第5話 なりきり師、初戦闘。

 両親と別れを済まし、ホークと一緒に出発したのだが、ホークが「おれも再開の誓いやっとけばよかった」と言い出した。

 どうやら冒険者になることに頭が一杯で忘れてたそうだ…やらないよりやった方が絶対にいいので、村の花屋でカーネーションを買い、ホークの両親に渡して本当の出発をする。


「おばさん達凄かったな。」


「まさか花一つであんなに大騒ぎするなんて思ってなかったよ…」


 と言うのも…ホークが、玄関先で母親にカーネーションを渡すと、おばさんは家中に声をかけ、父、兄、妹達まで出て来て、褒めたり、泣いたり、喜んだり、怒ったりと凄く騒がしい別れになった。



「ちゃんと別れの挨拶をしないからだよ!さぁここからはモンスターも出てくる、気を引き締めて行くぞ!」


 舗装されているとは言えないが、人や馬車が通り草などが生えていない道が出来ているので、その道を通り歩いている。



「メルメルはまだ着かないのかぁ…」


「まだ半分くらいしか進んでないよ。」


 今の所は順調に進めている。モンスターにも出会わず、目的地の半分まで進んだ所だ。



「なぁ、ちょっとだけ休憩しようよユウキ!腹も減ってきたし…ここなら見晴らしがいいからモンスターが出てきても対応できるでしょ?」


「う〜ん本当ならもう少し進みたかったけど、まぁいいか…」


 インベントリから作って貰った弁当と水筒を出し、休憩にする。弁当はサンドイッチだった。この世界の食文化は、日本と似ている。調味料なんかも普通に手に入るし、高級品と言うわけでもない。ただマヨネーズやケチャップなどの調理が必要な調味料はなかった。

 これは自分で作るしかないのだが、味は知っていても、細かい材料や作り方なんかは知らないので、再現は未だにできていない。



「はい、これホークの分ね。」


「ありがとう!でもインベントリって本当に便利だよね。おれもアイテムボックスでいいからそんな便利なスキルが欲しかったよ。」


「なりきりチェンジ以外のスキルは多分プライがおまけでくれたスキルだから、おれにも取得方法まではわかんないな……

もしかしたら双剣士でも覚える方法があるかもしれないし街に着いたら情報を集めようか!?」


「そんな方法あればいいけどね…ユウキを待ってる間の二ヶ月で、双剣士について色々と調べたんだけど、アイテムボックスなんてどこにも書いてなかったからなぁ…」


「村で調べるのと、街で調べるのじゃ全然違うはずだよ!

