「Three Messages」

 各位


 お世話になっております。

 先日の懇談会は非常に有意義なもので、アルコールとカラオケという普段の私達からは縁遠いものを通じて、新たなコミュニケーションの可能性を確かに感じ取りました。


 特にI氏がお一人で熱唱した「クックロビン音頭」は、平成生まれが大半を占めるあの場において、ジェネレーション・ギャップを感じさせない孤独と虚無感を我々に植え付け、唯一曲を知っていたN女史も見て見ぬふりをしていたご様子、大変心温まる一瞬でありました。I氏の歌声と軽やかなダンスは、あと二十三秒ほど私の胸に残り続けるでしょう。


 S女史の飲みっぷりは豪快なものであり、普段のつんつんとした女史のイメージを痛快なまでに破壊し、酩酊時の男性への媚びぶりは他の女性の心優しい視線を一身に浴びていましたね。酔いが醒めたS女史が自らのハッスル具合をご記憶かは計りかねますが、これまで以上に皆様に愛されることとなると、私は確信しております。


 アルコールを摂取することによっていつにも増してその独裁者的スタンスを強化したK氏には、今後も我々の尊敬と畏怖の念が注がれることは言うまでもありません。懇談会参加者の半数が若い女性であったにも関わらず、臀部を露出しあの部屋を全力疾走した氏のリーダーシップに、私は幼児が初めておつかいに行くのを眺めるような多幸感に包まれました。


 取り急ぎ、感謝の旨をお伝えさせて頂きました。

 次回の懇談会は来月半ばの予定、幹事を担当させて頂く私も責任を持って取り組みたいと思っております。集合場所は筑波山のカエル岩の前でよろしかったでしょうか? 念のため、各部署で再度情報の落とし込みをお願いします。遭難防止のGPS機器が必須であることも、併せてお伝え下さい。


 諸々よろしくお願い致します。


   ◇ ◆ ◇


 親愛なる友へ


 夏祭り以来連絡がないけどお元気ですか? あの日は本当に楽しかったですね。


 貴方が大人げなく意地になってすくった六匹の金魚は、近所の幼稚園に譲り、今頃園児たちの寵愛を一身に受けていると思います。ご安心下さい。


 あの夜出会った例の女性とは、現在に至るまで親密で濃厚な交際を続けています。 彼女は貴方を称して「ギャグマンガにたまにしか登場しない正体不明の宇宙人みたいだよね」と語っており、年末までにもう一度会いたいと言っています。僕と彼女は大抵週末を共に過ごすので、もしアメ横まで出る機会があればご一報下さい。


 こちらはそろそろセーターやマフラーが必要となる気候ですが、そちらは如何ですか? 赤道直下の地域はやはり年中暑苦しいものなのでしょうか。前回お話しした際、水泳がマイブームだとおっしゃっていましたが、ピラルクとピラニアにはくれぐれもお気を付け下さい。


 そうそう、去年貴方と一緒に応募した「日本おしぼりはきちんと畳もう協会」ですが、僕の方には早々に会員認定証が届きました。そちらまでの郵送にどれくらい時間がかかるかは分かりませんが、学生時代のように一緒に温かいおしぼりをちゃんと畳んでテーブルの隅に寄せたいものですね。


 お時間と心の余裕がある時に返信頂ければ幸いです。

 最近メーラーの調子が悪いので、お手数ですが、このアドレスと同時に「乳液が朝と夜で違うなんて金かかりすぎる」の方にも送信して貰えると助かります。


 それでは、今度こそ手錠のない状態でお目にかかるのを楽しみにしています。


 ◇ ◆ ◇


 鷹の爪ホテル支配人様


 先日貴ホテル様の夜明けの間で昨晩行われた我が社の会合について、心から謝罪いたします。我が社は昨今厳しい状況にあり、社員一同、胸の内に抱えたものを発散させる必要がありました。一部社員が想定外の行動に出たことは、ひとえに夜明けの間があまりにも快適かつ開放的な空間であったからであります。


 無論、損害賠償はいたします。卓袱台、窓ガラス、マッシュポテト等、細かい請求書をご送付頂ければ即日お支払いする所存です。


 我が社の社員に巨大なフランスパンで殴打された従業員様の容態はその後いかがでしょうか。暴力をふるった女性社員は本日付での解雇が決まりました。産休を取りたがっていたので彼女にとっても納得のいく処分だと自負しております。しかし彼女はフランスパンが何なのかを知らず、恐らく自衛のための兵器だと誤解したのだと思われます。被害者様には心よりお詫び申し上げると共に、回復を祈っております。


 我々は今回のような事故は二度と起こらないとここに約束いたします。鷹の爪ホテル様のような快適で前衛的な居場所を失うのは我が社にとっても痛手であり、もしカラオケ機器が導入された暁にはお詫びとして数名の歌い手を派遣することも可能です。支配人様および従業員の方々が寛大であることと根っからのボサノバ愛好家であることは存じておりますので、確実に償いきれると信じております。


 それでは、法廷でお会いできるのを楽しみにしております。



 ※裏話※

 最後の一篇は英語で書いたものの日本語訳版だったりします。

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