第26話 なりきり師、顛末を知る。

 ギルドを飛び出し教会にやって来た。どの街や村にも必ず教会は一つはある。

 信仰している神は違うかもしれないが教会ならプライに会うには問題ないだろう。



「すいません!お祈りしたいんですけどいいですか?」


「はい、ようこそいらっしゃいました。勿論お気の済むまでどうぞ。礼拝堂にご案内しますね。」


 メルメルの街の教会のシスターに礼拝堂まで案内してもらう。

 リーイン村の教会と違い街の教会は少し大きくてきらびやかだ。



「こちらです。どうぞごゆっくり。」


「「ありがとうございます。」」


 おれとホークはプライに祈りを捧げる。


(プライ聞きたい事があるんだ!プライの世界に連れて行ってくれ!)


 そう祈っていると意識が切り替わる感じがした。






 〜プライの世界〜


「やぁ、ユウキ君。待ってたよ。」


「プライ!ありがとう。待ってたって事はおれたちの事見てたのか?」


「もちろんだよ!君ほど面白い存在は無いからね!君、危ない橋を渡りすぎだよ!何度ピンチになれば気が済むの?」


「ピンチになりたくてなってる訳じゃないんだけどな…それより見てたなら話が早いよ。ダンジョンで異常な事が起こってるみたいなんだ。原因ってやっぱり最下層の悪魔なのか?」


