Bパート 7
――ティーナ!
人は、極限まで追い詰められた時、自分にとって都合が良い幻の声を聴くことがあるという……。
――何をしている!?
だが、はるか上空からとどろく声の力強さは、どうか。
――立て!
その声はティーナを
――そして戦え!
これなる声の主を、たがえるはずもない……。
「ショウ……様……?」
あの日から一年……。
またその声が聞ける日を待ち望み続け、それがかなわぬと知った人物の名をつぶやく。
そして、マヒする体を奮起させ、上空を見上げた。
「――な、なんでありますか!?」
つられて空を見やったポラロイダスが、
果たして、上空から猛烈な勢いでこちらに向けて降下し、地上に影を投げかけていたのは……一匹の竜であった。
ただの竜ではない……。
全身が鋼鉄と化した、真紅の竜である。
一般的な飛竜のそれと比べ、
しかも、鋼鉄の四肢も首もごく自然な生物のそれと変わらぬ自在な動きを見せており、光り輝く一対の翼からは不可思議な粒子を噴出させているのだ!
これなる竜の名を、たがえる王国民など存在しようはずもない。
――
ならば、その背にまたがり真紅のマフラーをなびかせている青年は……!?
地上へ向けて急降下しながらその身を変形させる
「ローダー――――――――――」
『――――――――――バーニング・ストーム!』
バイクモードに変形しつつある
「――くっ!?
き、緊急回避であります!」
機械戦士が、素早くその場から跳びのいたのは
だが、従える
火球の雨によって動きを封じられ、変形完了したドラグローダーによる必殺の体当たりをまともに喰らうこととなったのである!
「ゼ、ゼラノトルーパーたちが!? であります!」
難を逃れたポラロイダスが、奇怪な単眼を伸縮させながら驚きの声を漏らす。
いかにゼラノトルーパーたちが頑強であろうと、聖竜の末裔にとっては誤差の範囲でしかない。
火球と突撃を受けた
「――とおっ!」
さらに、横滑りに停車させたローダーの車体から騎手たる青年が跳躍し、機械戦士に跳び蹴りを見舞う!
「――どおわっ!?」
たかが生身の人間が放った蹴りの、なんという威力!
全身金属の塊であることを感じさせるポラロイダスは、これを頭部に受けて大きく吹き飛ばされたのである!
そして、着地した青年の背中がティーナの瞳に映った。
正義というものを、人々の願いを背負った背中……。
これを見ると、ティーナの心に無限の勇気が湧き、動かなかったはずの体が動き、発動できなかったはずの術を、これまでにないなめらかさで発現させることに成功したのである。
「――ショウ様!」
涙をこぼしながら、青年の名を叫ぶ。
同時に巫女姫の全身からは光の粒子が溢れ、自身の傷を癒すと共に倒れる者たちへ降り注いでいった。
「――勇者殿!?」
「ショウ……様……!?」
癒しの魔法を受けたヒルダが、ヌイが、
「勇者殿が、帰って来たというのか……!?」
スタンレーたち騎士が立ち上がった!
そして、誰もが万感の思いを抱きながら勇者に駆け寄ったのである!
「か――」
「――帰って来たぞ!」
勇者が、ほほえみを漏らしながら告げようとした言葉は、少女の姿へ戻ったレッカに取られてしまったが……。
「ショウ様! 本当にショウ様なのですか!?」
最後に合流したティーナが、涙ながらに勇者の顔を見上げる。
「ああ! みんな! 待たせてしまったな!」
ショウはその言葉に、いつも通りの力強いうなずきを返した。
「ですが、勇者殿。どうやって戻ってきたのです!?」
「ショウ様は……太陽になって魔界を照らし出してるって……」
「せつ――」
「――説明してやろう!」
勇者の言葉は、またしても相棒に取られてしまった。
--
フ……確か、ラトラたちとの戦いでもこんな一幕があったな。
そんなことを考えながら、つい先ほど起こった出来事を思い返す。
魔人王――レイとの決戦と、ある種の和解を経てから今日に至るまで……。
魔界を照らす太陽と化したおれとレッカは、まどろみ続けるような……あるいは覚醒し続けるような不思議な感覚の中で、
心の中を満たすのは、ただ深い満足感のみ……。
時間の感覚などあいまいであったが、このまま何万年何億年と過ごし、友愛に目覚めた魔界の住民たちを見守り続けていくのだろうと思われた。
おぼろな意識を覚醒させたのは、あの男の言葉である。
――起きな、兄弟。
レイ……。
最期の瞬間、俺と一体となった魔人王がそう呼びかけてきたのだ。
――どうやら、のん気にピカッてる場合じゃないようだぜ?
――地上に……レクシア王国にかつてなき危機が迫っている。
――人間の自由と平和を守るのがホッパーの使命……そうだろ?
もう聞くことはないだろうと思っていた声を聞けたことに喜びながら、おれはこう反論した。
しかし、魔界はどうなる……? と。
――安心しな。この一年で、お前が生み出した太陽もずいぶんと安定してきた。
――あとはもう、俺一人でどうにかやってみせるさ。
――さあ、行きな! お姫様たちがピンチだぜ!
そう言われると同時に視界が開き……。
おれとレッカは、王都の上空へと放り出されていたのである。
--
「――後は、ワシが変身し駆けつけたというわけじゃ!」
おれの説明を、レッカが胸を張りながらしめくくった。
自由落下しながら、なお眠りこけるレッカをはたき起こすのは、なかなか難儀であったことまで、説明する必要はあるまい……。
「魔人王……が……」
ヌイの言葉に、おれは深くうなずく。
「死んだと思わせて、これだ。
最後の最後まで、人を食った男だったな……。
――だが、奴のおかげで肝心な場面には間に合ったようだ!」
懐かしき顔ぶれを見渡した後、おれは先ほど蹴り飛ばした人型ロボットをにらみつける。
「く……一体、なんなのでありますか!?」
一体、どのような存在がこいつを生み出したのか……。
明らかに、この世界はおろか、地球のそれと比べても数世紀以上は
ポラロイドカメラのごときふざけた頭部をしたそいつは、おれを指差しながらこう言った。
「――そこのお前! 名を名乗るであります!」
その言葉に、おれはふっ……と笑みを漏らす。
そして、かたわらのティーナを見据えた。
「ティーナ、よくみんなを治療してくれた。
……後は、おれに任せておいてくれ」
「ショウ様……! はい……!」
ようやく涙の収まりつつある少女は、そう言ってこくりとうなずいてくれる。
「レッカとヌイは、ティーナに付いててやってくれ」
「任せておけ!」
「……ん」
レッカとヌイが、にかりとした笑みと無機質な表情でうけたまわってくれた。
「ヒルダさん、みんな、ティーナたちを頼む」
「心得た!」
「勇者殿は、心置きなく戦ってください!」
ヒルダさんを始め、騎士たちの声援を背に受けながらおれはゆっくりと歩み出す……。
そして、奇怪なロボットと数メートルの距離で向き合った。
「聞こえなかったでありますか!? さっさと名乗るであります!」
「……そんなに知りたいなら、教えてやろう」
決意と共に……。
もう二度と取ることはないと思っていた、動作を繰り出す!
おれの半身にして、魔界を照らす友の分身でもある――
「変ンンンンン――――――――――身ッ!」
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