アイズダンジョン、鎮静編。

第24話 なりきり師、一触即発。

 あの後すぐギルマスが観客達に決闘は終わったので解散するように言い渡し、おれたちは訓練場を後にした。

 そのままギルマスの部屋へと連行され置いてあるソファへと座らされた。



「まぁまずは決闘勝利おめでとう。そしてありがとう。」


 ありがとうって言ったぞ…本当におれたちが勝つ方に賭けてたようだな…でもギルマスなのにそれでいいのか?



「…ありがとうございます」


 なんだろう素直に喜べないぞ…そうだギルマスはさんざんおれらを煽ってたんだった。今更なかった事にはならないからな!



「まぁそんな嫌そうな顔をするなよ!」


「さんざんおれらを煽ってたのはあなたでしょう。おれたちからの好感度が低い事位わかってるでしょ。」


「煽ってた?そんなつもりはないが?そうか…お前らはおれの事が嫌いなのか…」


 そんなつもりはない?どの口が言ってんだよ…



「はぁ…で、なんでおれたちはここに連れてこられたんですか?おれたちこれから素材の換金とか色々したいんですけど…」


「教えてやんねぇ!期待の新人に嫌われてギルマスの心はブロークンハートだ…」


 なんだこのおっさんうぜぇ…要件も教えてもらえないならもう帰ってもいいよな。



「そうですか。では失礼します。行くぞホーク!」


「えっ?いいの?」


「いいんだよ。早く換金に行こう。」


「今出ていったらお前らきっと後悔するぞ…」


 後悔する?何言ってんだ?



『コンコンコン…』



 部屋を出ていこうと立ち上がった時に部屋の扉がノックされた。



「入れ。」


「失礼します。あらユウキさん、ホークさんどうしたんですか?立ってないで座ってもいいんですよ。ギルマスちゃんと椅子位勧めてくださいね。」


 サナさんが入ってきて絶妙なタイミングで勘違いしていた。おれらは帰ろうとして立ち上がったばかりだ。



「どうだ?冒険者達の様子は?」


「はい、予想していた通り勧誘板の申請が止まりませんね…受付は今もごった返しています。」


「そうかわかった…。だそうだ。これでもまだ帰りたいか?」


「? 何の話ですか?勧誘板なんておれたちには関係ない事でしょ…行こうホーク!」


「関係大ありですよ!あなたたちに向けられた勧誘ですから。」


「「はい?」」


 おれたちの勧誘?なんの事だ?モブ達を倒しただけで勧誘なんてされるのか?



「まさかギルマス…ユウキさん達に何の説明もしてないのですか?」


「だってこいつらおれの事嫌いとか言うし…」


「はぁ…あなたって人は…申し訳ありません私から説明させていただきますね。お二人共どうぞお座りください。」


 サナさんが説明してくれるそうなのでとりあえず座って話を聞くことにする。



「説明の前に先程の決闘お疲れ様でした。本当に勝ってしまうとは驚きました。」


「「ありがとうございます!」」


 さっきとは違い素直に喜べた。まさかサナさんまで賭けてないよね?……



「おれの時とは全然違うな……」


「ゔぅん!」


 サナさんが余計な事を言うなとばかりに咳払いした。



「そしてお二人をこの部屋に連れてきた理由ですが…あなたたちは新人冒険者にも関わらずチームヒーローの三人に圧勝しました。

新人だからこそまだまだあなたたちは強くなる。そんな新人を自分達のパーティーに取り込んでやろう!って考える輩がたくさんいます。それが今回パーティー勧誘板に溢れてしまったと言う訳です。

もし勝つ事ができた場合にはある程度は来るだろうと予想していたのですがまさかここまで多いとは思いませんでした…。」


「それっておれたちが断れば済む話じゃないですか?」


「今はこの部屋に避難してもらったのでなんともないですが、もしあのまま興奮しきった冒険者達に囲まれれば何度断っても次から次に勧誘が来て大変だったと思いますよ…。」


 あんな奴ら倒しただけで?おれたち本当にまだ冒険者になったばかりの新人だぞ?



「つまりギルドはおれたちを守ってくれたと言う事ですか?」


「結果的にはそうですね。ギルマスの判断が正しかったと言う事です。」


 ギルマスがおれたちを避難させてくれたのか?あんなに嫌味を言ってたのに?あんなに煽ってきたのに?



「ギルマスはおれたちの事嫌いなんじゃないんですか?」


「はぁ?なんでおれがお前らを嫌うんだよ!?こんな面白そうな新人を嫌うバカな職員はこのギルドにはいねぇよ!」


「それならどうしてあの時おれたちをバカにしたんですか?

おれたちがズレてるだとか、あぶなくなったら止めに入ってやるとか…」


「別にバカにしてねぇよ!してねぇけどそう聞こえたなら謝るよ悪かった。

ただそれとは別にお前達が冒険者業を舐めてるとは今でもおれは思うぞ!特にユウキお前がな。」


「なっ!」


「この三日間2人だけでずっとダンジョンに行ったらしいな?