「違うよ?」


「えっ?違うのか?じゃあなんだろ…」


「何があったか見せてあげよっか?君は怒ると思うけどね…。」


「そんな事できるのか?それにおれが怒る?」


「僕を誰だと思ってるんだい!できるに決まってるじゃないか!」


「なら頼むよ!一つ目のダンジョン攻略から変な事が起こって困ってるんだ。」


「いいよ。どっちにしろ君に渡すしかないからね…。じゃあ見せてあげるよ。」



『パチン!』



 そう言ってプライが指パッチンすると周りの風景が変わった。







 〜数日前、ダンジョン内の勇者パーティー〜


「ボクつまんない!なんだよぉこのダンジョン!モンスターが弱すぎだよ!」


「確かにそうですわね…辺境な所の低レベルのダンジョンですからしょうがないのでしょうけどこれはあまりにも……」


「普段王都のダンジョンに通ってる僕達からすればそうかもしれないね。でもこの程度のダンジョンでも攻略が難しい人達もいるんだよ!」


「かぁ〜!雑魚に合わすってのも疲れるな!おれたち勇者パーティーだぜ!雑魚がおれたちに合わせろよな!」


「ねぇねぇショウ!どうにかなんないの!?ボクこんな所まできてこれで帰るのイヤだ!」


「うーん…僕もまさか王都のダンジョンとここまで差があるとは思って無かったな…そうだ!じゃあさあれ使ってみる?」


「まぁ!ナイスアイデアですわ!ショウ!やはりあなたは頭がよいのですね!」


「なるほど!そうだな!使いどころはここしかねぇかもな!」


「なになに?何の話?ボクにも教えてよ!」


「ユキノ、最初にゼットテスタ様に貰ったアイテムが僕達にはあるだろ?覚えてない?ほらダンジョン活性剤だよ!」


「あ〜!思い出した!レベルアップに役立てろってくれたやつだね!今使うの?使うんだよね?使おうよ!」


「ちょっと待ってね。アイテムボックス…あった!じゃあいくよ!」


「これで少しは難易度が上がるといいのですが…」


「よし十一階層に行こうぜ!」


「よ〜し!暴れるぞぉ〜!」


「皆やる気が出たみたいだね!よかった。それじゃあ行こうか!」








 〜再びプライの世界〜



「と、言うわけさ。」


「またあいつらかあぁぁぁ!!!」


「だから言ったでしょ?君は怒るって…。」


「どれだけおれたちの邪魔をすれば気が済むんだ!プライも転生させる奴くらいまともなの選んでよ!」


「僕があんなの転生させるわけないでしょ。さっき勇者が言ってたでしょあの子達を転生させたのは武神のゼットテスタだよ。」


「武神?」


「まぁ一言で言えば戦いの神だね。好戦的な人間を転生させてるんだろう…。」


「そんな迷惑な選び方ってありなのかよ…」


「神それぞれにも好みがあるからね。こればっかりは仕方ないよ。」


「仕方ないで済ませるのか…」


「もちろんあの勇者パーティーには僕が神罰を与えたよ。ゼットテスタにもお灸は据えたししばらくは大人しくなるだろうね。」


「神罰って?」


「創造神の怒りってEXスキルを付与したよ。彼らの副職業をしばらく使えなくしたんだ。期間は半年ってところだね。」


「あっ、やっぱり副職業もってたんだあの勇者パーティー…

でも基本職業だけでもアイツら戦えるだろ?それだけで済ませるのか?」


「まぁそうだね。転生人ってだけあって能力は元々高いからね。まぁ神にも色々事情があるんだよ。

僕がその気になればあんな勇者達なんか一瞬で消せるよ?でもそれをやるとゼットテスタの奴がうるさそうだしこれで我慢してね。」


「自分達に合わせろとか言ってる奴だぞ?それで反省なんかしないと思うけど…」


「う〜ん転生人って基本調子に乗るからね…あの子達が特別変だって事もないんだよね…

これで悔い改めてくれるなら僕としても助かるんだけどね…」


「神様って苦労してるんだな…」


「君も今後の行動次第であれと同じになるからね…?気を付けてくれよ?」


「流石に同じにはしてほしくないな…あの勇者パーティーにいつかまた会いそうな気がして凄く嫌なんだけど…」


「まぁ目的は同じだしそんな事もあるかもしれないね。それより君に渡す物があるんだ。」


「そういやさっきも何か渡すって言ってたな。」


「これさダンジョン鎮静剤。これをさっき勇者が活性剤を使った場所で使ってみて。

あのダンジョンが元に戻るから!場所はそのアイテムが反応するからすぐわかるよ。」


「それっておれたちが十階層のボスを倒さないといけないって事か?」


「そうなるね。それどころか今あのダンジョンには各階層にボスがいるんだよ。

一階層のネコマタ、二階層のギャングウルフ、三階層のクイーンブーンビー、四階層のバイホーンゴートって感じにね。」


「嘘だよな…?各階層にボスだと?…まさかそれもリポップするのか?」


「そうだね。鎮静剤を使ってから最低でも一回倒さないと消えないね。

鎮静剤を使う前に倒してもそのうち復活しちゃうよ。」


「なにしてくれてんだよ!あの勇者パーティーまじで疫病神じゃねぇか!

どうすんだよ一つ目のダンジョンからラストダンジョンみたいじゃねぇかよ!勝てるのかそんなのに!」


「今のままだとすぐに限界はくるね。三十五階層までボスが出てしまったからなりきり師のレベルを上げるしかないよ。

ユウキ君それよりもう時間みたいだよ…。」


「えっ!?もう?前より早くないか?」


「君はこの間来たばかりだからね。今度来るときはもっと期間を開けてからくるといいよ。」


「プライ!ホークもプライに会いたがってたんだ!なんとかならないか?」


「彼ではまだここには来られない。君のパーティーだから融通してあげたいけど存在が弱すぎる。

彼もまたレベル上げをとにかく頑張るところからだね。」


「わかった!ありがとう。伝えておくよ!」


 意識が一気にぼやけた。








 〜教会、礼拝堂〜


「ホーク、ギルドに戻ろうか…」


 衝撃的な事実を教えられつい落胆してしまう。



「ユウキ?大丈夫?」


「あぁ…ギルドで全部話すよ。」


 さっきあったシスターにお布施を渡して教会を後にする。





 ギルドに戻ると入り口にサナさんとシルバさんが待っていた。

 ギルマスの部屋まで護衛されおれはさっきプライに聞いた事を話した。



「そんな…全階層にボスが出現だなんて…」


「まさか勇者パーティーがそんな事をするとは…」


「ユウキちゃんがプライ様に貰ったアイテムで鎮めるしか方法がなくって…」


「先に倒しても復活するってか…」


 おれが転生人だと明かした事でギルドの職員さんたちは何も疑わず嘘みたいなこんな話でも信じてくれた。



「おれ行ってきます!まずは十階層に。」


 それしか方法はないから。



「危険すぎます!許可できません!」


 サナさんがいつも以上に声を上げる。でもおれが行かないと終わらない…。



「大丈夫ですよ。サナさん!同じ転生人がやらかした事です。おれが後始末してきますよ。」


「でも…」


「それにおれにはホークって言う頼りになる仲間もいますからね。なっ!」


「そうだよサナさん!おれとユウキでバーっと倒して来ちゃうからさ!」


 このままこのダンジョンを放置していればきっと多くの犠牲者が出てしまう。

 勇者が言うにはこのアイズダンジョンはモンスターのレベルがそこまで高くないらしいし、ここで生活している人達だと今のレベルのダンジョンにはついていけないだろう。


 もちろんギルマスやマーガレット所長、シルバさんのように強い冒険者もいるだろうが、そういった人達に任せるにしてもおれが鎮静剤を使わなければならない。


 どちらにせよおれが十階層に行かなければいけないことは決定事項だ。



「じゃあ早速行こうかホーク!」


「そうだね!パパっと行って帰ってこよう!」


「ユウキ、ホーク、ちょっと待て!」


 ダンジョンに行こうと思ったらギルマスが止めてきた…



「どうしました?」


「ダンジョンに行くには今日はもう遅い。明日にしろ。」


「でもそんな事言ってる場合じゃないでしょ!」


「今から行って休憩や睡眠はどうする気だ?おまえら結界アイテムとか持ってるのか?」


 結界アイテム?なんだそれ?初耳だぞ。


「結界アイテムは持っていません。でもおれはモンスターマップがあるのでモンスターが近付いてくればわかりますよ。」


「お前まだそんな事言ってるのか?おれはお前の素性を知ったその上で必要だから止めてるんだ。

たまにはおれたちの言う事を信じてみたらどうだ?」


「ユウキちゃん。今回の事は本来全部勇者パーティーの仕業でしょ〜!ユウキちゃんが背負い込む必要はないのよぉ〜。」


「冒険者ギルドとしても君達だけに任せるつもりはないんだよ。

さっき決めた事なんだけどね僕達三人もダンジョンに行く事にしたんだ。」


 えっ?三人ってここにいる三人?冒険者辞めたんじゃ無かったのか?



