは鑑定すればレベルが上がるみたいだけど、マッパーはどうやったら上がるのかな?



「で、ユウキ、コイツらはどうするんだ?」


「前の時と違って五階層の階段の場所はわかってます。その方向のホーンゴートだけを倒して五階層に行きましょう。全部を相手にする理由もないですし。」


 マッピングができているなら話は別だが今本体全てを探して倒す必要はない。

 五階層にさえ降りてしまえばホーンゴートは追ってこれない。



「そうか、それならおれたちが他の方向にいる邪魔な奴らを倒すからお前らは前の奴らを倒してくれ。」


「わかりました。お願いします!ホーク、漏れた奴は頼んだぞ!」


「任せといて!」


 魔法使いの熟練度も上がり範囲攻撃も覚えたんだ。一方向でいいなら難しい事はない。



「行きます!ガトリングウォーター!」


 おれはさっき覚えたばかりのスキル、ガトリングウォーターを使った。

 杖の先から小さな水の弾が連続して物凄い速さで飛んでいく。本当にガトリング銃の様だ。



「威力はそこそこか…まぁ水魔法だしこんなもんかな。」


 幻影のホーンゴートは前に軽く斬っただけで消えたのでガトリングウォーターを選んだが今回もちゃんと消えていった。

 威力はもし日本で人間に対して使うと完全にオーバーキルしてしまうがこの世界のモンスターならそこまで強い敵には耐えられてしまいそうだ。

 おれが会った中ならアイアンスコーピオンは間違いなく余裕で耐えてしまうと思う。



「スッゲー!ユウキその魔法カッコイイね!バババババって一杯飛んでったよ!」


「おれも初めて使ったけどストレス発散になりそうな魔法だな。結構爽快だぞ。

 今度時間とMPに余裕がある時にでもホークも一緒に杖持ってみるか?多分方向を決める位はできると思うよ?」


「ほんと!?持つ持つ!ユウキ約束だからね!」


「わかった。だから今は前に集中して。早く五階層に行っちゃおう!」


 ガトリングウォーターでかなりの数の幻影を消すことができた。


 さっきの場所から五階層の階段まで後半分と言う所までこれた。

 数は前よりも多いけど多いと言っても幻影だ。範囲魔法があることで安定して攻略できる。この調子なら五階層までは簡単に行けそうだ。



〈へ゛ェ゛ェェェ〉



 その時ホーンゴートとは違い低く響くような鳴き声が聞こえてきた…。

 めちゃくちゃ嫌な予感がする…予感と言うよりもう聞こえてしまったので現実なのだが……



「バイホーンゴート…」


 まだ姿は見えていない…鳴き声が聞こえただけだ。バイホーンゴートに関してはギルドでも情報はなかったそうだ。

 このダンジョンでは本来出現しないモンスターらしい。


 昨日の夕方からの時間では4人が夜通し探しても他のダンジョンの事まで調べれなかったみたいだった。

 姿形、強さ、能力、誰も何もわからない状態で戦わなければならない…



「ユウキ、ホーク、聞こえたな!?この近くに階層ボスがいるはずだ!油断せず気を引き締めろよ!」


「「はい!」」


 このパーティーで危険があるとすればおれとホークだ。

 他の三人ならこの階層程度のボスなら情報がなくても軽く倒してしまえるだろう…。


 あと少しで五階層への階段まで着けるのに…



「ユウキちゃん、ホークちゃん、あなたたちは構わず五階層を目指しなさい〜。」


「カバーは僕達が変わらずにしてあげるからさ。」


 このまま五階層に逃げるのか?クイーンブーンビーの時は無理矢理戦わせられたのに…

 


