第28話 なりきり師、出発する。

 〜ガルーダの止り木〜


 生活魔法を覚えたおれたちはそのまま寄り道する事なく真っ直ぐ宿へと帰った。



「あらおかえりユウキ、ホーク。今日も頑張ったのかい?」


 この人はこの宿『ガルーダの止り木』の女将のネネさん。優しくも厳しい肝っ玉母ちゃんみたいな人だ。



「たっだいま〜!ネネさん!ねぇ聞いて聞いて!おれたち生活魔法を覚えたんだよ!」


「まぁそれはよかったねぇ。冒険者を続けるなら生活魔法はきっとこれからも役に立つよ。スキルはその人の財産だよ大事にしなさい。」


 スキルは財産か…そんな考え方もあるんだな…。



「あ〜!ユウキお兄ちゃんと、ホークお兄ちゃんかえってきた〜!ねぇ〜いっしょにあそぼう!」


 この子はネネさんの娘のミミちゃん。


 遅く帰った時は会わないけど朝は宿のお手伝いで表を掃除していて終わった後に一度だけ遊んであげたら凄く懐いてくれた。



「ミミちゃんこんにちはおれたちちょっと明日の事で相談しないといけないから遊べないや。ごめんね…」


「え〜!」


「こらミミ!お客さんに迷惑かけちゃダメだっていつも言ってるだろ!それより食堂のテーブル拭きのお手伝いはもうやったのかい?」


「い、いまからやろうとおもってたんだもん!ほんとだもん!」


 そう言って足早に食堂に消えて行ってしまった。この世界では生まれた家や親の仕事によって子供の手伝いは変わる。

 ミミちゃんのように宿の家に生まれたなら掃除や配膳たまに接客などもするのだろう…。 


 おれやホークは村の農家の生まれだから畑仕事を手伝いとしてよくやらされた。

 その手伝いで貯めたお小遣いがこの間冒険者として最初に持っていたお金だ。



「悪いね二人共。また暇な時でいいから相手してあげてくれるかい?」


「もちろんですよ。あっ、でもおれたち明日から少し忙しくて宿にも帰ってこれないと思うんです。

多分2、3日すれば帰ると思うのでまた泊まりに来てもいいですか?

その時でよければ遊び相手になりますので…。」


 多分十階層に行くのに日帰りは無理だろう。死ぬつもりなんて毛頭ないが宿を離れる事は伝えなければならない。



「どこか行くのかい?まぁ冒険者なんだ一つの場所に留まる事なんてできないね。

わかったあの部屋は空けておくよいつでも帰ってきな!」


「いえ、売上にも関わりますし他の人を泊めてもらっても構いませんよ。

また来た時に空いてる部屋があればおれたちはそれで十分ですので。」


「あんた達はもうウチの常連なんだ!気にする事ないよ!冒険者なんだそんな小さな事気にしないでさっさと用事を済ませてまた泊まりにきな!」


 ネネさん男前だな…女の人に言ったら失礼になっちゃうか……



「わかりました。早く戻ってこれるように頑張りますね!ありがとうございます。」


「ありがとうございます!」


「うん、よろしい!夕食までもう少しかかるから部屋で待ってな!時間になったら知らせに行くよ。」


「「お願いします!」」


 本当にこの宿を見つけれてよかった。ギルマスに呼び出されて時間が遅くなって他の宿はどこも一杯だった。

 7件目にしてやっと見つけた宿だったが食事もおいしいし人も優しいし大当たりの宿だった。




 その日は部屋に戻り明日の事を少し話して夕飯を食べその日は寝た。


 翌朝、覚えた生活魔法クリーンを二人で部屋中にかけた。

 その時昨日から気になっていた無詠唱で使えるかどうかを試してみたがおれは問題なく発動したがークは詠唱なしでは発動しなかった。


 ギルドへ行くとまだ時間より早いのにシルバさんがもう入り口の所で待っていた。

 だがこれからダンジョンに行くのにいつも着ているギルドの制服姿だった…。




「「シルバさんおはようごさいます。」」


「おはよう。まだ時間より早いのにちゃんと来て偉いね。ギルマスたちも待ってるよ。部屋に行こうか。」


 少し早く来ただけで褒められてしまった。おれは時間にはキッチリしてるタイプの日本人だったので昔から約束の時間に遅れると言う事はあまりなかったのだが冒険者は時間にルーズなのだろうか?



「おう!早ぇなお前ら!いい心がけだ感心、感心。早速だかユウキ、このアイテムを全部持っていってくれ。」


 ギルマスの部屋に入るといきなり机に置かれているたくさんのアイテムを持っていくように言われた。



「おはようございます。これ全部ですか?凄い量ですね…」


 ポーション、マジックポーションの他に見慣れない飲み物や、空の器、食べ物に缶詰、何に使うのかわからないアイテムがたくさんテーブルの上にはビッシリと置かれていた。

 冒険者って普通はこんなに準備するのか?



「まぁ普通ならここから厳選して持って行くんだがな…

ユウキがインベントリ持ちだから今回は気にせず用意したんだ。

今回おれらは連絡が取れなくなってる冒険者の探索もするつもりだからな。」


 えっ!?そうなの?聞いてないよそんなの…まぁ強い人達だし寄生パーティーでマップ埋めしてもいいか。

 十一階層から先は今回のおれたちには関係ないし…



「そんな顔しなくても大丈夫だよ。僕達は十階層で用事を済ませたらそのまま帰るよ。探索に行くのはこの二人だけだよ。」


 顔に出てた?まさか寄生する気満々なのばれた?