「でも、皆さん冒険者辞めたんですよね…?」


「そうだね。それぞれの理由があって辞めたよ。まさか僕もまたダンジョンに入るなんて思って無かったよ…」


「でもねユウキちゃん、ホークちゃん。それでもあたしたちはあなたたちが心配なの。

あなたたちがどれだけ特殊な能力を持っていようがまだ新人冒険者には変わりない事なのよ。」


「まぁ、おれは二人と違ってギルマスになるから冒険者を辞めただけだ。そんじょそこらの冒険者より強ぇぞ!

ただ今回おれたちはサポートに徹する。ダンジョン攻略自体はお前らに任せるよ。

パーティーもお前ら二人パーティーとおれら三人パーティーで別れるからな。」


 おれたちより何倍も強いこの三人がここまで言ってくれるんだ今日ダンジョンに行くのは諦めよう。



「ホーク、今日はダンジョンに行くの辞めとこうか。」


「わかった!ユウキに任せるよ!」


「決まりだな!必要なアイテムはギルドが責任を持って用意する。お前らは明日に備えてしっかり休めよ。今日は決闘もやって疲れただろ?」


 そういや決闘やったのってさっきだったんだ。あまりに手応えがなさすぎて忘れてた…



「ユウキ疲れた?おれ全然本気で戦ってないから今日はまだまだ元気だよ!」


「おれも。決闘やったのがさっきだったって事も忘れてたよ。あえて言うなら手加減する事に疲れた位だな…」


「アハハ、やっぱり君達は面白いね。初めての決闘で手加減だなんて。」


「やっぱりぃ〜!あたしの目に狂いはなかったのねぇ〜!素敵よボーイズ。」


「ったく…とんだ大物新人だよ。でも今日は大人しくしとけ!そんなに元気なら街の観光でもしてろ!」


 街の観光か…そういやこの街に来てダンジョンに潜りっぱなしでギルドと道具屋と屋台しか行ってないな…



「わかりました。今日はゆっくりします。ホークどうしよっか?」


「じゃあさ!じゃあさ!ユウキ生活魔法覚えに行こう!朝言ってたでしょ決闘が終わったら行くって!おれ楽しみにしてたんだ!」


 生活魔法か…確かにそんな事言ってたな…危ねぇ忘れてた…。



「そうだな。じゃあ生活魔法を教えてくれる場所を探して覚えちゃうか!」


「よっしゃぁー!早く行こうユウキ!」


「生活魔法なら私がお教えできますよ。」


「「へ?」」


「私生活魔法講座の免許持ってますから。よかったらお教えしますよ。」


 生活魔法を教えてくれる人があっさり見つかってしまった。探す手間が省けたな。



「あっ、それじゃあサナさん、よろしくお願いします。」


「わかりました。お任せください!」


「ユウキ君、それより素材の換金はどうするんだい?アイアンスコーピオンの魔石以外出してないよね?」


「あっ!」


 そうだった色んな事がありすぎて換金まだしてなかったんだ。



「換金もお願いします!もう隠す必要もないしインベントリから全部出してもいいですか?」


「やっぱりインベントリ持ってたんだね。空間支配者のスキル欄があったからそうじゃないかと思ってたよ…。どの位の量があるの?」


「アハハ…今持ってるのは、3〜5階層の素材と、フィールドで倒したギャザーウルフ達位ですね。」


 インベントリだと時間経過しないので村を出た時に倒したギャザーウルフも腐らずにあの時のままだ。



「それなら大丈夫そうだね。ここで出してくれるかい?換金所までは僕が運ぶよ。」


「シルバさん、ありがとうございます。よろしくお願いします。」


 おれはインベントリから持ってるだけの素材を出した。



「ユウキ、お前これも忘れてるだろ!ちゃんと名前書いて持って帰れよ!」


 ギルマスが契約書とペンを持って一緒に差し出している。



「あ〜それ別にいらないです。もう契約スキル使ったんで。」


「あのなぁユウキ、どのスキルだって万能って訳じゃねぇんだぞ!いいからこれにもちゃんと契約して持ってろ!」


 スキルは万能じゃない。まぁそうだろうな。鑑定を邪魔する鑑定阻害なんて物もあるんだ。コントラクトも解除法があるのかもしれないな。



「わかりました。これはおれが持っておきます。」


 おれは名前を書きインベントリにしまい込む。



「よし!これで今できる事は全部だな。お前ら生活魔法を覚えたいならちゃんとサナの話を聞くんだぞ!」


「「はい!!」」


「それではユウキさん、ホークさん、部屋を移動しましょうか。ご案内します。」


「「よろしくお願いします!」」


 おれたちは生活魔法の講座を受けることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る