第6話 なりきり師、街に着く。

 血の匂いが漂う戦場から離れ、モンスターとも遭遇することなく、メルメルの街を目指していた。


「もう追手はこないかな!?」


「どうだろう?…ここは村の外だからいつ他のモンスターが出てもおかしくないよ!」


 ヒールで傷は回復したが村から歩いたり、モンスターと戦ったり、走って逃げ回ったりと疲れは溜まってきている。


「ギャザーウルフからも離れただろうしこの辺で少しだけ休もうか?」


「そうだねおれも歩き疲れたよ…やっと休憩だぁ……。」


 やっぱりホークも疲れていたようだ。今はホークの俊敏の良さが頼りなので、後ろからモンスターが来ないかをずっと見てもらっていた。前を気にするより、後ろを気にする方が疲れるだろう。



「ごめんなホーク…無理させちゃって……。」


「気にしなくていいよ!なんたって今はおれの方がステータスは高いからね!

それにユウキには、スキル面でお世話になりっぱなしだから…。荷物が無いだけで助かるよありがとうユウキ。」


「ヘヘッいいよ!あっ!そういやさっきの戦いでまた熟練度が上がったんだった。」


「また上がったの?早すぎない!?」


「熟練度10倍があるからな。一匹倒すだけで十匹倒した事になるんだよ。

まだパーティーリングを付けてないからおれが倒した五匹分の経験値しか貰えてないだろうけど…。」


 パーティーリングは冒険者登録をする時にギルドで貰えるそうだ。パーティーを組む申請をしたら渡してくれると村の大人に聞いたことがある。

 効果はパーティー設定した者が倒したモンスターの経験値も貰えると言う代物だ。

 しかもこれが振り分けるのでは無く全員が100%で貰えると言う物らしい。



「前から言ってたチート能力だね?実際に目の当たりにすると本当に凄いよね!そんな能力が他にも一杯あるし…魔王討伐も余裕だね!」


「多分そんな能力をものともしないのが魔王なんだよ。さっきだっておれは攻撃されてヤバかったし…まだまだ強くならないと簡単にやられちゃうさ。」


 この世界はゲームみたいにHPやステータスがあるがターン制ではない。

 敵は攻撃を待ってくれないし、止めてくれない。もっと戦闘センスを磨いたりスキルを上手く使えないと魔王を倒すなんて夢のまた夢だ。



「そのためにも自分の能力位は知っとかないとな。オープンステータス」


ユウキ


15歳


戦士


レベル1 熟練度3


HP152/152

MP128/147

攻撃30

防御24

魔攻23

魔防21

俊敏21

幸運22


スキル


なりきりチェンジ 鑑定 インベントリ マップ スラッシュ ヒール 薙ぎ払い 回転斬り


EXスキル


創造神の加護 無詠唱 鑑定阻害 熟練度10倍 ドロップアップ 生産率上昇


称号


転生人 なりきり初心者



 どうやら熟練度が上がるだけでもステータスは上がるみたいだ。

 新しいスキル回転斬りも増えている。ただやっぱり二人共前衛職だとバランスが悪いな……

 アーチャーか魔法使いにでも転職するべきか?



「なぁホーク、おれが今転職するとして、魔法使いとアーチャーだったらどっちが連携しやすい?」


「急にどうしたの?う〜ん…やったことないからわかんないけど、どっちにも良さがあるんじゃない?」


「いや、遠距離攻撃がほしいと思って…おれたち二人共前衛職だろ?離れたモンスターに先制攻撃できたらもっと戦闘が楽になるかもって思ったんだ。」


「確かにそうだね…じゃあさ、迷うならどっちにも転職してまた戦士に戻ったらどう?ユウキなら簡単にできるでしょ?」


 なるほど…その考えもありだな…。なりきりチェンジに回数制限があるのかはわからないが、街にも大分近付いている。試してみる価値はありそうだ。



「そうだな!せっかくだし、やってみようか。それじゃあ、なりきりチェンジ」



【なりきる職業を選んでください】


戦士 剣士 格闘家 魔法使い ヒーラー アーチャー テイマー 鍛冶士 鑑定士 マッパー 空間支配者



「アーチャーを選択!」


 付けていた装備が変化して、自然な緑色の上下の服に変化した。

 手には弓、背中に矢筒を背負い頭には葉っぱに似た帽子をかぶっていた。



「これって森以外だと凄く目立つんじゃ…」


「何回見ても面白いスキルだよね!」


「とりあえず鑑定しとこう。鑑定」


なりきりアーチャーの弓 攻撃+7

なりきりアーチャーの服 防御+8

なりきりアーチャーの帽子 防御+6



「戦士の装備と比べると少し弱いな。まぁ遠距離攻撃だから当然か。後は…オープンステータス」



ユウキ


15歳


アーチャー


レベル1 熟練度1


HP182/182

MP139/158

攻撃38

防御29

魔攻25

魔防23

俊敏24

幸運28


スキル


なりきりチェンジ 鑑定 インベントリ マップ スラッシュ ヒール 薙ぎ払い 回転斬り 遠目


EXスキル


創造神の加護 無詠唱 鑑定阻害 熟練度10倍 ドロップアップ 生産率上昇


称号


転生人 なりきり初心者



「あれ?アーチャーってこんなに強いステータスだっけ?」


 おれの知識にあるアーチャーと言えば、命中重視で攻撃力はそこまで高くはないイメージだ。

 戦士よりも高い攻撃力のアーチャーってあるか?



