第8話 なりきり師、絡まれる。
「よ〜し、これでおれたちも冒険者だね!ユウキなんか依頼受けようよ!」
無事に冒険者登録ができた事でホークのテンションが上がってしまったようだ。
だが時刻はもう夕方だ。今日は依頼を受けず宿を探したほうがいいだろう…。
「今日は受けないよ。冒険者活動は明日からだよ!今日のところは宿を探すよ。」
「え〜せっかく冒険者になったのに……仕方ないリーダーに従っとくよ。」
「リーダー?」
いつからおれがリーダーになったんだ?
「だってパーティーを組んだんだよ!リーダーは必要でしょ?」
「いやいや、おれとホークしかいないんだから必要ないよ!立場なんていらないしおれたちはいつでも対等でいこうよ。」
「いつか他にもメンバーが増えるかもしれないでしょ?それにお金の管理とか、依頼報告とか、情報収集とか、道案内とか、ユウキの方が得意だもん!」
「ホーク…それってリーダーじゃなくて雑用って言うんだよ……。」
確かにホークは直感で動くタイプの人間だ。
指示したら動いてくれるが基本的には人任せだ…はぁ仕方ないおれがやるしかないか…
「まぁホークに任せても少し不安だし結局おれがやるんだもんな…」
「へへっ!そう言う事!これからも頼むよリーダー!」
「調子のいい事ばっかり言ってるけどいざと言う時にこき使ってやるからな!覚悟しろよぉ〜!」
そんな調子でギルドから出ようとした時。
「おいおいおい!ここはいつから泣き虫のガキを冒険者に登録するギルドになったんだ!?」
と騒ぎ出した男がいた。構わずに出ようとすると…
「無視してんじゃねぇぞクソガキ共!お前らだよ!ギルドの前でピーピー泣いておいてよく恥ずかし気も無く冒険者登録なんてできたな!
そんな泣き虫とお友達はお家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」
とまくし立てた。そこでようやくわかった。
あのギルドに入った時の視線は登録前のギルドの前でおれたちが話していたのを見たのだろう…絡んで来たのはギルトに入った時に睨んでいた奴らだ。
「行くぞ。ホーク」
こんな奴ら相手にするだけ無駄だ。
『新人冒険者は絡まれる』これはもはや定番にすらなっている。大抵が雑魚、存在を覚える必要すらない。
「ユウキを馬鹿にするな!!!確かにあの時おれは泣いてたよ!笑われたって仕方ない!だけどユウキを笑う事は絶対に許さないぞ!」
あらら…安い挑発に乗ってしまったか…ギルトに登録したばかりなのにもう揉め事を起こしてしまったな…
「はっ、新人冒険者のガキがおれたちを許さないだってよ!ガハハハハ…笑わせてくれるぜ!ピーピー泣くしかできないのに許すもクソもあるかよ!」
絡んで来ているのは二人だが一緒にいるのは三人だ。
こうなってしまえば後には引けないだろう…周りに気付かれないように鑑定を使って確かめる。
モブタ
25歳
戦士
レベル12
HP469/469
MP43/43
攻撃72
防御43
魔攻7
魔防6
俊敏46
幸運9
モブスケ
25歳
格闘家
レベル11
HP522/522
MP28/28
攻撃65
防御34
魔攻3
魔防2
俊敏53
幸運9
モブリン
25歳
剣士
レベル13
HP555/555
MP47/47
攻撃96
防御31
魔攻7
魔防9
俊敏52
幸運9
やっぱ雑魚じゃないか…
25歳で初級職でレベル10台って…10年間も時間があってなんでそうなった?
