第27話 なりきり師、生活魔法を覚える。

 案内されたのはたくさんの資料?のある部屋を抜け机と椅子が5、6個あるだけの部屋だ。



「それでは生活魔法の講義をはじめます。

講師はギルド職員のサナ=リースウェルが担当させていただきます。よろしくお願いします。」


 サナさんのフルネームってそういや初めて知ったな。この世界では日本と違って基本的に名乗るのは名前だけだもんな。

 それに講義の雰囲気って学校みたいでなんか懐かしいな。高校はそんなに行けなかったから地味に嬉しいかも。



「「よろしくお願いします。」」


「まずはじめにユウキさんは魔法がもう使えますよね?」


「はい。使えます。」


「では、ホークさんが魔力を感じる所から始めましょう。ユウキさんは少しだけ待っていてくださいね。」


サナさん大丈夫かな?初めての人がホークにスキルを教えるって結構大変だと思うんだけどな…



「はーい!」


「ホークさんいつもスキルを使う時の感覚ってどんな感じか今説明ってできますか?」


「ん〜!スキルを使うとぐわ〜ってなって体がパシュンって動いてズバーって発動します!」


 ホークの感覚派すぎる説明では何一つわからないだろうな…ほらサナさんがこっちをどうしたらいいのって目でこっち見てるよ…。仕方ない…



「ホーク?ぐわ〜ってなってる時って体が少し暖かくなったりするよな?」


「なるなる!」


「その後パシュンってならないようにできるか?もちろん今スキルを使っちゃダメだよ。」


「わかった!やってみる!」


 ホークの言ってる『ぐわ〜』ってのはMP消費のタイミングの事だ。

 ホークのスキルは両方とも魔法ではないので魔力は使っていないがMP消費の感覚と魔法を使う感覚は似ているのでまずはそこから覚えればいいだろう。



「ぐぬぬ…うぅ〜!」


「サナさんごめんなさい勝手に進めちゃって…」


「い、いえ…こちらこそごめんなさい。私の聞き方が下手なばっかりに…」


「そんなことありませんよ。今回は相手がホークだったってだけですよ。おれが慣れてただけです。」


「さすがですね…私もしっかりしないと!」


「くぅ〜!…りゃあ!」


「ホーク、そんなに力を入れなくてもいいよ。お腹の真ん中から全身に向かって暖かさが広がるイメージをしてみて。」


「わかった!お腹の真ん中から…お腹の真ん中から……」


 おれは魔法が使えるので基本的な事なら説明できる。

 なりきりチェンジで魔法使いになってすぐにスキルを覚えたから気にして無かったけど双剣士のホークが魔力を感じるって難しいのかもしれないな……。



「うーん…ダメだわかんない…」


「そっかわかんないかぁ…じゃあしょうがないね。次の段階に進もうか。

サナさん、生活魔法使ってる所を見せてもらってもいいですか?」


「えっ!?いいんですか?ホークさんはまだ魔力の感覚を掴めてないですよね?」


「はい、大丈夫です。多分ホークの場合口で説明するよりも実際に見せた方がイメージしやすいと思うんで。」


 魔力を感じないなら実際に使う所を見せた方がホークにはわかりやすいかもしれない。

 実際に使ってもらって自分の目で見てそれを真似してコツを掴めばいいだけだ。



「わ、わかりました…では最初は火起こしに使う魔法のプチファイアを覚えてもらいますね。まずは私がやってみますので見ていてくださいね。」


「「はい!!」」


「種火よ我が指先に灯れ、プチファイア。」


 サナさんが人差し指を一本立て呪文を使う。すると指先にファイアボールよりも全然小さなライターを使った時のような火がポッと灯った。



「これが火起こしのための生活魔法プチファイアです。生活魔法は普通の魔法と違い攻撃用途には使えません。

ですが魔法の使い方の上手さや魔力の込め方によって大きさが変わったりします。」


 そう説明しながらサナさんのプチファイアは大きくなったり小さくなったりと変化していた。



「ではお二人もやってみてください。」


 おれは基本無詠唱だから呪文って何気に初めてだな…さっきホークに偉そうに説明した手前できなかったら恥ずかしいぞ…



「「種火よ我が指先に灯れ、プチファイア!」」


 ボッと指先から炎が出た。よかった使えたようだ。



 【スキル プチファイアを覚えました】



 へぇ〜こうやって使ってから覚えるスキルもあるのか…スキルって奥が深いんだな。

 ホークはどうだ?あっ、出てない…いきなりは難しかったか…



「プァー!出ねぇや!やっぱユウキはスゲーな!一発で使えてるじゃん!」


「おれは元々魔法が使えるからな。仕組み自体は理解できるだけだよ。」


「ホークさん、心配しないでください。生活魔法は確かに簡単な魔法ですけど普通は何度か練習しないと扱えません。

ユウキさんが少し特殊なだけですよ。ホークさん、しっかり練習してマスターしてくださいね。」


「ホークさっき魔力を感じようとした時の事覚えてる?」


「お腹の真ん中からってやつ?」


「そう、それ。今度はお腹の真ん中から全身じゃなくて指先にかけて魔力が流れるイメージをしながらやってみて!大丈夫!ホークはスキルを使えてるんだから絶対にできるよ!」


