第9話 なりきり師、ダンジョンに行く。

 〜冒険者ギルドを出てなんとか見つけた宿の部屋〜



「ごめんなホークおれのせいで…」


「だぁー!もう!さっきからごめんごめんって何回謝れば気が済むの!別にユウキは悪くないって何回も言ってるでしょ!」


 ホークを危険な目に合わせてしまう事が申し訳なくて何回も謝っていた。

 ホークは最初に仕掛けたのは自分だって言って、別に怒ってはいなかった。



「それはそうだけど…でもやっぱり危ないだろ…」


「最初っから言ってるけどユウキ一人に戦わせる訳ないじゃん!

確かにユウキは強くなれるよ!でもまだ一応はおれの方がステータスは高いんだからね!それにおれだってあいつらにはムカついてるんだよ!」


「うん…」


「だから明日から二人でダンジョンに行ってレベルアップしまくってあいつらを倒してやろうよ!」


「…わかった。そうだな…二人でレベルアップしてギルマス達もついでに見返してやろう!」


 あの時、ギルマスは完全におれたちを馬鹿にしてた!調子に乗った新人に痛い目にあわすつもりなんだろう。

 危なくなったら止めに入ってやるよなんて決闘ではありえないだろう。

 転生人であるおれが舐められたままで終わらせてたまるか!


 ギルマスから聞いた決闘のルールはこうだ。


・決闘は両パーティー全員で行うバトルロワイヤル方式


・怪我はギルドのヒーラーが治すが、完全に治らなかった場合や、後遺症が残ってもギルドは責任は負わない


・武器やスキルは使っても良い


・原則として殺す事は禁止


・決闘終了後、闇討ち等の復讐行為は禁止、破ればギルドがそれ相応の罰を与える



 大まかに言えばこんなものだった。

 殺す事は禁止だが原則だ。不慮の事故みたいなもので死んでも恐らくギルドは責任を取らないだろう。


 そして多分モブ達は殺す気でくると思う……



「よしホーク!明日からダンジョンに潜ってモンスターを狩って狩って狩りまくるぞ!」


「おー!」


 決意を新たにこの日は村から歩いてきた疲れもあって二人共すぐに眠った。






 〜アイズダンジョン〜



「ここがダンジョンかぁ!ねぇユウキ!ワクワクするねぇ!」


 街の屋台で食料や回復アイテムを買い込み、インベントリに入れギルトへは行かず、街から15分程の所にあるダンジョンにやってきた。


「アイズダンジョン…踏破されてるのは三十五階層まで。全何階層まであるかは不明…」


 来る前の少ない時間で調べたらこの世界のダンジョンは一つもクリアされていないらしい。

 冒険者が弱いのかダンジョンの難易度が高いのかわからないがプライの話では最下層に悪魔がいるそうだ。

 何故ダンジョンがクリアされていないのだろう?悪魔の結界って神以外にも関係あるのかな?