「今おれたちにわびを入れるならおれたちが許してやるよ!お前らに許す権限なんて最初からねぇんだよ!」
おっとやっぱり同じ穴の狢だったようだ…三人目まで絡んで来やがった…仕方ないギリギリのラインをせめてみるか…。
「おれたちがわびる理由が一つもないな。新人冒険者に絡むのがそんなに楽しいか?」
「なんだと?」
「似たようなブサイクな面3つも並べて、目障りなんだよ!お前たちの方こそ家に帰ってママにしか相手にされないんだろう。自分たちとおれらを一緒にするな!」
「いい度胸じゃねぇか!覚悟できてんだろうな!」
そう言ってモブリンは剣を抜いた。他の二人もやる気のようでそれぞれが戦闘態勢に入ろうとする。
やっぱり馬鹿だな…ここは冒険者ギルドなのに…。
「お待ち下さい。」
不穏な空気を察知していたのか冒険者ギルドの職員の人達が止めに入った。
「冒険者同士での戦闘は禁止です。それ以上続けますとこちらも力ずくで止めさせていただきます。」
止めに入ってきた男の職員が警告を出してきた。
だけどあくまでこっちは被害者だ。その事は説明しとこう。
「おれらは絡まれただけで武器も抜いていません。力ずくでもなんでもいいですけど止めるのはあそこの連中だけにしてください。それでは失礼します。ホーク行くぞ!」
「えっ?うん…」
ホークは最初怒っていたがおれが挑発しだした位からポカンとしていた。
多分おれがあんな事を言うとは思っていなかったのだろう。村では穏やかに過ごしていたのでこんなに乱暴的になる必要は無かった。
だがおれは元は俳優。怒ったり、舐めた態度を取る演技など容易くできる。ここはギルト職員に任せておれたちは宿を探そう。
「けけけ、決闘だぁぁ!」
「そうだ決闘だ!」
「舐めたまねしやがって!おまえたちは絶対に許さねぇ!決闘を申し込む!」
バカ三人がまた騒ぎ出した…
「は?決闘?」
確かにサナさんから決闘をすることもあるって聞いたばっかりだけどおれらはさっき登録したばかりの新人だぞ……
この三バカはそこまでするのか?人として恥ずかしくないのか?
「おれたちをここまでコケにしたんだ。まさか逃げねぇよな!」
「先輩冒険者であるおれたちを怒らせるから悪いんだよ馬鹿が!」
「さぁどうする?泣いてわびを入れるなら、半殺しで許してやるぞ!」
周りが面白そうにやれやれと盛り上がっている…冒険者ってやっぱり血の気が多いんだな…
「決闘を申し込まれましたがどうしますか?」
職員さんが冷静に聞いてくる…おれたち新人なんですけど…あなた初めましての職員さんなんですけど…
「どうしますか?って聞かれても決闘のルールも知りませんし、おれたちさっきこの街に着いて冒険者登録も終わったばっかりでまだ何の準備もできてないんですけど…」
「わかりました。受ける受けないは別にして、この件はギルドが預かります。
モブリンさんたちには後日また結果を報告致しますので、この場はそれで納得していただけますね!」
職員さんがモブリンたちに睨みを効かせる…えっ?職員さんって強いのかな?さっきも力ずくとか言ってたし…
「チッ!わかったよ!逃がさねぇからな!」
そう捨て台詞をはいてモブリンたちは戻って行った。
「決闘のご説明をします。奥へどうぞ。」
登録早々変な事に巻き込まれたぞ…宿を取らなきゃいけないのに。はぁ…着いていくしかないか…
ギルドの奥の部屋に案内され、ここで待つように言われた。
「ユウキ…ごめんね。おれまた突っ走って迷惑かけちゃった…」
「わかってるなら別にいいよ。でもおれのために怒ってくれた事は嬉しかったよありがとう。」
「それにしてもユウキってあんなに怖く怒るんだね!初めて見たからびっくりしたよ!」
「あんなの怒ったふりだよ。もう喧嘩しそうだったから挑発して相手が騒ぐように誘導したんだよ。」
「急によくそんな事できたね!やっぱりユウキはスゲーよ!」
「決闘まで申し込まれたから完全に失敗だったけどな…。」
「アハハ…それもそうだね。」
二人で笑っていると部屋のドアが開いた。
「決闘を挑まれたってのに随分楽しそうじゃねぇか!」
怖い顔をしたおじさんとサナさんが入ってきた。
「お二人共!まだ登録が終わって30分も経っていないのに決闘を挑まれたってどう言う事ですか?」
「30分どころか登録が終わってすぐに絡まれたんですよ…ところでこちらの方は?」
「あぁ、おれか?おれはこのギルドのギルドマスターをやっているグリードだ。よろしくな新人冒険者のユウキにホーク。」