「う〜ん…わかった!やってみる!種火よ…」


 それからホークは何度も練習して、およそ30分が経過した時。



「なんかわかった気がする!種火よ我が指先に灯れ、プチファイア!」


 ボッと火は小さいが確かに出た。



「やった!やった!ユウキ出たよ!おれも魔法打てたよ!ほらっ!」


「危なっ!ホーク嬉しいのはわかるけど騒ぐのはちゃんと火を消してからにしないと危ないぞ。」


 火を付けたままの状態でおれの顔の前に指先を持ってきた…

 この世界には回復魔法があるから大丈夫だけど一応注意はしておく。


「あぁ…ごめんユウキ。嬉しくってつい…でもできたぁ!」


 ピョンピョン飛び回って喜んでる。まぁ初めての魔法だからな…。あれ?そういやおれ初めての魔法が出た時普通に流してたな…

 あっ、そうかあの時ってホークが落ち込んじゃってそれどころじゃ無かったんだった…なんか大分前のように思えるけどまだ五日しか経ってないんだな…。



「ホークさん、おめでとうございます。生活魔法はあと4種類です。頑張りましょうね!」


「はい!お願いします!」


 一度コツを掴めば残りも比較的早く覚えれるだろう。



「次は飲み水を作り出す生活魔法のウォータークリエイトです。先程のプチファイアとは違い掌に魔力を集めてください。」


「「わかりました!」」








 おれたちはサナさんの講義を受け一つ一つ生活魔法を使えるようになっていった。



「それでは最終試験です。今まで覚えた生活魔法を使ってみましょう!」


「「はい!!」」


 ホークも魔力のコツを掴んだようで残りの生活魔法を覚える際プチファイア程時間はかからなかった。

 ただ連続で発動することはできず次の魔法を打つまでに少しインターバルが必要だった。



「「種火よ我が指先に灯れ、プチファイア!」」


 指先からボッと火が出るプチファイア。巻を燃やすもよし紙を燃やすもよしモンスターの後始末にも使える生活魔法だ。



「合格!」


「「清らかなる水よ、我が元へ集え、ウォータークリエイト!」」


 掌を上に向け魔力を集中させ水を出現させるウォータークリエイト。

 術者の技量次第で形を変えることができるので蛇口のように水筒や入れ物に入れる事もできる生活魔法だ。



「合格!」


「「物体に宿りし水分に安らかなる乾きを、ドライ!」」


 水分を乾かす生活魔法のドライ。薬草の水分を抜く為に使う事が多いそうだ。

 他にも洗濯物を乾かしたり干し肉を作るのにも重宝されているらしい。



「合格!」


「「不潔なる汚れに清潔を、クリーン!」」


 あらゆる場所、物、人に使えるクリーン。これがあればお風呂に入らなくても一応は清潔が保てたり掃除が簡単にできてしまう冒険者には必須の生活魔法だ。



「合格!」


「「光源よ我が道を照らし示せ、ライトボール!」」


 光の玉を浮かべ辺りを照らす生活魔法のライトボール。浮かせれる数や距離は術者によって異なる。ホークは2個、おれは7個浮かべる事ができた。



「全て合格です。お疲れ様でした。お二人共完璧にできてましたよ。スキル取得もできましたね?」


「「ありがとうございました!!できました!」」


「やったよ!ユウキ!おれ全部覚えられたよ!」


「おれもだ!ホーク!」


「「イェーイ!!」」