「朝の短時間でよくそこまで調べられるよね。そんなことより早く行こうよ!」


「ホークあんまり騒ぐなよ。モンスターが寄ってくるし何より他にも冒険者がいるんだからな。」


 おれの能力を他の冒険者に教えるつもりはない。上の方の階層には沢山の冒険者がいるはずだ。

なのでなりきりチェンジはせずに戦士の職業の熟練度を上げるつもりだ。



「わかってるって!ユウキは心配性だなぁ!」


「ホークが大雑把なだけだよ。あっマッピングしながら行くからおれが先に歩くよ。」


 プライに最初に貰ったスキルのマップ。

 これはおれを中心に前後左右上下に10メートル自動的にマッピングしてくれるスキルだった。

 しかも使えば地図が見れて使っていない時も自動的に記録してくれるスキルだった。

 ホークには見えないそうでおれだけに見えるマップのようだ。


「マッパーになってないのにマップのスキル持ってるのってやっぱりユウキはスゲーよ!」


「プライから貰っただけだよ。おれが凄いんじゃなくてプライが凄いんだよ。神様だからな。」


 多分なりきりチェンジのマッパー、鑑定士、空間支配者はスキルを貰ったからなれる職業だ。

 他の初級職と違い本来は自分で条件を見つけてなるような職業だったのだろう。



「おれもプライ様にあってみたいな!いつかあえるかな?」


「う〜んどうだろう?今度あった時にそれとなく伝えてみるよ。でもあんまり期待はしないでくれよ?」


「ほんと?ありがとうユウキ!」


「聞いてみるだけだからな!ほら3日しか時間が無いんだから行くぞ!」


 マッピングしながら進んでいるので時間はかかるが一度やってしまえばもう二度とやらなくていい。

 それにここはダンジョンだ。その内モンスターとも出会うだろう。



「ユウキあそこ!」


「あぁダンジョンモンスターとの初エンカウントだ!」


 一階層での初めてのモンスター。猫の姿をしているがギャザーウルフのように大きい。しかも尻尾が二本ある。


「鑑定」


レッサーネコマタ


レベル2


HP22/22

MP6/6

攻撃10

防御9

魔攻3

魔防5

俊敏15

幸運3



「ホーク大丈夫だ!かなり弱い。相手のスキルまでは鑑定できないけどこのステータスなら負けることは無いよ!」


「どう戦う?」


「相手は一体だからな…そうだおれがやってもいいか?」


「わかった!じゃあ次のモンスターはおれな!」


「レッサーネコマタだったらな!」


 おれは剣を抜きレッサーネコマタの方に走り出す。

 近くには隠れるような場所の無かった岩場のダンジョンなのでバレないように近付く事は出来なかった。

 おれが近付いている事に気付いたレッサーネコマタは前足を揃え重心を低くし、ケツを上げ尻尾を立たせながら威嚇している。



「逃げないなら好都合だ!そらっ!」


 レッサーネコマタにスキルを使わずに斬りかかる。

 レッサーネコマタは避けようとしたがおれの攻撃は避けられる事なくヒットした。

 そのまま続けて攻撃すると早くもレッサーネコマタは力尽きた。


【戦士の熟練度が4に上がりました】

【スキル ビッグシールドを覚えました】



「あっ!熟練度上がった。ギャザーウルフで蓄積分でもあったのかな?」


「相変わらずポンポンと上がるね。」


「上がるのは熟練度だけでレベルは全然上がんないんだよな……

でもまだ始まったばかりだ!この3日間で限界まで上げないとな!」


 レッサーネコマタから落ちたレッサーネコマタの尻尾をインベントリに入れ、マッピングをしながらダンジョンを進んでいく。

 このアイズダンジョンは地下に降りていくダンジョンだ。途中で下に降りる階段を見つけたがこの一階層はそんなに広くないみたいなので全部マッピングしてから二階層に降りることにした。


