第7話 なりきり師、冒険者になる。
冒険者ギルドの前で立ち止まり、おれは意を決してホークに話しかる事にした。
おれと一緒に冒険者になるのを辞めるかどうかの確認をするために…
「なぁホー…」
「ユウキ!ごめん!」
「えっ!?」
「本当はさ、最初からわかってたはずなんだよね…ユウキは昔からずっと言ってたもんねチート能力を貰うって…」
「ホーク…」
「それなのにおれ…あまりにもユウキが凄い能力だったから自分と比べたり、嫉妬したり、置いていかれるって思った。
この先ユウキが強くなるたびにおれは足手まといになるだけだって…」
「…」
「二人で一緒に楽しく冒険して、二人で色んなダンジョンに挑んで、最後には魔王を倒して、この世界を守るんだ!なんて簡単に考えてた…。
ユウキが命をかける必要があるって言ってたのに正直大袈裟だなって思ったし、そんな覚悟もしてなかったんだ。」
「…」
「だけどさっきユウキがモンスターに襲われてやられそうになった時、急に怖くなったし改めてユウキが言ってた事が大袈裟でもなんでもなく本当だった事に気付かされたよ…」
「…」
「多分この先一緒に冒険者になったら、ユウキはどんどん強くなっておれなんかじゃきっと戦えもしないようなモンスターを平気で倒せるようになったりするんだと思う。
そうしたらきっと次からはおれが襲われるようになっちゃうよね…足手まといになるし守って貰うことも増えると思う。」
「…」
「だからごめん!先に謝っておくよ。それでもおれと一緒に冒険者になって!
おれはずっとユウキと冒険したいって思ってたんだ!ユウキと冒険者になることがおれの夢だったんだ!
だからお願い!!おれと一緒に冒険者になってパーティーを組んで!」
一緒に冒険することでおれの足手まといになるとか、おれに置いていかれるとか…きっとそんな事をあれから今までずっと考えていたんだろうな…。
ったくバカだなぁ…
「ホーク………よかったぁぁぁ…!!!もう冒険者になるの嫌になって辞めるとか言うかと思ったよ…」
緊張が解けて座り込んでしまった。
「ユウキ?」
「あのな、ホーク!勘違いしているようだけど、おれはホークが足手まといになるなんて思った事も無いし、これからも思わないよ!
貰ったチート能力でホークを守るなんて、そんな事は能力を貰う前から決めてた事だよ。
確かにこの先、厳しい戦いが待ってるだろう…でもそれはホークだけの話じゃない!おれだってレベルや熟練度を上げなきゃ強くなれない。
まだ村を出て一日も経ってないんだぞ?村から街に移動しただけだ。
たったそれだけの時間でこれからの自分を諦めるなよ!こんなズルい能力を持ってるおれが言っても説得力がないかもだけど…ホークは絶対強くなる!!!!!」
「ユウキ…」
「だっておれの親友だもんな!」
「ゔん゛!」
ホークはまるで不安から解放されたかのように泣いてしまった。
おれのチートのせいで、ここまで追い詰めてしまっていたようだ…おれは立ち上がり、ホークの頭を撫でながら話を続けた。
「最初は次の人生を生きれるだけでラッキーだなって程度の考えで転生したけど、モンスターに実際襲われて帰って来た村の人達を見たりして、魔王を倒しに行かないといけない事が平和な日本で育ったおれにとってどれだけ不安だったか……。
いつ目の前にとんでもない化け物が現れてもおかしくないこの世界でホークだけはおれが話す事を信じてくれて、何度も一緒に冒険者になろうって言ってくれて、どれだけ勇気付けられたか……。
おれはホークに感謝してるんだよ。だからおれにとってホークは足手まといなんかじゃない。ホークはおれにとっての支えだったんだよ…。だからホークおれと一緒に冒険者になろう!」
「ゔん…」
お互いに思っていた事を言えてスッキリしたと思う。ホークが落ち着くのを待っておれたちは冒険者ギルドに入った。
「ここが冒険者ギルドかぁ!ユウキ早く登録しに行こうよ!」
「ったく落ち着けよホーク…慌てなくてもギルドは逃げないって。」
それにしてもなんだかジロジロと周りの連中に見られている気がする……
睨んでいる奴、ニヤニヤしながら見てくる奴、目が合うと反らす奴、微笑みながら見てくる奴。なんだろうこのギルド……。
「ねぇユウキ早くってば!」
ホークは気付いていないのか、早く受付に行こうと急かしてくる。
「わかったよ!ちょ引っ張るなよ!」
周りの視線は気になるが、仕方なく受付へと向かう。
「いらっしゃいませ。初めての方ですね?」
「あっ、はい。」
「はいはいはい!おれホークって言います冒険者になりに来ました!それでこっちはユウキ!一緒にパーティーを組みます!」
駄目だホークのテンションが上がりきっている…さっきまで下がりきっていたのに…
丁度いい場所で止まってほしいな…説明を聞くからと、なんとかホークを落ち着かせ受付のお姉さんの話を聞く。
「ホークさんとユウキさんですね。私は冒険者ギルドメルメル支部の職員のサナと申します。よろしくお願いしますね。」
「「よろしくお願いします」」
「本日は冒険者登録をするとの事ですが、お二人共成人の儀はお済みでしょうか?後、冒険者登録の際に二人で計3万プライかかりますのでご了承下さい。」
