課外学習に行こう〈終〉

「…また戻ってきてしまいました」


最下層に着いてから何分が経っただろうか。


私達はずっと進んでは入り口に戻るという行動を繰り返している。


すなわち迷子である。


うん。圧倒的迷子。


こういう時は…ここの地図を確認できれば…


目を閉じて集中し、具体的に考える。


この周辺の地形を確認できる地図を出すことが出来るスキル…


《スキル:マップを取得しました。》


「やりました。」


手に入れたマップのスキルを使って現在地の確認をする。


そこには【クロスの迷宮:最下層】と表示されていた。


クロスの迷宮…


それがここの洞窟の名前か…。


「…?こんな道ありましたっけ…?」


実際には道がないはずの場所に道が書かれている…?


もしかしてこれは…隠し通路というやつなのでは?


ダンジョンのお約束…。


「二人とも。道を見つけました。」


『ほんと?』


「ここら辺にはそれらしきものはなかったですけど…」


「恐らく何かの力で隠されているんです。恐らく魔法かと」


「それなら解除は任せてください。


私、【半魔法空間(アンチマジックゾーン)】っていう特殊能力が使えるんです。


見ててください。」


そう言って背中に背負っていた杖を女の子は地面に突き刺した。


すると不思議な空間が広がり、魔法で作られていたであろう壁がボロボロと崩れ去った。


そしてその奥には階段が見える。


「一気に進んでみましょうか。」


そう言って私はマップを発動しながら転移を発動する。


かなり体力が減るけど…


「はぁ…はぁ…なんとか移動できました。」


最深部の最奥の部屋まで移動することが出来た。


『ダレダ?オレノヘヤニハイッテキタオロカモノハ』


部屋の奥からそんな声が響く。


恐らくこの部屋の主…ダンジョンのボスの声だろう。


「私、支援専門なんですけど…お二人はどうですか?」


「なんとか戦えます…」


『私は大丈夫。やれるよ』


さっきの転移で結構な体力を持っていかれたが…


まだ剣を持つ余裕くらいはある。


「水刀」


私の手元に水でできた刀が召喚された。


しかしすぐに解除されてしまった。


「スキルも出せませんか…相当さっきのが響いてるみたいですね」


シキザクラもスキルも使えない。


残っているのは腰に付けてある剣だけだ。


『…今、スキルって言ったな。』


剣を構えるとゴブリンが普通の人間の声で喋りだした。


そんなに賢いゴブリンなのか…?


「ええ…言いましたが…」


『お前は…転生者なのか?』


「っ!」


『…図星なんだな。』


「…なぜ分かったんですか?」


『この世界の人間はスキルなんてものは所持してない。


俺は鑑定を使えるから分かる。』


「私と同じ転生者…。」


私も突然、この世界でアリスとして目覚めた。


まぁ幸い私は、人間だったけど…


この人は相当つらかっただろう。


元は人間だったのだから、自分の意志とは関係なく人間を襲うのも苦痛だったはずだ。


「あなた…学校とクラスは?名前は?」


『そんなにいっぺんに聞くなよ…


名前は伊丹 リョウゴだ。


学校…川豊高校の二年。クラスは四組だけど?まさかあんたも?川校?』


「はい。私は三組でした。」


『別クラスか…名前は?』


「私はアヤです。こっちではアリスとなっています。」


『じゃあアリスと呼ぶが…


アリスはこの転生のことなんかわかるのか?』


「いえ。詳しいことは。


ただ、私はスキルという特殊能力を持っています。


これはおそらく私達をこの世界に寄こしたものが付与したものでしょう。」


『そういや俺も【他者の血肉を糧に】っていうの持ってるな。』


「なるほど…。」


名前からして食べた人間や動物の能力を奪うものだろう。


漫画やゲームによくあるやつ。


奪取とか強奪とか言われるようなやつ。


さっき鑑定を持ってるって言ってたのはその能力で得たものか。


いいなぁ…私もそういうかっこいいの欲しいな…


流石に中二っぽいのは嫌だけど。


「では改めてよろしくお願いしますね。リョウゴさん。」


『ああ。』


『アリス。私、置いてけぼりなんだけど…』


「私もです…。」


「あ、ごめんなさい。」


他の転生者に会えたのが嬉しくてつい舞い上がってしまって


二人を置いてけぼりにしてしまっていた。


「私は一旦外に出ますが…リョウゴさんはどうするんですか?」


『俺はまだここに残る。ここで鍛錬をする。


何かあったら呼んでくれ』


そう言ってリョウゴは不思議な笛を渡してきた。


「これは?」


『俺を呼びだすための笛だ。


ピンチの時になったら使ってくれ。


あともう一つあるからちょっとまってろ』


そう言ってリョウゴは奥に行ってからまた戻ってくる。


その手には杖が握られていた。


「それは何ですか?」


『これは前にここに来た冒険者が持ってたらしい。


目覚める前の俺が殺したみたいでな。


使ってやってくれ』


「何に使えるかは分かりませんがとりあえず貰っておきます」


そう言って杖を受け取る。


『そうだ。脱出できなくてここに来たんだったな。


俺が作ったそこの転移陣から帰ってくれ。』


「ではまた会いましょう。」


そう言って私達はリョウゴと別れて洞窟を脱出した。

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