第29話 なりきり師、魅せられる。

 ダンジョン一階層で集合したおれたちは早速ダンジョン攻略を開始したのだが普段の格好しか見たことのない三人の冒険者の姿を見て少し驚いた。



 ギルマスは全身を隠すような鎧ではなく人間の急所となりそうな所が鉄?になっている防具をつけていた。

 胸、腹、背中、肘、膝は守られているが、腕や足は普通の服みたいだ。動き易さ重視の装備なのだろうか?

 武器は強そうな大剣を持っている。これはイメージ通りだな…ギルマスの職業ってなんなんだろう…?



 次にシルバさん。暗殺者の装備なのか全身真っ黒だ…

 顔も目元しか出てなくて待ち合わせをしていなかったら絶対にわからないレベルだ。

 今は頭のマスク?を外しているからいつものシルバさんだけど知らなかったら普通に怖いよね…

 夜なら目立たないのだろうが明るい場所では逆に目立って仕方ないと思う…

 昔ながらの忍者みたいだ。あれ?この世界に忍者っているのかな?



 最後にマーガレット所長…一言で言うとゴリゴリだ…

 筋肉ムキムキの体にピチピチの真っ赤な革のパンツ手にはダイア?なのか全体的にキラキラした結晶が付いているグローブをつけ上半身は鎖かたびらを着て革のベストを羽織っている…

 これが殺傷拳のゴロズと恐れられた人か…確かに色んな意味で1番怖い…



「ユウキどうする?戦ってレベル上げながら行く?」


「う〜ん…マッピングが完成してる一、二階層とほぼ埋めてある三階層は襲ってこないモンスターは無視してもいいと思う。

どうせ四階層と五階層で戦わなきゃいけないし六階層からは初めてのエリアだからモンスターの位置わかんないし…。」


「そっか、そうだね!おれたちが目指すのは十階層だもんね。」


「ユウキ、それについてなんだが少しいいか?」


「なんですか?」


「お前たちが見たって言うブーンビーの巣ってのを一度確認してみたいんだ。

クイーンブーンビーはこのダンジョンの十八階層から出るんだが巣ってのは見た事が無くてな…。」


 クイーンブーンビーって後から出るモンスターなのか…やっぱり上位種説があってるのかもしれないな。



「わかりました。ただ凄い数のブーンビーが周りにいるので気を付けてくださいね。」


「大丈夫だよ。ブーンビー程度が何匹いようと僕達が倒すからさ。」


 この三人ならブーンビーなんて敵にもならないんだろうな…








 〜アイズダンジョン三階層〜



【魔法使いの熟練度が3に上がりました】

【スキル ストーンスパイラルを覚えました】

【スキル バインドプラントを覚えました】



「おっ、熟練度が3に上がった!やっぱり低い内は上がるの早いな。」


 いつものようにブーンビーが三体で襲いかかってきたのでウインドサイズで倒した。

 魔法使いで敵を倒したのはギャザーウルフ以来初めてで熟練度はすぐに上がった。



「ユウキはよく魔法使うのにまだ3だったんだね。」


「そうなんだよ。戦士でも魔法が使えたし魔法使いの職業に転職してもトドメをさしてなかったりであんまり育って無かったんだ。」


「ユウキ、お前とんでもねぇ戦い方をするんだな…」


「えっ?何かおかしかったですか?」


「ユウキちゃん、あなた自分の凄さに気づいてないのねぇ〜?」


「???」


 何だろう…至って普通に魔法で倒したんだけどな……



「無詠唱に魔法の連続使用どちらも普通の魔法使いにはできないんだよ。

と言うよりどの職業でもそんな事ができるなんて聞いたこともないよ…。」


 そっか無詠唱はEXスキルだったな…でも魔法の連続使用はEXスキルには無かったぞ?

