第23話 なりきり師、決闘する。

 昼食を食べ終わりおれたちはいつものようにサナさんが受付をやっている所へ行く。


「「サナさんこんにちは。」」


「決闘を受けに来ました!」


「ホークさん、あなたなんでそんなに楽しそうなんですか…

これからあなたたちは先輩冒険者と決闘なんですよ!…しかも人数は向こうの方が多いのに…」


「それなら大丈夫です。ユウキが昼ご飯奢ってくれたんでおれたちが勝ちます!」


 ホークそれだと何の根拠もないのと同じだぞ…



「ホークさんは何を言ってるんですか?」


 ほらサナさんも困っておれに聞いてきたじゃないか…



「アハハ…こっちの話ですごめんなさい。それより決闘はどこでやるんですか?」


「…ギルドの訓練場がありますのでご案内致します。」


「「お願いします。」」


 サナさんに案内されギルドの中にある広い部屋へとやってきた。



「ギルドの中にこんな場所があったんだ…。二階からも見れるのか…ってなんでこんな人が多いんだ?」


 この部屋の天井は吹き抜けで二階からも見える構造になっていた。

 近い物だと日本のショッピングモールの吹き抜け広場が思い浮かんだ。一階も端の方に座れるスペースがありそこにも人がたくさんいた。



「ギルマスが『注目の決闘があるから』ってあなたたちの決闘が決まった日から宣伝してましたからね…」


 あのギルマス何余計な事してんだよ!おれたちは別に目立つつもりなんて無いのに…だから初めて会った獣人のウェイトレスまでもおれたちの事知ってたのか…



「おっ!来たな期待の新人冒険者共!もう強くなれたのか?」


 これはあれか?煽ってんのか?ギルマスは敵なのか?モブ達の次はギルマスを成敗すればいいのか?



「おかげさまで。それよりなんなんですかこれ…観客がいるなんて聞いてないんですけど。」


「あれだけ騒ぎを起こしたんだそりゃいるだろ!どうした?ビビっちまったか?」


「あんまり戦闘を人に見せたくないだけですよ!なんとかならないんですか?」


「ならないだろーな!この決闘は冒険者達にとったら娯楽の一つだからな!

 お前らの決闘で賭けまでしてる奴もいたりするんだぞ!オッズは圧倒的にチームヒーローの方が上だな。」


 ろくでもねぇ奴しかいないのかこのギルドには…



「…まさかギルマスまで賭けをしたりしてないですよね?」


「んなもん決まってるじゃねーか!お前らに賭けたよ!」


 うわーやってたよコイツ…まぁ賭けてるかもとは思ってたけどおれたちに賭けてるとは思わなかったな…



「はぁ…もういいです…」


「あれだけギルマスであるおれに大口を叩いたんだしっかり儲けさせてくれよ!」


 しばらくして決闘相手のモブ達がやってきた。



「よく逃げずにここにこれたな!」


「ボコボコにしてやるよ!」


「謝っても許さねぇけど泣いて謝らせてやるから覚悟してろよ!」


 ブレないなこいつら…バカだからずっと同じ事しか言わないし…少しは強くなったのか?

 どうせおれたちが新人だからと余裕ぶっこいてたんだろうな。



「は?勝てる戦いから逃げる訳ないだろ。あの時せっかく見逃してやろうと思ったのに面倒くせぇ決闘なんか挑みやがって…覚悟しろよ雑魚モブ共が!」


 事前にホークにはおれの口が悪くなる事は伝えておいた。

 こんな事で少しでも挑発に乗ってくれればホークが戦いやすくなるだろう…。



「なんだとこの糞ガキ!お望み通り殺してやるよ!」


「よし決めた!殺す!絶対殺す!」


「殺してやるから地獄でおれたちに謝るんだな!」


 釣れた!簡単に釣れました。顔がこれ以上にないって位に真っ赤になってるよ。でもおれの挑発は終わらないよ!



「審判のギルマスさん。殺すとか物騒な事いってるんですけどこのバカ達はルールわかってるんですか?