「わかりました!ありがとうございます!」


 おれはまたガトリングウォーターを使い前方の幻影を消していく。



「お前が本体だ!」



〈メェェェェ…〉



 ガトリングウォーターなら数発当てればホーンゴートの本体でも倒せるみたいだ。


 本体を倒した事で周りにいた幻影も消え少しだけホーンゴートの数が減った。

 元々この本体の周りの幻影はおれのガトリングウォーターで減っていたので減る数も少なかったのだろう。



〈ヘ゛ェ゛ェェェェ!〉



 おれが本体を倒したのに気付いているのかバイホーンゴートの鳴き声がまた聞こえた。

 これは急がないとヤバイかな…倒すにしても鎮静剤を使ってからにしたい。



「ガトリングウォーター!」


 とにかくこのまま五階層に着ければ吉。バイホーンゴートに出会えば凶。確率は二つに一つだ。

 ガトリングウォーターを使い前にいるホーンゴートを倒す方法に変わりはない。

 大体一度の発動で20体程倒せるのでこのやり方が一番効率がいいだろう。



「ユウキ、そんなに魔法連発して大丈夫なの?」


「まだまだ大丈夫!心配しなくてもMP管理はちゃんとしてるよ。」


 さすがに中級魔法ともなると消費MPは初級魔法より多いがその分多くの敵を倒せる。

 本当なら詠唱時間があったりしてこんな戦い方はできないのだろうがおれには問題ない話だ。


 詠唱もいらずMPも割と高い。なりきり師は本当に育てればチートな職業だな。



〈ヘ゛ェ゛ェェェェ!!!〉



 さっきより声が近付いてきてる…聞こえてくる鳴き声も大きくなってきたぞ…



「ユウキ!ホーク!後ろだ!こっちからでかい奴がきたぞ!」


 最悪だ…もう少しで五階層への階段に到着するってのに…ボスに背中を向けてなんていられない…



〈ヘ゛ェ゛ェェェェ!!!〉



 馬みたいな大きさで角を二本額に生やしたヤギが周りの幻影を踏み潰し跳ね除けながら走ってきた。



「あれがバイホーンゴート…」


「今回はおれに任せな!クイーンブーンビーの様に戦わせたりしないから安心しろよ。チャッチャと終わらせてきてやるよ!」


 今回はギルマスが討伐してくれるそうだ。よかった…



「お願いします!ボスなので気を付けてくださいね!」


「心配無用!お前らは周りの雑魚を倒しててくれよ!そんじゃ行ってくる!」


 そう言うとギルマスはその場からスッといなくなった。どんだけ俊敏高いんだあの人…

 気付いた次の瞬間にはギルマスはバイホーンゴートの首を切り落としていた…


 えっ…もう終わったの?全然見えなかったんだけど…あれがギルマスの本気?



「やっぱりボスつってもこの辺の階層なら相手にならねぇな!」


 うおっ!戻ってきてる…どうなってるんだ?



「ホーク見えたか?」


「全然見えなかった…」


「だよな…」


「当たり前だ!おれが何十年冒険者やってたと思ってるんだ?新人に見切れる程甘くねぇんだよ!ギルマス舐めんなよ!」


 笑いながら言ってるけどおれは全然笑えないよ…これだけの強さを持っていても悪魔達を倒せないのかな?

 あれ?そういやどのダンジョンでも最下層まで辿り着けてないんだっけ?なんか理由でもあるのかな?


 ギルマスの強さを目の当たりにして新たな疑問が次々出てきてしまった…

 ギルマス達に魔王の事は話してないしそれに今はまだホーンゴートに囲まれている状態だから聞いてる場合じゃないよな……



「舐めてないです!驚いただけですよ!」


「ウェポンチェンジ!」



『カンッ!!』



「「うわっ!」」


 ウェポンチェンジ!?


 それがギルマスのスキルなのか?それにしても急になんだ?

 おれとホークの周りに銀色の布が現れおれたちを囲ってしまった。

 それにあの『カンッ』って音はなんだろう?



「おれとした事がどうやら見誤ったようだな…」


 見誤った?どう言う事?この硬そうな布のせいで状況が理解できない…


 あっ、柔らかくなった…どう言う原理だ?長く伸びてた布もギルマスの所へとスルスル戻っていった。



「これはちょっと予想してなかったわねぇ〜…」


「やれやれ、四階層でこれですか…」


「一体何が起こってるんですか?」


 状況を理解していないのはどうやらおれとホークだけみたいだ。ん?これは…?角?

 おれの前に角が一本落ちている。ホーンゴートの角かな?にしては少し大きいような…



「ユウキ、ホーク、悪い前言撤回だ!まだ終わってない!」


「「えっ!?」」



〈〈〈〈〈〈ヘ゛ェ゛ェェェェ!!!〉〉〉〉〉〉



 色んな方向からバイホーンゴートの鳴き声が聞こえてきた…



「まさか…」


「どうやらそのまさかだ!バイホーンゴートも使えるみたいだな。ホーンゴートより強力な幻影って奴を…」


「そんな…」


 ボスがそんな技使っちゃ絶対にダメだろ!バランス崩壊してるクソゲーじゃねぇかよ!



「安心しろ。お前らは絶対に守ってやるから!」



〈〈〈〈〈〈〈ヘ゛ェ゛ェェェェ…〉〉〉〉〉〉〉



 鳴き声がどんどん増えていってる…早くなんとかしないと大変な事になるぞ…

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