 ハイタッチを交わし喜びに浸る。



「おや?その様子だと生活魔法は覚える事ができたんだね?」


 部屋にシルバさんが入って来て生活魔法を覚えられたか聞いてきた。



「はい!覚えました!もう完璧です!シルバさんはどうしてここにきたの?」


「僕がここにきたのは換金が終わったからだよホーク君。

終わるまで待ってようと思ってたんだけど丁度終わったみたいだね。」


 さっき渡した素材の鑑定終わったそうだ。わざわざ届けに来てくれたのか…ありがたいな。



「今最終試験がおわった所です。ごめんなさいシルバさんおれたちが取りに行かなきゃいけないのに。」


「構わないよ。じゃあ早速渡しちゃうね。まず内訳から説明するね。

最初にギャザーウルフの毛皮が8枚で8千プライ爪が8体分で3千2百プライ。」


 フィールドで倒したギャザーウルフはダンジョンとは違い毛皮、爪、肉が手に入った。

 インベントリに入れる事で解体するかどうか選べるので全て解体しておいたんだ。



「それからブーンビーの蜂蜜が15個で2万2千5百プライ、ホーンゴートの角が9本で1万8千プライ。」


 ブーンビーの蜂蜜は前に売った時より安くなってる。あれは依頼として出てた物だから割高だった。

 ホーンゴートはもっと倒してる気がしたが本体は9体しか倒してなかったようだ…勇者パーティーめ……



「そして最後にアイアンスコーピオンの魔石が5万プライ外殻が3万プライの合計13万1700プライでギルドが買い取るよ。」


 アイアンスコーピオン高ぇ!アイツだけで8万プライもするのか…倒し方もわかったし鎮静剤打たずに周回すれば金持ちになれるぞ…

 いやダメだ!明日からこの強者三人とダンジョンに行くんだった!それに早くしないと他の冒険者も困ってしまうんだ。



「ありがとうございます。それで売ります。いいよなホーク?」


「いいよ!これで少しは貯金できたね!」


「わかった。それじゃあこれが報酬だ。確認してくれ。」


 万プライのコインが13枚に千プライのコインが1枚百プライのコインが7枚ちゃんとある。



「はい、大丈夫です。ありがとうございます」


「ありがとうございます!」


「これで換金は完了だね。それとギルマスからの伝言があるんだ。

明日の朝9時にギルマスの部屋に集合らしいよ。僕が今日みたいにギルドの入り口で待ってるから遅れないようにしてね。」


 この世界は日本と同じで24時間365日だ。

 四季と言う概念はなく一年中暑い地域、一年中雪が降る地域など場所によってそれぞれ季節が変わる。

 宿に時計の魔道具は置いてあったので遅れる心配はない。



「わかりました。明日の9時ですね。」


「今日はもうすぐ夜になる、真っ直ぐ帰るんだよ。それじゃあ僕はまだ仕事があるからこれで失礼するよ。」


「「ありがとうございました。」」


 シルバさんが部屋から出ていった。



「生活魔法の講義も終わりましたし私達も解散にしましょうか。玄関までご案内します。」


「「ありがとうございました。」」


 玄関までサナさんに案内されおれたちはギルドを後にする。

 明日は一気に攻略を進めダンジョン十階層を目指す。今日はしっかりと休む事にしよう。

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