第7話コエナシ

学校生活で何度かふざけるなよと思った事がある。理不尽な数学の問題とか、とばっちりで怒られた時とか同じ部活のメンバーに屁をかけられた時とか。

でも言えない。自分には叫ぶための口がないから。そもそも人と話す事が苦手で本当のことを言えば人と話さずに生きていきたい。

それなのにあいつはいつも話しかけてくる。

「部活お疲れ」


「この問題教えてー」


「遊ぼー」


隣に住む楓は何かと仲良くしてくれる。

「なんで俺と仲良くしてくれるの?」と尋ねた事がある。

「暇つぶし」

そう言われた時は若干傷ついた。


流れで楓と結婚することになった。多分向こうは俺になんの期待もしていないし、俺も楓にはなんの期待もしていない。

結婚したことによる幸福感は全くなかった。

結婚してから数年後。楓の浮気が発覚した。仕事から帰ると家に男を連れ込んでいるところにばったり出くわしてしまった。

正直、ふざけるなと思ったけどやはり叫べなかった。やっぱり俺の口は叫べないのだな。

ならば他人の口を借りよう。

「あああああああああああああああああああああああああ!」

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