それに、ホークが調べたのは双剣士についでだろ?今度はアイテムボックスについて調べればいいじゃん。」


「あっ、そっか…確かに双剣士の本にわざわざアイテムボックスの事なんか載せないもんね?」


「そう言う事!でもあのホークが双剣士について調べてた事におれは驚きだよ。」


「おれだってその位はするさ!なんたって冒険者になるんだから!」


 そんな話をしていると、どこからともなく『ワオーン』と犬?の鳴き声が聞こえてきた。



「ユウキ!来るよ!モンスターだ!」


「一体どこから…?」


 武器を構え、ホークと背中合わせになり、辺りを警戒する。だが、モンスターは現れない。



「ただの遠吠えだったのかな?」


 余りに敵がこないので、ホークが一瞬気を抜いてしまった。

 その時、一体の犬がホークの正面から走り出していて、それを合図にしたのか四方から計四体の犬がこちらに向かって来た。



「ホーク!囲まれてるぞ!この状況はまずい…どこか一点でも突破しないと」


 いくら見晴らしがよくても、相手はモンスターだ。重心も低いし、犬特有の素早さもある。囲まれている状況では、ろくに戦えもせずにやられてしまうだろう。



「ユウキ!一番近くの奴を狙うよ!」


「わかった!」



 ホークは正面の犬に向かって走り出した。おれも残り三体に警戒しながらもホークの後に続いた。



〈ガルルゥゥゥ〉



 犬がホークに噛みつこうと飛びかかったが、ホークもそれをよんでいてスライディングの容量で犬の下をすり抜ける。



「おらっ!」


 その際に、持っていた剣で、腹を斬りつけたが、威力が弱かったのか倒すまでには至らず、犬も着地に成功した。

 つまりおれの目の前にモンスターはいる。腹を斬られたにも関わらず、着地の勢いそのままに、今度はおれに向かって噛み付いてきた。



「うわっ!」


 盾でなんとか弾くも、まだ向かい合ったままだ。包囲を抜け切れず残りの犬もどんどんと近付いて来ていた。



「ダブルスラッシュ!」


 ホークのスキルが弾いた犬を捉えた。さっきとは逆に、犬の背中を二回斬りつけ、ダメージを与える。

 斬られた犬は耐える事は出来なかったのだろう、今度は力尽きた。



【戦士の熟練度が2に上がりました】

【スキル 薙ぎ払いを覚えました】



 いきなり頭の中に声が響いた。熟練度が上がった?それにスキルを覚えた?おれは盾で弾いただけだぞ?なんにせよ今はありがたい。使えるのならなんでもいい!



「ありがとうホーク。」


「お礼は後でいいよ!それより残りのモンスターがくるよ!」


 一体倒した事により、囲まれていた状況から、向かい合う体制にまで持っていけた。それでも数的にこちらが不利なのは変わりないが…



「おれが行く!仕留めきれないかもしれないからホークはトドメをさしてくれ!」


 三体が合流し、まとまってこちらに向かって来ている。

 さっき覚えた薙ぎ払い…初めて使うけど言葉通りの意味ならおれの知っているスキルで間違いないだろう。

 三体全員に当てれるようにタイミングを合わせてスキルを使う。



「薙ぎ払い!」


 横一閃に剣を斬りつけ三体全てを巻き込む様に、薙ぎ払いが決まった。

 スキルは覚えたら自然と使えるようになるのか、一切の迷いなく使うことができた。



「ナイスユウキ!後は任せて!はあぁぁぁ!」


 薙ぎ払いで二体は首をはね倒すことが出来ていたが、残りの一体は浅かったのかまだ生きていた。

 ホークが飛び出し、最後の一体にトドメをさしてくれた。



「あっ!レベルが上がった!ユウキは?」


「おれはレベルじゃなくて、熟練度ってのが上がったよ。」


 どうやらホークも頭の中に声が聞こえたようで、レベルが上がった事に気付いたようだった。



「ふぅ〜…危なかったね!」


「全くだよ…初めての戦闘なのに、敵の方が多いなんて…それに定番なら最初の敵ってのはスライムかゴブリンだろ普通……」


「ハハ…怒るポイントそこなの?ユウキところで熟練度ってなに?そんなのステータスにあったっけ?オープンステータス」



ホーク


15歳


双剣士


レベル2


HP273/273

MP43/48

攻撃67

防御46

魔攻22

魔防19

俊敏60

幸運44


スキル


ダブルスラッシュ



 ホークのステータスはおれよりも強い。レベル1の時に見せてもらったその時より、レベル2になった時の伸び代も多いみたいだ。双剣士が中級職なのも理由の一つなのかもしれない。