 それに最初からできてたしおれにはこれが普通だったからな…



「そうなんですね?他の魔法使いが魔法を使ってる所を見た事が無いのでいつもこうやって倒してました。」


「アイアンスコーピオンを倒した時はもっと一杯連発してたもんね!」


「ハハ…こりゃおれたちが思ってた以上に常識外れの新人だったな…」


「あたしたちを追い抜くってのも案外すぐかもしれないわねぇ〜。」


「君達には驚かされてばかりだよ…」


 なんだろう…何をやっても裏目に出てしまうな…村では別に目立つ事なんて無かったんだけどな…



〈ブーーーン〉〈ブーーーン〉〈ブーーーン〉



「また来てる…ホーク新しい魔法を使ってみるから倒す準備だけしておいて!多分拘束系の魔法だから。

あと毒を飛ばしてくる攻撃には注意してね。」


「わかった!」


 モンスターマップにはこっちに向かってくる3つの赤い点が映し出されている。

 ブーンビーは姿が見えるより先に羽の音が聞こえてくるからわかりやすいな。

 そうこうしている内にもう目でも確認できる距離に近付いていた。



「バインドプラント!」


 スキルを使うと蔓が出現しブーンビーへと伸びて行って巻き付いた。

おれの手元では一本だったのにブーンビーに巻き付く時には幾重にも広がり三体全てに絡みついて拘束した。



「あんまり耐久力はなさそうだな…まぁブーンビーには使えるか…。」


 恐らくアイアンスコーピオンには使えないと思う。力づくで千切れば蔓なので千切れてしまうだろう…これは使い方を考えないとな…。



「ヘヘッもーらい!」


 蔓が絡みつき飛べなくなって地面に落ちたブーンビーをホークが全て倒してくれた。

 この戦い方ならMPも魔法1発分で済むので節約できるな。



「じゃあそろそろ巣に近いので行きましょうか。案内します。ついてきてください。」









 〜ブーンビーの巣の近く〜



「あれです。」


 ブーンビーに気付かれないよう小声で話す。



「想像以上だな…いくら雑魚でもあんなに数がいるのか…」


「気持ち悪いわぁ〜!」


「確かに範囲攻撃がないと面倒そうだね…」


 ここに来るまでに十八階層のクイーンブーンビーの事を聞いたのだがお供に連れているブーンビーはこの三階層のブーンビーより強いそうだ。

 ただ連れているのは大体が5体でそのフロアに行けるような冒険者なら倒せない強さではないそうだ。



「シルバあのブーンビーを鑑定してくれ。」


「わかりました。鑑定!」


「どう〜?どっちのブーンビーなのぉ〜?」


「あれは三階層のブーンビーですね。雑魚の群れです。」


「そうか。なら隠れる必要なんてないな。ユウキ、ホーク、お前らでも問題なく漏れたやつを倒せるぞ!」


「「えっ?」」


 漏れたやつ?えっ、どう言う事?まさか……



「久しぶりに暴れてやるぜ!」


 そんな捨て台詞を残してギルマスはブーンビーの大群に向かって行ってしまった…



「嘘だろ!」


「本当よユウキちゃん!あなたたちが気がかりだったけどぉ〜、雑魚なら大丈夫よねぇ〜?あたしも行ってくるわぁ〜!」


 マーガレット所長も飛び出して行ってしまった…



「僕は一応ここに残るよ。万が一って事もあるからね。

ユウキ君、君遠距離攻撃できるなら倒してもいいよ。レベル上げしたいんだろ?」


「それはそうですけどあの二人は大丈夫なんですか?あんなにも数がたくさんいるのに…」


「君が心配する程あの二人は弱くないよ。もちろん僕もね。」



〈ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブ〉



「「わっ!!」」


 ブーンビーが二人に気付いたのか物凄い羽音をたてた。

 あの大きさの蜂が何百も一斉に羽ばたくとうるさいなんてもんじゃない…

 シルバさんはこう言ってるけど本当に大丈夫なのか?


 ギルマスとマーガレット所長は一体どこだ?あっ、ギルマスいた。


 あれ?武器が大剣から変わってる?あれは…蛇腹剣か?鞭剣とも呼ばれる剣の中心にワイヤーがあって鞭の様に伸びてしなる剣だ。


 でも一体いつの間に…



「スゲー!」


 寸分の狂いもなく剣を扱い近くのブーンビーから真っ二つにしている。

 まるで剣を使ってパフォーマンスをしているみたいだ…。


 あっ、また武器が変わった…今度は銃?なんで?どう言う事だ?


 ギルマスが持っている二丁拳銃で高く飛んでいるブーンビーを撃ち落とす。

 パンパン撃って全ての弾がブーンビーに当たっている。弾を全て撃ってしまったのかまた武器が変わる。


 今度はなんだ?指を立て何かをくるくる回している…



「シルバさんギルマスの職業って何ですか?」


「ハハ、驚いたかい?う〜ん…僕に聞くより後で本人に聞いてみなよ!

それよりレベル上げはいいのかい?早くしないと終わっちゃうよ。」


「今はレベル上げなんていいです!」


 それよりもっと見てみたい。あの不思議な戦い方を…


 くるくると指で回していた物をギルマスは投げた。投げた物は弧を描きながらまたギルマスに戻った。


 その際ブーンビーを何体も真っ二つにして…


 そうか!あれはチャクラムだ!丸い円形の刃物で真ん中はくり抜かれている武器だ。ギルマスはあんな武器まで使うのか…。


 そうだ!マーガレット所長は?…いた!ギルマスとは反対の方で離れて戦っていた。


 えっ?なんで空中にいるブーンビー相手に拳で戦ってるんだ?と言うよりどんだけジャンプ力あるんだよ!


 マーガレット所長は地上何メートルかわからない程ジャンプして空中で戦っていた。

 もちろんジャンプなので落下しているのだけどその落下中にもブーンビーを倒していた。


 地上に降り今度は空に向かって拳を突き上げる。

 拳圧で空気を撃ち離れているブーンビーを撃ち落とす。それを連発でラッシュしている…

 おれの斬撃波なんかよりもよっぽど威力があるぞあれ…


 あれだけいたブーンビーを二人だけでほとんど倒してしまった…

 あっ、ギルマスがこっちに向かって手を振ってる…振り返した方がいいのか?



「ユウキ君、ホーク君、僕達も行くよ。」


「えっ?行くって今からボスのクイーンブーンビーと戦うんですよね?」


「そうだよ。こんな低層階でクイーンブーンビーと戦える事なんて滅多にないからね。君達には、いい経験になると思うよ!」


「おれたちも戦うんですか!?」


「そりゃそうだよ。君達の昇格依頼だからね。さっ、行くよ!」


 えー!この人達何考えてんの?確認するだけって言ってここまで連れてきたのに討伐も始めてるしおれたちも戦わないといけないなんて…


 強制的におれたちも戦場に連れて行かれブーンビーの巣の前まで来た。

 遠くで見るよりめちゃくちゃでかい。日本の蜂の巣の何十倍もあるぞこれ…


 おれたちが到着したことでギルマスが最後の一体にトドメを刺した。



『ボガーーーーーン!!!』



 その時蜂の巣が破裂し中からブーンビーより5倍程大きいクイーンブーンビーが現れた。



「おっ、こいつはでけぇな!」


「十八階層のより大きいわねぇ〜!」


「ボス扱いってのは本当のようですね。」


「ユウキ、ホーク、気を引き締めろよ!」


「「は、はい!」」


 全く予期せぬ形でボス戦に巻き込まれたが始まってしまったのだから仕方ない。全力で倒してやる!

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