ちゃんとバカにもわかるように説明してくれないと困りますよ。」


「ったくお前なぁ…しょうがない。おいあれを持ってこい!」


 今にも飛びかかって来そうなモブ達もギルマスの手前我慢しているようだ。

 ギルマスは近くにいた職員に何かを持ってくるように伝えると職員が紙を持ってきた。



「これに署名しろ。」


「なんですかこれ?」


「誓約書だ。契約の効果がある。」


 おれたちに渡されたのは前に聞いたルールが書いてある誓約書だった。

 これに名前を書くと契約が結ばれるそうだ。ただおれのコントラクトと違って罰とかは書いていない。



「名前を書いて何になるんですか?破ると何か起きるんですか?」


「勿論制裁が下る。ギルド職員達からな。それは簡易版の誓約書だがこれだけの人数が証人だ文句はないだろ?」


 って事は正規の誓約書もあるって事だな。ギルドはそれも持ってると…。

 村では見かけなかったがこの世界には便利なアイテムもやっぱりあるんだな…。



「わかりました。」


 おれとホークは署名する。モブ達も渋々といった感じだが署名したようだ。



「よし!これで準備はできたな。ではこれよりチームヒーロー対ユウキ、ホークペアとの決闘を開始する。」


 ギルマスが宣言すると同時に周りの観客達がわーわー盛り上がる。うるさい…



「ホーク作戦通りいくぞ!」


「わかった、ユウキ気をつけてね!」


「あぁ」


 おれは笑って頷き開始を待った。



「始め!」


 ギルマスの掛け声で決闘が開始された。



「「「ぶっ殺す!!」」」


 誓約書は意味がなかったようだ…おれの挑発に乗り三人共がおれに襲いかかってきた。

 二人は剣を抜き一人は棘の付いたグローブをはめている。



「ビッグシールド!」


「「「なっ!」」」


 全員の攻撃を盾一つで防ぐ。おれを新人冒険者で低レベルだと思い込んでいたから防がれると思ってなかったようだ。



「ほぅ…ビッグシールドまで覚えてやがったか…この三日でそこまでレベルを上げるとはな…。」


 ギルマスの関心したような声も聞こえる程落ち着けている。

 それもそうか…昨日ダンジョンでくぐり抜けた修羅場に比べるとモブ達など話にならないレベルだ。


 おれは盾で弾き返し距離を取らせる。この決闘で使えるおれのスキルはスラッシュ、薙ぎ払い、回転斬り、ビッグシールドの四種類だ。

 他にもスキルはたくさん持っているが他の冒険者に見せる事はない。


 まずは作戦通り格闘家モブを狙う。



「まずはお前からだ!」


 人に向かって剣を振るのは初めてだがコイツら相手なら案外躊躇わずに振れるもんだな…



「当たんねぇよそんな雑魚攻撃!」


「わざとだよ…」


 後ろにバックステップして回避を取った事で格闘家モブは戦士モブと剣士モブから少し離れた。



「ユウキ!こいつ貰うね!」


「くっ…なんだこいつ…」


「任せた!」


 ホークが戦士モブに狙いを定め攻撃しながら剣士モブから離していく。

 ホークなら戦士モブ程度すぐに倒してしまうだろう…。



「糞ガキが調子乗ってんじゃねぇぞ!一閃!」


 剣士モブがスキルを使ってきた。剣の威力が高まるスキルなのか迷いなく横に一直線に振り抜いた。

 おれまだ剣士の職業になってないのにネタバレすんなよ!楽しみがなくなるだろ!


 ってかこいつ首狙ってきたよ…本当に殺す気満々だな…俊敏が上がって動きが見えるから当たらないけど…。



「避けてんじゃねぇぞ!なんで斬られねぇんだよ!おれに避けてすいませんでしたって謝れ!」


「そこまでいくとバカを通り越して愚かだな。おれがお前らに謝る事なんて今後も一生あるわけ無いだろ。」


 なんでこんなバカ共を相手にしてんだろ…もういいやさっさと終わらせよう。








 〜ホークVSモブタ〜



「クソなんだこいつの攻撃速いのに重い…」


「ホラホラちゃんと防御しないと怪我しちゃうぞ!ホラホラ〜!それそれ〜!」


「ぐっ、うっ…うわっ!」


 ユウキがわざと挑発して悪者を演じてくれたけどおれだってこいつらは許せない!

 おれはユウキ程頭も回らないし作戦なんか思い付かないけどユウキは違う。

 頭も良くて強くていつでも頼りになる。そんなユウキをバカにしたコイツらにおれは怒ってるんだ!



「その程度の強さでユウキに喧嘩を売ったのか?お前らおれ以上にバカなんだな!」


「なんだと!?調子に乗るなー!お前の攻撃なんて効かねぇんだよ!ビッグシールド!」


「へぇ…一応使えるんだ?ビッグシールド」


 コイツ本当にバカなんだ…スキルを使うタイミング下手過ぎだよ…ユウキだったらこんな意味の無いタイミングで絶対に使ったりしないぞ!