「二人共成人済みです。お金も持ってますので大丈夫です。」
「では、こちらの方に記入をお願いします。最低限必要な所は、氏名、年齢、職業、レベルとなります。任意でステータスやスキル、出身地もお願いします。」
「わかりました。」
ステータスやスキルは書かなくていいだろう。特に教える義務もないようだ。
別に今の段階ならステータスは知られても構わないが、後々面倒になりそうだしな…
それに職業が戦士なのに他の職業のスキルをたくさん持っていると怪しまれそうだしな…
ホークにもステータスやスキルは書かないでもらった。因みに職業は戦士と書いた。
なりきり師と書いてもおれだけの職業だから、おそらく信じてもらえないだろう。
ステータスを他人に見せるつもりもないので、なりきり師の存在は知られる事は無い。
「これでいいですか?」
記入した紙と、ばれないようにインベントリから出した3万プライを渡す。
「お預かり致します。」
サナさんが二人分の紙と金額を確認する。
「問題ありませんね。では冒険者プレートを発行致しますので、少々お待ち下さい。」
そう言ってサナさんは他の職員に紙とお金を渡し、すぐに戻ってきた。
「この登録が終わればお二人は冒険者ギルドのメンバーとなります。その為いくつかのルールや規則、ランクなどの説明をさせていただきます。」
「「お願いします。」」
「それでは説明させていただきます。
このギルドは基本的に一日中開いております。ですので夜中に依頼の達成報告をしてもらってもかまいません。
ですが夜中は職員が少ないので時間がかかるか、高ランクの依頼によっては処理が翌日の昼まで持ち越される場合もあります。」
日本で言うコンビニみたいな物だな。この世界も日本と同じで、1日は24時間、1年は365日だ。
村では夜中まで開いてるような所は無かったが、街程の大きな場所になるとこの世界でも24時間営業があるみたいだ。
「次に討伐したモンスターですが、基本的に解体した状態でお持ち下さい。
解体ができない場合はギルドの委託で解体屋をご利用いただけますが料金が発生いたします。」
「わかりました。」
これは大丈夫だろう。と言うのも、インベントリの機能に解体の項目があったのだ。
そのまま保存することも、モンスターや素材を解体する事もできるようだ。
おれの知ってるインベントリとは少し違うが、できる事が増えてるんだ何の問題もない。
「そして討伐したモンスターですが、適切な処分をお願い致します。
モンスターをそのまま放置してしまいますとゾンビ化してしまいます。焼いて埋めるか、跡形も無く消し去ってください。
この辺りはまたランクが上がるにつれて説明がありますので今はモンスターはゾンビ化すると頭に入れておいてください。
ゾンビ化したモンスターは討伐がかなり面倒になります。低ランクのモンスターなら対処可能ですが、高ランクモンスターの場合はペナルティの対象になりますのでお気を付けください。」
モンスターのゾンビ化か…おれはインベントリに全部入れるから関係ないが、ゾンビ化したモンスターにあったら注意しないとな……。
「ペナルティになるって誰がゾンビ化させたかなんてわかるんですか?」
「ギルドの機密に関わりますので詳しくは説明できませんが、可能です。」
なんらかのスキルや道具があるんだろうな…ホークに注意するように言っとかないとな。
「次にダンジョンモンスターですが、ダンジョンモンスターはフィールドモンスターと違いアイテムをドロップして消えてしまいます。
なのでゾンビ化の心配はございません。ですがゾンビ化したモンスターが出てくる階層もございますのでお気をつけください。
モンスターについては以上です。」
ダンジョンモンスターの場合はドロップアイテムを残して消えるのか。このへんも物語にある不思議設定だな。
「続いてランクの説明をさせていただきます。
冒険者ギルドのランクはGランクからSランクまでございます。
Gランクは冒険者になったばかりの見習い冒険者。反対にSランクはギルドが認めた最高戦力を持つ冒険者になります。
ランクを上げるには依頼を達成していただきギルドの規定をクリアしていただく必要があります。
そして昇格依頼を達成してはじめてランクが上がります。
Bランクからはそれに加えて昇格試験もございますので、覚えておいてください。」
「わかりました。」
ホークはサナさんの説明の長さに頭がついていけないようだ…随分前から静かになっている。
騒がないだけマシだしここはおれがしっかり説明を聞かないとな。
「そして最後に冒険者同士の争いですが、原則禁止でございます。
ですがどうしても譲れないと言う場合も冒険者をしていればあると思います。その場合ギルドに申し出ていただき、決闘と言う形で白黒つけると言う方法もございます。
私としてはあまりオススメできませんので、揉め事はなるべく起こさないようお願いします。
以上で、ギルドの基本の説明は終了となります。」
なんでこんな事言ってくるんだろう?それだけ冒険者は血の気が多いのかな?