 歩いているとレッサーネコマタとも出会い今度はホークが倒した。

 ホークもやはり楽勝で勝つことができてあれから特にイベントらしいイベントも起こらなかった。

 レッサーネコマタは群れを作らないのか単独でいる事しか無かった。

 なので交互に計5体倒したが数もそれ程いなかったので一階層でおれの熟練度もホークのレベルも上がることはなかった。




 〜ニ階層〜



「二階層も雰囲気は同じか…」


 一階層と変わらずまた岩場のフロアみたいだ。



「また交互に倒していくの!?」


「それは敵を見てからだな!一応行動パターンやモンスターが変わるかもしれないから最初は特に気をつけて行こう。」


 時間がなくモンスターの事やダンジョンにどんな罠があるのかまでは調べれなかった…


「りょーかい!このフロアもマッピングするんでしょ?」


「するよ。遠回りで時間がかかるけど隠し部屋とかがあるかもしれないしな。」


 ここは二階層だ。あったとしても見付けられているだろうがリポップする宝箱とかなら取っておきたい。

 おれはゲームとかでも遊び尽くしたい性格なんだ。またホークを連れ二回目のマッピングを始めた。





「ダンジョンって岩場なのにちゃんと道があるんだね?」


「謎の親切設計だよな!でも他の冒険者がやったのかもしれないし他のフロアは道が無いかもしれない。

もっとよく調べればよかったよ…」


 他愛ない会話をしながら歩いていると〈ワオーン〉と聞き覚えのある遠吠えが聞こえた。


「ホーク!」


 声をかけただけでホークは剣を抜き戦闘態勢に入る。

 一度痛い目にあっているので今度は失敗しないようにしないとな…


 近くの岩に登り遠目を使う。



「何処だ?」


 遠目を使いながら、キョロキョロと探すが、岩場が邪魔で探しにくい。



「ユウキ見えた?」


 ホークも周りを警戒しながら聞いてくる。



「まだ見えない…岩場を利用して隠れながら来てるかもしれない!ホーク気を抜くなよ!」


「わかってるって!ユウキも気を付けてね!」


 話しながらも探していると一瞬だけ何かが動くのが見えた。



「多分一体見えた!距離は50メートル位。ホークから見て左の方向だ!」


「また四方から来るのかな?どうするユウキ?」


「とにかく少しでも広い場所に出よう。ここじゃ障害物が多すぎる!」


「それならあそこなんてどう!?」


 ホークが指を差し教えてくれた場所はさっき通った道にある直径5メートル程の更地だった。



「うん、いいと思う!…でもいつ襲って来るかわからないから警戒しながら全力疾走するぞ!」


「わかった!行くよ、3、2、1、走って!」


 一緒に出たが全力疾走のホークには追い付けない。

 20メートル程なので距離的にはそんなに問題は無いが敵の姿をまだ一体しか見れていないので何処から襲って来るのかわからない。



「着いた!ユウキ遅いよ!急いで!」


 言われなくてもわかっているが、今は返事をしている余裕はない。

 短いはずの距離が遠く感じる…あぁ敵感知のスキル欲しい…


 余計な事を考えながらもなんとか到着する事ができた。

 息を少し切らしながらもすぐにホークと背中合わせになって周りを警戒する。



「ハァハァ…遅くて、悪かったな!多分すぐ来るぞ!」


 そう言った途端に一体のギャザーウルフがホークが見ている方から飛び出して来た。


〈グルルゥガァァ〉



「来た!おらっくらえ!」


 勢いの乗ったギャザーウルフの噛みつきにホークがカウンターを決める。

 開いた口から剣が入り上下真っ二つになった。


 おれの方からも二体出てきた。一緒に出てくれば薙ぎ払いで巻き込みながら倒せるが違う場所から二体が出てきた。



「ホークこっちに二体来た!終わったなら一体頼む!」


「任せて!」


 おれたちはギャザーウルフに向かって走り距離を縮める。

 ギャザーウルフも連携を取るモンスターのようだがおれたちには敵わない!



「はぁぁ!スラッシュ!」


「ダブルスラッシュ!」


 二人のスキルをそれぞれ受けたギャザーウルフはあっけなくそのまま消えていった。



【戦士の熟練度が5に上がりました】

【スキル 斬撃波を覚えました】



「残り一体!」


 まだ姿を見ていないし何の保証もないが今までのギャザーウルフは全部四体で行動していた。多分近くにいるだろう。


「ユウキ!あそこ!」


「いた!最後の一体だ!」


 最初にホークが倒したギャザーウルフの近くに姿が見えた。

 ギャザーウルフは何故かいつもみたいに突っ込んで来ないが来ないならこちらが行けばいい!剣を構え近付こうとしたその時……



〈ワオーン!!〉



「「うるさっ…」」


 近くで遠吠えをした。近距離で聞くとこんなにもうるさいのか………


 ん?遠吠え?他の仲間は全部倒したぞ?何かがおかしい…凄く嫌な予感がする…まさか!



〈ワオーン〉〈ワオーン〉〈ワオーン〉〈ワオーン〉



 と、あらゆる所から遠吠えが聞こえてきた…



「おいおい、嘘だろ…」


 こんな低層階でモンフェスかよ…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る