第8話マッチ売りの。

東京新宿。雪が降るほど凍りついた空気が漂う午後11時。外套を羽織る人々に向け赤いダウンを着た少女がマッチを売る。

「マッチ一本いかがですか。暖かいですよ」

誰も見向きもしないから、僕が勇気を出して言ってみた。

「すいませんマッチ一本ください」

すると少女は笑顔で「有難うございます。一本百円です」と言ってマッチを一本渡してきた。守りたいこの笑顔。

マッチが一本百円というのは些か腑に落ちなかったけど、とりあえず十本買っておいた。ロリコンではないけれどこのマッチを見たらやはり勇気を出して良かったと思う。

僕は優しさという自己満足に満たされながら家に帰る。

アパートの一室で暖房も力不足なため早速マッチに火を灯してみた。

マッチには不思議な暖かさがあって、なんだか眠くなってきた。


「東京都新宿区で昨晩未明原因不明のガスによりアパートの住人たちが昏睡状態に陥り病院へ搬送されたのち死亡が確認されました。犯人は判明しておらず捜査中とのことです。次のニュースです…」


放火するつもりだったが、結果的には上手くいった。マスクをつけていなかったらどうなっていたことやら。

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