HELLFIRE —「笑いのヒトキワ荘」参加用ユーモア小説集—
八壁ゆかり
シュール・ナンセンスを目指したもの(一部ブラックユーモア)
「Welcome To Our City」
駅に着くと、既に友人の坂本が迎えに来てくれていた。僕は彼に近づき、ニカッと笑った。坂本も同じように笑う。
六年ぶりの再会だった。
仕事の都合で坂本がこの街に移ってからは、電話やEメールでしかやりとりがなく、こうして会えるのは本当に久しぶりで嬉しい。
「相変わらずおまえは景気の悪そうな顔してるな」
と、坂本は大口を開けて笑った。学生時代を思い出す。坂本はいつもこうして笑って、僕や周りの人間を楽しませてくれたものだ。
「そっちこそ、この街に来てから太ったんじゃないか?」
僕もやり返す。友人の少ない僕にとって、こんな気の置けない会話は久しぶりだった。
「まあ、何度も言ったが、この街は少しばかり変わってる。おまえも住めば慣れるだろうが、せいぜい気をつけるんだな」
坂本が僕の荷物を半分持って歩き出した。そう、僕は彼の紹介でこの街に移って働くことになったのだ。前の会社では、かなりの実績を上げていた僕だけど、景気の悪さには勝てなかった。坂本が「景気の悪い顔」と言うのも無理はないかもしれない。
駅前通りを歩きながら、たわいもない会話をする。これから僕の新居に向かう予定だ。
所々で、坂本は建物や道について親切に説明してくれる。
すると突然大柄な男が坂本の肩を乱暴に叩いた。僕は驚いて鞄を落としてしまった。
「おい! 久しぶりじゃねえか、てめえ! まだ生きてやがったとはな。何で今まで連絡くれなかったんだよ。てめえの事だからその辺の道ばたで野垂れ死んだのかと心配したぜ」
強面の大男は、その人相の悪い顔を歪めて、嬉しげに坂本に話しかけた。どう見ても、堅気の男には見えない。坂本の奴、この街に来て何かあったのだろうか?
「貴様こそ! 前に聞いた番号にかけても繋がらなかったぞ。例のブロンドの奥さんは元気か?」
「ああ、もちろん。おまえに会いたがってたぜ。実は後二月ほどで念願のベイビーが生まれそうでな」
「本当か? よかったなあ、おまえもついにパパか。昔から子供欲しがってたもんなあ。いやあ、おめでとう!」
「よせやい、照れるじゃねえか。そっちはどうだ? 例のモデルとは」
「その話はなかったことにしてくれよ、気分が悪くなる。あの女、どこぞの金持ちのどら息子に寝返りやがった」
「ハハハ、ざまあねえな。それなら三番街のパブの親父にでも女紹介してもらえよ。知ってるだろ? あのボケ親父」
「ああ、自分の店なのにいつも自分が一番酔っぱらってる奴だろ? 奴こそ今にもアルコール中毒で逝っちまいそうだな」
「その通りだぜ。全くこの街も変わりやしねえぜ」
「そうだな。じゃあ、今日はこのニューカマーと用事があるから、また今度な。生まれたら速攻で電話してくれよ」
「おう、たまには店にも遊びに来いよ」
男は終始笑みを絶やさずに、そのまま駅の方へ去っていった。かと思えば、別の通りから出てきた中年の女性と話し始め、また盛り上がっている。
辺りを見渡せば、子供から老人まで、時には数人で、楽しそうに会話している。
人付き合いが下手な僕も、この街でなら上手くやっていけそうだと安心した。
「おい坂本、この街のどこが怖いんだ? さっきの男も、その辺で話してる連中もみんなすごくフレンドリーじゃないか」
僕がそう言うと、坂本は楽しそうに笑った。
「なに、さっきの男とは初対面の他人さ」
【了】
※注釈※
このショートショートは八壁が13歳の時に書いたものです。
会話が妙にアメリカ〜ンですが、おそらく映画の影響かと思われます。
まさかこの数年後、本当にアメリカに行くことになるとは夢にも思ってなかったでしょうね。
初っ端からお目汚し、失礼いたしました。
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