「なんだビックリした!十階層までって言ってたのが変わったのかと思ったよ!」


 顔に出てたのはホークか…よかった……



「アハハ、ただでさえ君達には危険な事をしてもらうんだ。それ以上は迷惑をかけられないよ。」


「そうよボーイズ。あたしと一緒にいれなくて寂しいピュアハートは名残惜しいけどぉ〜!あたしも大人の女としてこんなキャワイイボーイズに危険な事をさせるのは本当は反対なのよぉ〜!」


 おれが転生人だって知っても子供扱いは変わらないのか…あれ?そういやおれの前の年齢って言ってないな。まぁ聞かれないし別にいっか…。



「話がややこしくなるんでゴロズ所長少し黙っててください。」


「あ〜ん!シルバちゃんのい・け・ず♪でもそんなところもカワイイのよねぇ〜!」


 この二人って案外相性いいよな…


「ん゛ん!ユウキ、ホーク、改めてダンジョンに潜ってもらうお前たちに話すことがある。」


「なんですか?」


「今回のダンジョン探索なんだが昇格依頼にする事に決定した。」


「「昇格依頼?」」


 冒険者ランクが上がる為に必要ってサナさんが最初に説明してた奴か?



「あぁ!本来ならギルド依頼を規定の回数こなしてから受ける昇格依頼だ。

お前たちはまだ依頼を一つしか達成していないそうだが今回はおれの権限でこの依頼が達成できれば二人共Eランクまで上げてやる。」


 E?おれらまだGランクだぞ。Fランク飛ばしてEまで上がるのか?



「依頼の内容ってのはなんですか?」


「十階層のボスを倒し騒動を鎮める事。つまり同行はするがおれたちは試験官だ。危なくなれば助けるが基本的にはお前たちだけでやるんだ。

どうせお前たちに行ってもらわなければいけないんだ。試験はついでだと思ってもらって構わない。すまないが今回の事を依頼として受けてくれ。」


 これってめちゃくちゃラッキーな展開じゃないか?


 依頼数が全然足りてないのにこの依頼を受ければ2ランク昇格できてしかもおれたちが最初からやらなきゃいけない鎮静化も同行してくれる。

 棚ぼたにも程があるだろ!まぁそう言う設定にしてくれたんだろうな。



「もちろんです。その依頼受けます!ありがとうございます!」


「本当なら転生人のお前がいるパーティーだ。もっとランクを上げてもいいんだがあまりにやり過ぎると他の冒険者からお前たちが睨まれてしまうからな。

決闘でチームヒーローを倒したって事もあるしEランクまでなら周りも納得するだろうよ。」


「全然大丈夫です。ランクは自分達で好きな時に上げていきますし」


「おれらは自由にやっていく為に冒険者になったんだもんね!」


「ったく大物になるよお前らは…依頼として受理しておくからダンジョンに1時間後に集合だ。

今ダンジョンには見張りを付けている。そいつらには説明してるから中に入った所で落ち合おう。」


「「わかりました。」」






 ギルドを後にしどこか寄っておきたい所がないかホークに確認するが無いそうなのでそのままダンジョンへと向かった。

 街からダンジョンまでは15分で着くので時間に余裕はかなりあったが早く来る分には問題ないだろう…。


 ダンジョンに到着すると入り口の前に二人ギルドの制服を着た人が立っていた。



「あ、あの、昇格依頼を受けに来たんですけど…」


「ユウキさんとホークさんですね。ギルマスから聞いています。どうぞお入りください。」


「ありがとうございます。」


 ギルマスはどんな説明をしたんだろう?鎮静剤の事とか話せないしダンジョンの異変を伝えるとおれたち低ランク冒険者が入るのは怪しまれるよな…?

それに今は他の冒険者のダンジョンを立ち入り禁止にしてるはずだし職員さんからすればおかしい状況のはずだよな…昇格依頼ってだけで納得してくれてるのかな?



「この階層のボスはネコマタかぁ…レッサーネコマタの上位種なんだろうな。モンスターマップ。」


 プライから聞いたフロアボスのネコマタ…ボスって言ってたけど多分上位種なんだろうな。

 まぁ今のおれたちにしたら上位種はボスか…


 モンスターマップを開いてモンスターの確認をしてみたがこのマップはモンスターの位置を教えてくれるものでモンスターの種類を個別に教えてくれるものではない。

 だからどこにネコマタがいるのかまではわからなかった…。



「ユウキ、今日は何の職業の熟練度を上げるの?」


「今日は魔法使いを上げようと思ってるんだ。

アイアンスコーピオンみたいにおれらの物理攻撃では倒せない敵も魔法ならなんとかなる場合もあるし魔法を増やして戦闘の幅を広げようと思う。」


「そっかー!なら今日はおれが一人で前衛だね!」


「大変かもしれないけど頼むな。おれも状況によっては前衛職に転職するから!」


「うん!任せといて!」


 大まかな打ち合わせも済ませギルマス達三人を待つこと数十分…。

 ギルマス達もそれぞれの装備を身に着けやってきた。


 これで全員の準備は万端だ。勇者パーティーがやらかしたダンジョン活性を鎮めると言うおれたちの昇格依頼が今スタートする。

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