ギルドマスターまで出てきたか…それにおれたちの事は把握済みか…面倒な事になってきたな……
「よろしくお願いします。でもなんでギルドマスターが?」
「久々に面白そうな新人が出てきたみたいだからな。レベル1と2の癖に先輩冒険者に怯むことなく食い下がったそうだな?」
「別にそんなつもりはありませんよ。ここはギルドの中なので、職員の人達が止めてくれる事に期待しただけです。まさか新人に決闘まで挑んでくるなんて思いませんでしたし。」
「決闘を挑まれたのにその割には随分落ち着いてるようだが?」
このギルマス鋭いな…相手が雑魚だったのを知ってる事に気付かれそうだ…注意しないと。
「そうですよ!どうするんですか!決闘!申し込まれてしまったのでしょう?」
「ユウキどうする?」
「まずは決闘のルールを聞かないとなんとも言えないな…」
おれとしては受けたくない…いくら雑魚とはいえ今のおれたちよりかはステータスは高かった。
受けるにしてもレベルアップの時間は欲しい…
「それならおれが説明してやるよ!もちろん当日の審判もおれがやる。」
「何言ってるんですかギルマス!あなたにはあなたの仕事があるでしょう!」
「たまにはいいじゃねぇか!こんな面白そうな事おれ抜きでやろうなんてそうはいくかってんだよ!」
なんか受ける方向に話が進んでないか?それにこのギルマス明らかに楽しんでるよな?
「あなたって人は…ハァ、どうせ言い出したら聞かないんでしょう…わかりましたよ!その代わり仕事はちゃんとしてくださいね。」
「わかってるって。」
「あの〜…なんかおれたちが決闘を受ける前提で話してませんか?」
「当たり前だろ!冒険者たるもの挑まれた決闘から逃げるようじゃ新人と言えど冒険者じゃねぇ!」
なんなんだこの脳筋思考…サナさんも受ける事に納得してそうだし、決闘って絶対に受けないといけないの?
「ユウキ!おれたち冒険者になったばっかで冒険者じゃなくなるの?そんなの嫌だよ!」
「ややこしくなるからホークは少し黙ってようか…。大丈夫おれたちは冒険者だから落ち着いて!
ごめんなさい話を戻しますね。おれたちに受けないって選択肢は無いんですか?」
「無いだろうな!これだけの騒ぎになってたくさんの奴等にも見られて、威勢よく啖呵を切ってたのに決闘は嫌なので受けませんなんて言ったらお前達これから恥を晒して冒険者するハメになるぞ!」
「チッ…」
まさかこんな事になるとは思ってなかったな…完全におれのせいだ。せめてホークの事だけでもなんとかしないと…。
「わかりました。なら決闘はおれが受けます。なのでホークは決闘から外してください。」
「何言ってんだよ!ユウキが受けるならおれだって!」
「今回の事は完全におれのミスだ!おれが、責任持ってあいつらをぶっ飛ばすから!ホークは危ないから見ていてくれ。」
「そいつはできねぇな!」
「なっ!」
「さっき決闘の申込みが正式にあったそうだ。それも二人にな…」
最悪だ…おれは最悪他の職業に転職してステータスを上げればいいと思っていたのに…ホークまで決闘に参加しないといけないなんて…
「クソッ!」
「まぁそう荒ぶるなよ!そういやさっきぶっ飛ばすとか言ってたな?何か勝算はあるのか?」
「…別に無いですよ。ただ時間さえあればレベルアップしてすぐに強くなりますけどね。」
「お前は根本的に冒険者を舐めているようだな…いいか職業のレベルなんてものはそう簡単に上がる訳じゃない!モンスターを倒さなければ成長しないんだぞ。」
「だからモンスターを倒すんですよ。おれたちはまだこの街に来たばかりです。
ダンジョンにも行く予定でしたし、依頼も明日から受けるつもりでした。そしたらあいつらに絡まれてこんな事になったんです。」
「時間さえあればあいつらに勝てると?」
「はい。」
「わかった。なら3日やろう。明日から3日間でモンスターを狩って強くなってみろ!
自分がどれだけズレた事を言っているか身を持って知るといい。
それなら決闘は4日後の昼丁度でいいな?なぁに危なくなったら止めに入ってやるよ!」
「…十分です。ありがとうございます。」
これから3日間で冒険者としてのスタートが決まる。ホークを巻き込んでしまったがやるしかなくなった。
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