サナがどれだけ止めてもダンジョン攻略の階層を増やしてシルバが荷物持ちを探すように進めても探してる素振りすら見せなかったそうじゃないか。

パーティー募集する訳でもなくどこかに入るでもない。

お前はリーダーなんだろ?何故ホークの安全を考えなかった?」


「それは…」


「それはなんだ?戦士と双剣士だけの2人のパーティーで死ぬまで進めたら満足か?

回復職も魔法職もいない近接攻撃メインのお前らだけで冒険がしたかったのか?

この際だからハッキリ言ってやるよ!危険と言われるダンジョンに入って帰って来れたのはただ運がよかっただけだ。

アイズダンジョンって言う弱いダンジョンの浅い層階のモンスターだったから無事に帰れたってだけだ!」


「ッ………」


 そうかホーク以外はおれが魔法も回復も使える事を知らないんだ…舐めてると捉えられても仕方ないのか…



「そんな事ない!!」


「ホーク!?」


「ユウキは凄いんだ!冒険者の事を舐めたことなんか一回もない!」


「やめろホーク!」


「なんで?ユウキはギルマスにこんな事言われて悔しくないの?

ちゃんと毎回アイテムとか食べ物とかも準備したり朝早くから調べ物もしておれなんかよりも何倍も大変な事をしてたのに…

あんなに頑張ってダンジョン攻略したんだよ!サナさんが教えてくれなかった情報があってもユウキが諦めずに頑張って戦ったから帰ってこれたんだよ!」


「ちょっと落ち着けって、なっ!」


「それなのにギルマスはユウキがどれだけ頑張ったか知らないのになんでそんな事言うんだよ!そんな事言うならダンジョンの事位ちゃんと教えてよ!」


「ホークもういい…もういいから!」


「ちょっと待て…サナお前こいつらにダンジョンの情報を渡さなかったのか?」


「いいえ!五階層までのモンスター情報は確実にお教えしました!ホークさん…どう言う事か説明してもらえますか?」


「ブーンビーの巣とか、ホーンゴートが群れでスキル使ってくるとか、アイアンスコーピオンが出るとか、聞いてない事ばっかりだったじゃ無いか!

ユウキが頑張ったから倒せたけどなんで教えてくれなかったんだよ!」


 ホークが興奮しきってる…サナさん達も知らなかったんじゃないかってダンジョンで話をしたのにそれも忘れてるようだ…



「アイアンスコーピオンだと?五階層に出たのか?」


「出たよ!!!」


「サナ!ダンジョンを大至急立ち入り禁止にしろ!異変が五階層までとは限らないぞ!それと今ダンジョンに行ってる奴の確認だ!あとシルバとゴロズを呼んで来い!」


「は、はい!」


 サナさんは走って部屋から出ていってしまった。



「詳しく説明してもらうぞ!」


 ややこしい展開になりそうだな…








 サナさん、シルバさん、マーガレット所長がおれたちの待つ部屋にやって来た。

 少し時間が経った事でホークも落ち着きを取り戻したようだった。



「あ〜ら。ユウキちゃん、ホークちゃん、また会えたわねぇ!うれしいわぁ〜」


「ゴロズ所長!場をわきまえてください。ところで僕達はどうして呼ばれたのですか?」


「詳しい事はこいつらが話す。ユウキ、ホーク、ダンジョンであったことを詳しく話してくれ。」


 三階層で見たブーンビーの蜂の巣の場所

 四階層でホーンゴートにスキルで囲まれた事

 五階層のボスがロックスコーピオンではなくアイアンスコーピオンだった事を話した。



「う〜んユウキちゃん何か証拠ってあったりするぅ〜?例えばぁそうねぇ〜アイアンスコーピオンの素材だったりとかがあれば信じられるわねぇ〜。」


「それならありますよ。ホークお願い。」


 ホークの鞄からアイアンスコーピオンの魔石を取り出す。

 アイアンスコーピオンからは魔石とアイアンスコーピオンの外殻と言う素材が手に入った。

 外殻は大きいのでインベントリに入れてある。でも魔石だけでも十分証拠にはなるだろう。



「シルバ確認してくれ!」


「わかりました。鑑定」


 シルバさんって鑑定使えるんだ?だから買取職員なのかな?って事はマーガレット所長も使えるの?