「どれどれ?…確かに今までのユウキのステータスより強いね。アーチャーって隠れ強職だったのかな?」


 言われてみればどのステータスも今までより高いな……あれ?もしかしてなりきり師って…



「なりきりチェンジ!魔法使い。」


 また装備が変わり、黒のマント型のローブと右手には杖、そして頭には小さなハットが斜めに乗せてあった。

 完全に頭より小さく、子供ですらかぶれないようなサイズだ。

 これは装備の意味はあるのか?…ってそんな事を気にするより今は確認しなきゃいけない事が…



「オープンステータス」



ユウキ


15歳


魔法使い


レベル1 熟練度1


HP193/193

MP157/176

攻撃39

防御30

魔攻34

魔防31

俊敏25

幸運30


スキル


なりきりチェンジ 鑑定 インベントリ マップ スラッシュ ヒール 薙ぎ払い 回転斬り 遠目 ファイアーボール ウォーターショット サンダーウィップ


EXスキル


創造神の加護 無詠唱 鑑定阻害 熟練度10倍 ドロップアップ 生産率上昇


称号


転生人 なりきり初心者



「やっぱり…」


 あの神…説明が面倒で省いたな…!確かにあの時おれが


(なりきる職業によってステータスが変わる)って感じの事を聞いたら、


(少し違うけどそんな感じ)って言ってたな…


 確かにステータスはかわるけど、全部の職業のステータスがプラスされてるじゃん。

 これ相当大事な事なのになんで省いたんだよ!



「ユウキ?何がやっぱりなの!?」


「あぁごめん。プライが説明してくれなかったなりきり師のチートさを思い知らされて…

恐らくなりきり師って職業はステータスが加算されていく職業なんだ。」


「加算?」


「うん。おれが今まで転職した戦士、ヒーラー、アーチャー、魔法使い、そして最後になりきり師の基本ステータスを全て合計した数値がおれの今のステータスなんだと思う。」


「つまりそれって、今ある職業の熟練度やレベルを全部上げたら他の人よりも簡単にステータスが上がるって事?」


「多分そうだと思う。しかも今は初級職…プライの言い方だと今後上級職やそれ以上にも転職できるようになるはずだ。

おれが思っていたよりも、なりきり師って職業はめちゃくちゃ強かったみたいだ…」


「ハハッ!やっぱユウキってスゲーよ!スキルも一杯持ってて、ステータスもすぐに強くなる…おれもすぐに追い越されちゃうんだな…」


 ホークは最初笑って褒めてくれたけど、話している内におれの貰った職業のチートさに気付いたようで、いつもの元気が無くなってしまった…

 おれもなりきり師の能力にはしゃぎすぎて、ホークの事を全然考えていなかった。ホークの気持ちになればたまったもんじゃないだろう。せっかく一緒に冒険するために二ヶ月も待っていたのに、神に貰った職業ですぐに強くなられるんだ…


「ホーク…」


 かける言葉が見つからない…



「そろそろ行こうユウキ!メルメルの街はもうすぐだよ。」


「あぁ、そうだな。」


 完全にホークのテンションが下がっている。だが、今おれが何を言っても逆効果になりそうで話しかける事が出来なかった。

 職業を戦士に戻し、ホークと一緒に無言で歩き街を目指した。








 あれから気まずい空気の中歩き続けていると、やがて目の前に街の門らしき所が見えてきた。

 幸いな事に、あれからモンスターとも出会わずにメルメルの街まで到着できたようだ。



「見ろよホーク!街の門が見えてきたぞ!」


「ん?あぁそうだね……」


 駄目だいつものホークなら、はしゃぎまくって騒がしいはずなのに…

 今までの付き合いの中でこんなホークは初めてだ。どうすればいいんだろう…



 また無言の時間が続き、そのまま門まで到着してしまった。



 門番をしている人に手続きをしてもらい、入町税として二人分5千プライを払う。

この世界のお金…創造神プライの名前から取り単価をプライとしているそうだ…本物のプライを知っているだけに凄く使いにくい…


 単価としては日本の円とかわらず、1プライ=1円だったので、計算としてはかなり楽だ。

 種類も日本の100円、1000円、10000円の計3種類のコインだ。

 ただもしかしたらおれが知らないだけでそれ以上のお金もあるかもしれない。

 現在の所持金は二人でずっと貯めてた小遣いの7万プライと旅に出る時にそれぞれの両親がくれた3万プライを足した10万プライだ。


 払い終わったところで門番さんに冒険者ギルドの場所を聞いて、旅の最初の目的だった冒険者ギルドの前までたどり着く事ができた。

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