まぁおれはあまり他の冒険者と関わるつもりはないので大丈夫だろう…
「ありがとうございました。いくつか質問したいのですがいいですか?」
「もちろん大丈夫ですよ。」
「戦士や双剣士でもアイテムボックスのスキルを覚える事ってできたりしますか?」
ホークが欲しいって言っていたスキルだ。ギルドなら何か方法を知っているかもしれない。
「アイテムボックスは荷物持ちの職業スキルですね。
戦士や双剣士の方が覚えるにはスキルの書を読むしか方法は無いですね。」
「スキルの書?」
「はい。極稀にみつかるスキルを覚える事ができる本です。
ダンジョンでモンスターが落とすことがあるらしいのですが、ギルドへ発見の報告があるのは一年で一度あるかないかですね。」
ギルドへ報告せずに使っている冒険者もいるのだろう。だがドロップ率はかなり低いことには間違いない無いのだろう…
「どんなスキルでも覚えることができるのですか?」
「いえ、覚えるスキルは完全にランダムでございます。
基本的にスキルの書は鑑定が不可能とされております。
ただ一度だけギルドへ持ち込まれたスキルの書で【ロックオン】と言うガンナーのスキルが覚えられる【ロックオンの書】と言うスキル書が鑑定された事がございます。
なので確定したスキル書もまだ他に存在するのかもしれませんね。」
なるほど基本ランダムで中には確定書もあるってことか…。それか鑑定する人の力不足かのどちらかだな…
「そうですか。わかりましたありがとうございます。あと一つだけ質問してもいいですか?」
「もちろんでございます。」
「戦士や双剣士って転職ってできる方法ってあるんですか?」
「転職なさりたいのですか?」
「今すぐにとかではないですけど…いずれできたらいいなとは思いますね。」
「そうでしたか失礼しました。転職もスキルの書と一緒で転職の書があれば転職できますよ。
スキルの書よりもっと発見率は低いんですけどね…眉唾物ですが転職案内人と言う職業を持っている人もいると噂された時期もありましたよ。
まぁ結局見つかりませんでしたけどね。」
この世界の何処かにハロワ職員もいるのか?見つかりたくないだろうな…見つかればものすごく面倒だと思うもん…。
「そうでしたか。ありがとうございます。まだ冒険者になったばかりなので気長にやっていきます。」
聞きたいことも聞けたしもう質問も特にない。そう思っているとちょうど他の職員の人がサナさんの所にやってきた。
「ユウキさん、ホークさん、登録の準備が整いました。こちらのプレートにお二人の血を一滴垂らして頂いて登録完了となります。こちらの針をお使い下さい。」
そう言ってそれぞれの前に針とプレートを差し出してきた。言われた通りに針を指に刺し血を一滴垂らす。
血がプレートについて、そして吸収された。
「これでいいですか?」
「はい。これにて冒険者登録完了となります。
お二人はパーティーを組まれるそうですのでこちらもお渡し致しますね。」
そう言ってサナさんから腕輪をそれぞれに渡された。
「こちらはパーティーリングと言って近くにいるパーティーが倒した経験値を一緒に得る事ができるアイテムです。
一緒に冒険していないと経験値は得られませんのでご注意ください。
またパーティーメンバーが増えた際はギルドへ報告してくださいね。」
「「わかりました。ありがとうございます。」」
「では新冒険者のユウキさん、ホークさん、これからよろしくお願いしますね。」
「「よろしくお願いします!」」
おれたちは無事に冒険者登録完了できた。
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