 あんな風に視界を無くしてガードしちゃったらもう攻めるしかないよね…



「これでもうお前の攻撃はおれには効かねぇ!」


「ならしっかり防御しとけよ!はぁー!」


 おれは勢いをつけてビッグシールドごと戦士モブを飛び越え後ろに回り剣で一突きした。

 モンスターならまだしも人間相手にあんな隙だらけの防御をするなんてな……



「ぐふっ…」


「ユウキをバカにした事を後悔するんだな!」



『わああああああ!!!!!』



「うわっ…」


 びっくりしたぁ…観客の歓声スゲー。決闘ってこんなに盛り上がるの?あっ、そうだ!ユウキの手伝いにでも行こっと!






 〜ユウキVSモブスケ&モブリン〜



「はぁ〜!連打掌!」


 だからネタバレすんなって!格闘家もまだなんだよ!

 格闘家モブのスキル攻撃を盾で受け防ぐ。一撃入れると下がるスタイルの戦い方なのかすぐに格闘家モブは離れた。



「一閃!」


 相変わらず首狙いのわかりきった攻撃をしてくる剣士モブの攻撃は回避が簡単に出来る。少し後ろに下がったりしゃがむだけでいい。

 剣士モブの攻撃を避けてると急に会場がわーっと盛り上がった。うるさい…

 ホークの戦いが終わったのかな?ならおれもそろそろ決めるか!



「お前らあの時よくもホークをバカにしたな…ホークが泣く程悩んで考えて出した結論をよくも無神経に笑いやがったな!」


「はんっ!おれらは事実を教えてやったんだろうが!ヒヨッコで泣き虫の新人冒険者にな!」


「そうだ!それなのに新人のくせに先輩冒険者様に意見しやがって!おれたちに謝れ!」


 駄目だ我慢できないな…。手加減するのもここまでだ…



「おれはお前らだけは絶対に許さない!」


「許さないだと?それはおれたちのセリフなんだよ!」


「新人風情がおれたちに向かって何様のつもりだ謝れ!」


「ルールに感謝するんだな。死なない程度に殺してやるよ。薙ぎ払い!」


 まずは格闘家モブだ。薙ぎ払いで剣士モブを遠ざけ格闘家モブに向かって走り出す。



「剣ならおれに勝てると思ったのか?甘いんだよ!」


 意外だ…てっきり回避して距離を取ると思ったが逆に近付いて間合いを詰めてきた。


 確かにこれでは剣が当てにくいな…。



「ビッグシールド!」


「ぐあっ…」


 だがそんなの関係ない。おれはスキルのビッグシールドを使ってそのまま体当たりをする。

 おれの勢いと格闘家モブの勢いがぶつかり相当なダメージになったようだ。



「終わりだ」


 吹っ飛んでいって倒れた格闘家モブにビッグシールドのまま突っ込み、おれはジャンプしてビッグシールドの上に乗りそのまま踏み付けた。言葉通りペチャンコだ。



『うおぉぉぉぉおお!!!』



 その瞬間また歓声が巻き上がった。うるさい…


「モブスケ!てめぇよくも!」


「ユウキ〜!手伝おうか〜?」


 ホークが手を振りながらこっちに走ってきた。あっちもやっぱり終わってたな。



「どう言う事だ?モブタはどうした?まさかこいつが?」


「大丈夫!こっちも余裕だから!それともホークが相手するか?」


「やっぱりユウキも?アイツ弱すぎて不完全燃焼だよ…決闘楽しみにしてたのにな……」


「そうかぁ…よし、じゃあ最後は二人でやろっか!?」


「えっ!いいの?じゃあおれが剣を持ってる手担当していい?」


「え〜どうしよっかなぁ…いいよ!」


 作戦会議も終わったし決着といきますか。



「なんなんだよお前ら…ヤメロ、来るな……」


「言ったろ、死なない程度に殺してやるって…」


「嘘だよな…本気じゃないよな…ヤメローーー!」


「ホークをバカにした事」「ユウキをバカにした事」


「「泣いて謝れ!!!」」


 恐怖で動けなくなった剣士モブの両方の手首をおれらは切り落とした。



「ギャアァァァァァァ………」


「そこまで!勝者ユウキ&ホークペア!」



『わあぁあぁあああ!!!!!』



 会場が歓声でどっと揺れる。うるさい!人を見世物みたいに楽しみやがって…このろくでなし冒険者共が!



「ヒーラー回復急げ!誰も死なせるなよ!」


「「「はいっ!!」」」


 たくさんの人達がモブ達三人に集まってる…あの人達皆回復魔法が使えるのかな?

 おれたちのせいだけど他の人に迷惑かけるのはなんかちょっと悪い事した気分だ…



「お前らはこのままおれの部屋に来てもらうからな!」


「遠慮したいんですけど…」


「遠慮できないぞ!ギルマス命令だ。まぁ悪いようにはしねぇよ!」


 はぁ…行きたくないな…

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