竜の里へ向かうもの/王子の正体
教会で回復魔法を覚えてから数か月後…
「ふぁぁ…朝…まだ暗いのに…」
朝…といっても太陽もまだ見えない時間。
眠たい目を擦りながら私は外に出ていた。
それはなぜか?
この前、授業をさぼったバツだとかで城下町の奉仕活動を命じられたからだ。
それマジで言ってるのって思ったけど。
城下町って相当広いんだけど?
あと『そこを全部掃除して来るまで授業に参加するな』とかも言われた。
そんなこと言われなくても参加しないけどね?
どうせ基本の詠唱の授業からだし…
そもそもあの先生の授業はつまらないし…。
早くロン先生戻ってこないかなぁ…
なんかもうちょっといてほしいって言われて滞在期間が伸びたらしいんだよね…。
「愚痴を言ってないでさっさと終わらせますか…」
魔法を使っちゃいけないなんて言われてないから魔法でさっさと終わらせればいい。
まず、風魔法でごみを吹き飛ばします。
終わりです。
「終わりました。割と体力が持ってかれた気分です。」
どっと疲れた気がする。
これからは掃除に風上級魔法を使用するのはやめておこう。
とにかく終わったし先生に報告して遊びに行こう。
って言っても今まだ朝の5時なんですけどね。
清掃時間はなんと1分以内。
魔法がなかったら絶対無理だね。
転移を使って先生の家へ移動する。
なんで先生の家を知ってるのかというと、先生が自分で言ってたらしい
…というのを他のクラスの子を。
俺の家はここなんだ。羨ましいだろうって
残念ながらクラスメイトはほとんど聞いてなかったらしい。
「先生。終わりましたよー…って寝てるし…」
部屋に転移すると先生はすやすやと眠っていた。
先生が終わったら報告に来いって言ってたのに。
こんなに早く終わるなんて思ってなかったのだろう。
多分、授業が終わった後にもやってる姿をみてげらげら笑ってやろう…
なんて考えていたのだろう。
とりあえず置手紙でも置いておこう。
『掃除終わりました。確認しておいてください。』
と紙に書いておく。
こんなものでいいだろう。
紙とペン、持ってきておいて良かった。
「さて…帰って準備しますか。」
転移を使って寮へと戻る。
「さて…言われてた掃除も終わったし、何しようかな…」
『ふぁぁ…おはおー』
何をしようか考えていると、昨日のうちに帰ってきて寝ていたリトアが目を擦りながら起きてきた。
「おはようございます。リトア。竜の里は楽しかったですか?」
『まぁ…普通だったかな。でもアリスが喜びそうな情報はあったよ。』
「私が?」
私が喜ぶ情報…というとスイーツの情報とか?
それとも強いドラゴンがいたとか?
それで喜ぶのはシェリルだと思うけど。
『竜の里の神殿には竜皇ってのが居て、竜魔法の巻物を守ってるんだって。
今回、私は入らなかったけど。
というか入れなかったの。
なんか私は観光客だから駄目って兵士に止められて。』
竜魔法…。
竜になったりとかできるんだろうか?
それとも火が吐けたりするようになるのかな?
なんにしても興味を引く魔法だ。
恐らくその巻物を読めばスキルとして習得できるはずだ。
何としてでも手に入れたい。
「決めました。竜の里へ行きます。リトア。帰ってきたばかりで悪いのですが付き合ってくれますか?」
『任せて。今、竜化は少し厳しいけれど案内ぐらいは出来るわ』
「ありがとうございます。じゃあ近場まで移動しましょうか。」
転移を使って私が行ったことのある街の外まで転移する。
竜の里は流石に距離が遠すぎるらしく転移できなかった。
『あそこは人間の馬車じゃいけないの。だからここから飛んでいくわ』
「飛んで…あ、そう言えば飛行のスキル持ってなかったです私。」
なんでもいいから空中を移動するスキルが手に入ればいいんだけど…。
集中して…空を動けるスキルを思い浮かべる。…。
空中散歩とか…飛行とか…
《スキル:飛行を取得しました》
いつものアナウンス後に羽が生えてふわっと空に浮かぶ。
これが飛行スキルか…
転移が使えないときは便利かもしれない。
結構早く移動できるっぽいし。
あとなんか天使っぽくてかわいい。
『じゃあ私に付いてきて。』
そう言ってリトアが先行して前を飛ぶ。
「リトア。ここから竜の里まではどれくらいかかるのですか?」
『んー。このスピードなら片道で二日くらい?
私は全力で飛ばしていったから8時間くらいで着いたけど。』
「じゃあこのスピードのまま行きましょうか」
『そうだね。それでいいかも』
そう言って私とリトアは竜の里を目指して進むのだった。
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リトアとアリスが竜の里を目指し、空を進んでいる頃…
王城の外には城から抜け出していたセレノの姿があった。
いつものかつらではなく銀色のさらさらした髪をなびかせている。
「危ない危ない。もう少しで死ぬところだったよ。」
今朝、部屋にいるところを襲撃されたのだ。
それで他の家族に気づかれないようにこっそり出てきたわけだ。
「まさかこんなに早いなんてね」
自分が王から嫌われているのはわかっていた。
殺しに来ることも分かっていた。
『流石に本来のストーリー』よりも早いとは思わなかったが。
「アリスのところへ急ごう。少し早いけど合流した方がよさそうだね。
本来ならヒロインが転移してきてから事情を話すつもりだったんだけど…」
そうぶつくさ言いながらもセレノは飛んでくる矢を華麗に避けて見せる
「僕を殺したいなら戦車でも用意してくれないと」
そういいながらセレノはスナイパーの位置を捉える。
「ふぅん…そんなとこから狙ってたんだ。」
唐突に聞こえてきたセレノの声にスナイパーは戸惑う。
きょろきょろとあたりを見回すがそれらしい姿はない。
いるはずがないのだ。
セレノは移動しながらもスナイパーに語り掛けているのだ。
「ああ…君じゃあ僕は殺せないよ?残念だったね。」
「消えて」
そう言った後セレノは城外に出て魔法学校の方へと走っていった。
そしてスナイパーのいたはずの位置には矢一つすら残っていなかった…。
まるで最初から何もなかったかのように…。
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