「やっぱり熟練度なんて項目はないよ?」


「さっき頭の中で聞いた声が熟練度って言ったんだよ。ならおれのも見てみようか!オープンステータス」



ユウキ


15歳


戦士


レベル1 熟練度2


HP136/136

MP138/142

攻撃26

防御19

魔攻22

魔防20

俊敏17

幸運19


スキル


なりきりチェンジ 鑑定 インベントリ マップ スラッシュ ヒール 薙ぎ払い


EXスキル


創造神の加護 無詠唱 鑑定阻害 熟練度10倍 ドロップアップ 生産率上昇


称号


転生人 なりきり初心者



「ほらやっぱり熟練度あるだろ?」


「ほんとだ確かにあるね……ってかユウキのスキルめちゃくちゃ増えてない?」


「ん?あっ、本当だ…スラッシュ、ヒール、薙ぎ払いって三個も増えてる!後称号も増えてるよ。」


 薙ぎ払いはさっき熟練度が上がり覚えたスキルだ。ただ、スラッシュとヒールに関しては、何のアナウンスも無かった。



「それがなりきり師の能力なのかな?もしかしてなりきり師で転職した職業のスキル全部使えるようになったりするんじゃない!?」


 ホークの予想は多分当たっていると思う。おれが今までなりきりチェンジをしたのは戦士とヒーラーの二つ。

 スラッシュと薙ぎ払いは戦士の熟練度が上がった事で説明できるが、ヒールに関してはなりきりチェンジ以外に説明がつかない。



「まだ他の職業に転職してないから確実じゃないけど、多分そうだと思う。プライの奴とんでもない能力をくれたな…」


 そんな事を話していると、また遠くで『ワオーン』と遠吠えが聞こえた…



「まずい、また来るよ!血の匂いかな?」


 二人共初めての戦闘とレベルや熟練度が上がった事に気を取られて、その場を動かずにいた。

 おれは急いでインベントリに犬の死体を入れ、その場をホークと離れる。



「ホーク敵は見えるか?」


「まだ見えない!」


 俊敏がホークの方が高いので、おれはただ前に走るだけだが、ホークは周りを見ながら走ってくれている。



「見つけた!さっきと同じで四体いるよ!」


 インベントリに入れた時に気付いたが、あのモンスターは犬ではなく、ギャザーウルフと言う狼のモンスターだった。



「またかよ!」


 群れで行動するモンスターなのか、今回も四体で行動している。



「このままじゃ追い付かれる!ユウキ戦うよ!」


「わかった!二体ずつやるぞ!」


 逃げるのを辞め、くるっと振り返る。ギャザーウルフはまだ遠いが、もう目で確認できるくらいまで近付いていた。



「っちょ何でおれの方ばっかり…」


 ホークと横に距離を取り、1対2で戦うつもりだったのに、ギャザーウルフは全員おれの方にやってきた。



「クソッ!薙ぎ払い」


 さっきと違い、全てのギャザーウルフに当てることはできず、二体にはかわされてしまった。

 薙ぎ払いが当たった二体は首を跳ね飛ばし倒すことができたが、残り二体が噛み付いてきた。一体は脛、もう一体は剣を振り抜いた後の右手を噛みついた。


「い゛てぇぇぇぇ…!」


 革の鎧のおかげで食いちぎられる事はなかったが、ギャザーウルフは全然離そうとしない。それどころか頭を振り噛みきろうとしている。



「この野郎!」


 なんとか力が入る左手の盾で右手に噛み付いているギャザーウルフを殴り飛ばす。



「ダブルスラッシュ!ユウキ大丈夫!?」


 脛に噛み付いているギャザーウルフを駆け付けてくれたホークが斬りつけ、倒してくれた。



「ありがとうホーク。ヒール!」


 まとわりついていたギャザーウルフが全ていなくなったので、ヒールを使い回復する。傷がみるみるうちにふさがり、噛まれた跡は全く残らなかった。



「さっきはよくもやってくれたな!トドメだスラッシュ!」


 殴り飛ばし少しふらついていたギャザーウルフに、さっきやられた怒りも込めてスラッシュをおみまいした。



【戦士の熟練度が3に上がりました】

【スキル 回転斬りを覚えました】



「危なかったぁ〜!」


 つい戦闘が終わった安心感でへたりこんでしまう。



「ユウキ!それじゃさっきと一緒だよ!早くインベントリに入れてここを離れないと!」


「休憩もできないのかよ…」


 インベントリにギャザーウルフ達を入れて、そそくさとおれたちはその場を離れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る