Bパート 6
「――姫様!?」
「――くそ! このまま見ていられるか!」
「――命に代えても、お救いするぞ!」
国の象徴たる巫女姫が、機械戦士なる謎の敵から受けた攻撃によって倒れる……。
騎士団長の指示に従い避難誘導へ徹していた一般騎士たちや、大神殿から様子をうかがっていた神官たちは、この光景を見て一斉に奮起した。
騎士たちは当然剣を引き抜き、神官たちも祭事用の杖を手に握り締めながら駆けつけようとする。
が、
「あーもー! 邪魔するなであります!」
彼らは、近づくことすらかなわなかった。
ポラロイダスが次々と投てきした光球は、彼らの前方で爆発を引き起こし、たたらを踏ませる結果となったのである。
いや、たたらを踏んだだけならばまだ良い……。
中にはそれへ巻き込まれて吹き飛ばされ、受け止めた後続の者らともみくちゃになっている者の姿もあった。
「バエバエバエ……下等文明の者たちが
そんな彼らに向けて閃光を放ち、またも口元のスリットから奇怪な絵画を吐き出しながら、ポラロイダスが
向かう先は――倒れる巫女姫ティーナ!
機械戦士の背後には、一糸乱れぬ隊列を組んだ
--
「く……うう……っ!」
ティーナは倒れ伏しながらも、そんな光景を余さず見つめていた。
何か得体の知れぬ力が走り抜けた体は、ぴくぴくと
しかし、それでもどうやら首を動かすことだけはできたのである。
あの攻撃を喰らった直前、構築されつつあった回復魔法をとっさに自分へ向けて使ったのが良かったのかもしれない。
とはいえ、それで何か状況が好転するということもない……。
せめて、魔法が使えればと思うが……。
満足に肉体の制御ができぬ現状では、魔法の発動に必要不可欠な深い集中などできるはずもなく、今のティーナは無様に倒れ伏すただの小娘に過ぎなかった。
「みなさ……ん……申し訳……ありません……」
おそらく、自分と同じかそれ以上の苦しみを味わっているのだろう……。
やはり倒れたまま動けずにいるヒルダやヌイ、そして騎士たちを視界に捉えながら詫びの言葉をつぶやく。
国の象徴であるティーナは守られるべき存在であるが、同時にレクシアで最も魔法の扱いに
傷つき苦しむ配下を救えずして、何が巫女姫であろうか……!
(動いて……! わたしの体……!)
そう己を
いや、そもそも今動けたところでどれほどの意味があろうか……。
治癒の魔法を行使する
「バエバエ……バーエバエバエバエ!」
耳ざわりな哄笑を上げながら、ポラロイダスがゆっくりとこちらに近づいてくる。
今のところ、倒れるヒルダやヌイたちに、何かする様子でないことにはひとまずほっとした。
しかし、それは同時に敵の最優先目標が自分であることを意味しているのだ。
カッカッ……という、金属が石畳を打つ足音が、まるで処刑執行人のそれにも思えてくる……。
そしてその足音が眼前で止まり、機械戦士が不気味な単眼で己を見下ろした。
「バエバエバエ……
今のお前、最高に
その頭部から閃光が放たれ……。
ティーナの眼前に、写真なる奇妙な絵画がするりと落ちてきた。
そこに写されているのは、倒れる自分を見下ろした光景であり……。
今も胸元にしまっている、勇者の青春を切り取ったそれに比べれば、なんとも
「ショウ……様……!」
その勇者を思い出し、自然と目がある場所に向けられる。
そこには、ありし日の勇者を生き写したかのような、見事な大理石の像が
終戦を記念して造られた、ブラックホッパーとドラグローダーの大理石像である。
今、この時だからこそ、自分たち自身の手で平和を守らねばならない……。
そうと分かっていても、願わずにはいられなかった。
――今、この場に勇者が居たならば。
……と。
ティーナの視線を追ったのだろう、ポラロイダスがその単眼をブラックホッパー像へと向けた。
「んんー……?
さっきから気になっていたでありますが、なんとも不気味な像であります。
お前たちの、信仰対象か何かなのでありますかねえ?
形のない者をあがめるのも不可思議でありますが、それをイメージしたのがこんな不気味な像というのも不可解なのであります。
――
そして、何を思ったのか……。
その右手に、またしても破壊の光球を生み出したのである!
「芸術性のカケラも感じないこの像!
自分が
「や……やめ……」
制止しようとするティーナであるが、倒れる者の言葉に耳を貸すような
光球を手にしたポラロイダスは、右脚を高々と掲げた投球姿勢を取った!
「――粒子爆弾! とう!」
ポラロイダスの手から、光球が投げ放たれる。
それは、放物線を描きながら勇者像の眼前に命中し……。
そして、大爆発を巻き起こした!
「あ……ああ……」
何か……。
何か決定的なものが、自分の中で砕けた。
絶望的なうめき声を上げながら、ティーナはその光景を見やる。
たかが大理石製の像が、この爆発に耐えられるはずもなく……。
ブラックホッパー像はその上半身を無残に破壊され、周囲に破片をまき散らしていたのであった。
「バーエバエバエバエ!
いいであります!
その頭部から何度も閃光を放ち……。
ポラロイダスは、砕け散ったホッパー像が映された絵画をスリットから吐き出していく。
「フォト……ジェニーック!」
それは、勇者が生み出した平和を新たな侵略者が踏みにじる、象徴的な光景であった。
「そんな……そんな……」
ティーナの目から、涙がこぼれ落ちる。
最後の最後……心の中でよすがとされていたものが、壊された。
例え体が動く状況であったとしても、今のティーナは何を成すこともできないであろう。
「バエバエバエ……そんなにこの像が大事だったでありますか?
居もしないものが自分を救ってくれると信じる……。
どこの世界でも、有機生命体というのはまったくもって愚かなのであります!」
そう言い放ち、
果たして、耳なきその頭部は捉えていただろうか?
はるか上空から、猛烈な勢いで地上に向けて風を切り裂く飛翔音を!
そして、その単眼は捉えていただろうか?
地上に形作られる、竜に騎乗した人物の影を!
その人物の首元からは、何か長い布のようなものが、風になびきはためいていた……。
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