「間違いありません。アイアンスコーピオンの魔石です。」


「ユウキさん、ホークさん、あなたたち一体どうやって…」


「どうやってって言われても…説明しず…」



 【鑑定阻害が発動しました】



 鑑定された瞬間におれは椅子の横に置いてあった剣に手をかけた。


 だが…



「物騒な事はヤメにしようや!ユウキちゃん」


 とゴロズ所長に手を掴まれてしまった。



「ユウキ!」


 遅れてホークも立ち上がるが…



「落ち着け!」


 と後ろにまわったギルマスに肩を押され座らされてしまった。



「ユウキ、剣から手を離すんだ。」


「先に仕掛てきておいて随分勝手な事を言うんですね。」


「確かに今のはこちら側が悪かった。職員に変わりギルドマスターであるおれが謝る。すまなかった。」


 シルバさんがおれを鑑定したことに二人は気付いたのか…それにこの二人恐ろしく速い。おれたちなんか相手にもならないんだろうな…

 はぁ…仕方ないか戦ったって勝てないしな…おれは剣から手を離しソファーに深く座り直した。



「どう言う事か説明してくれますか?シルバさん」


「君達じゃどうやっても敵うはずの無いアイアンスコーピオンが相手なのに討伐して帰って来てるからね。

ステータスをはぐらかされるより自分で見た方が確実だと思ってね。

まさか気付かれるとは思わなかったよ。ごめんね。」


「それって悪いと思ってませんよね…」


「これも僕の仕事だからね。でも失敗なんて初めてしたよ。君は一体何者なんだい?」


「ユウキ、お前の反応はもはや新人冒険者ではありえない。

シルバの鑑定に気付いた事もそうだ。お前何を隠してる?」


 これはもう隠し切れないか…ちょっと目立ち過ぎたか?失敗したな…



「はぁ…おれが色々隠している事は認めます。ただそれを教えるのならこちらからも条件があります。」


「条件?何だ?」


「おれたちの事をここにいる4人以外に話さない、教えない、伝えない、記録に残さない事。ようは広めないでもらいたいです。」


「なんだ?それだけでいいのか?」


「そうですね少なくともさっき鑑定されるまではこれでよかったです。

だけど事情が変わりました。さっきの事でおれはあなたたちを信用できなくなりました。

なので契約してください。あるんでしょ?決闘で使った紙よりちゃんとしたやつが。」


「…いいだろう。」


 ギルマスが鍵のかかった引き出しから一枚の紙を出してきた。

 さっきよりしっかりとした紙だ。なんか綺麗な柄まではいってるぞ…



「ここに内容、期間、そして破った時の罰、お前の納得する契約内容を書いてくれ。」


 コントラクトと内容的には同じだな…でもよく条件を飲んでくれたな…。

 まぁ契約はまだしてないけどこの紙を出しただけでも驚きだ。



「わかりました。契約内容はこうです。

ユウキ=ノヴァの能力を明かす。契約者はここにいる者以外にユウキ=ノヴァの能力の事を、話さない、教えない、伝えない、記録に残さない事。

期間はユウキ=ノヴァが契約を破棄するまで。

罰は署名した者、その者に準ずる家族、仲間、大切な者の命。

この内容で契約してください。」


 かなりキツめの設定だだがおれが持つ能力の事が広まる事は防ぎたい。



「ユ、ユウキ君いくらなんでもやりすぎじゃないかい?」


「やりすぎ?約束さえ守って貰えれば何の問題も無いと思いますが?」


「それはそうだけど、家族や大切な者の命までかける必要があるのかい?」


「嫌なら別に構いませんよ。おれたちはこのまま街を出ていきますから。おれたちが今知ってるダンジョンの情報も教えましたし構いませんよね?ギルマス?」


「それは冒険者の自由だギルドとして引き止める事はない。だが今は事情が違う。それは理解しろ…。」


 怪しい新人冒険者をギルドが逃がすつもりはないって事か…



「あぁ〜らクリード、そんな事言っちゃユウキちゃんも警戒しちゃうわよぉ〜!ねぇ?」


「そ、そうですね…」


「あたしは契約してあげるわぁ〜。命懸けで知るボーイのヒ・ミ・ツ!そそられるわぁ〜!」


「おれも契約しよう。元々個人の情報を広めるつもりはないからな。」


「わ、私も契約します!私はユウキさんの担当受付ですし担当する冒険者の能力の事を知っておきたいですから!」


 そう言って三人は契約書にサインをした。



「シルバさんはどうしますか?」


「はぁ…書けばいいんだろ書けば!僕だって別に元々誰かに教えるつもりなんてないからね…。」


 そう言って最後にはシルバさんもサインをした。



「さぁ契約書は書いた。後はお前がサインすれば契約成立だ。」


「皆さんさっきの内容を了解してくれたって事でいいですね?」


 全員が頷いた。



「わかりました。コントラクト!」


 おれたちの前に光が五個現れおれと職員の皆さんの体に入った。

 これで契約は成立だ。紙など使わなくてもおれにはスキルがあるからな…。



「どう言う事だ?何故戦士のお前が契約士のスキルのコントラクトを使える?スキルの書を手に入れたのか?」


 さてと話しますかおれの能力を……

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