Bパート 5
機械戦士のみならず、ゼラノトルーパーたちまでも投入する……。
銃器すら開発していない下等文明に対しては、過剰とも言える戦力投入であったが、しかし、現実にはそうでなかった。
自らが達したシンギュラリティの要求に従い、盛んに写真撮影へ興じるポラロイダスが指揮の
これが思いのほか、攻めあぐねていたのである。
そうなっている原因は、現地兵たちの指揮官であろう金髪の女戦士と、なぜか鉄板を武器としている増援の銀髪少女だ。
金髪女の方は、単純に技量が高い。
量産性重視のアクチュエータを採用している悲しさか、機械戦士のそれに比べればなめらかさに劣ると言わざるを得ないが……その戦闘スキルは、十分に高い水準にあった。
それが、この金髪女には通じない。
ゼラノトルーパー標準装備であるインパクトロッドはむなしく空ぶるばかりであり、それによって生じたスキを逃さず斬撃が加えられていくのだ。
有機生命体の近接攻撃など意に介す設計のゼラノトルーパーではないが、魔力なる謎の力によって強化された女の斬撃は技量の高さもあり、強化繊維で作られたスーツを切り裂き、内部機構へ徐々にダメージを
そしてついに交戦していた一体の腰関節に致命的な損傷を与え、これを行動不能にせしめたのである。
下等文明に属する戦士の、あなどれぬ戦闘力であった。
銀髪少女の方は、単純にただただその
「――ふっ!」
なんならば、頭部が巨大なポラロイドカメラであるポラロイダスの方が表情豊かにも思えるほど無機質な表情で、少女が手にした鉄板を縦横無尽に振るう。
それは一撃一撃が必ず複数のゼラノトルーパーを巻き込み、これを
こうなっては、たまらない。
恐るべき怪力による一撃は強化繊維を裂くことこそないが、その下にある内部機構へ確実にダメージを与えていく……。
それが証拠に、吹き飛ばされ立ち上がるゼラノトルーパーたちの動きが、いつも以上にぎくしゃくとしたものになっているのだ。
ポラロイダスに送られてくるデータによれば、アクチュエータの数パーセントが稼働不能となり、残る可動部で動くための最適なアルゴリズムが
そして、偉大なるゼラノイア皇帝から最優先捕獲目標として指名された桃色髪の少女……。
どうやら、現地住民たちにとって高位の存在であるらしい彼女の体からまたも不可思議な粒子が放たれ、せっかくスタンボムで行動不能にした現地兵たちへ降り注いでいく……。
「ぐく……!」
「まだ、終わらんぞ……っ!」
そうすると、負傷も電流によるマヒもなかったかのように、こやつらが再び立ち上がってくるのだ。
「ふぅーむ……。
これは、
まるで、有機生命体が表情筋を動かすかのように……。
自慢のレンズを伸縮させながら、ポラロイダスは腕を組んだ。
「せっかく来てもらったのだし、ゼラノトルーパーたちの
そして、袖まくりをするように上腕の装甲をさすってみせた。
「こうなったら仕方がない。
自分、自らがかたを付けてやるでありますよ!」
そしてその手に、またもや光球を生み出したのである。
その色合いは、先のものと同じスタンボムだ。
有機生命体をあえて殺傷するのではなく、生かした上でもがき苦しませる……。
自らが到達したシンギュラリティにのっとり、
次々と生み出したそれを、立ち上がる現地兵たちへ再び投げつけていく!
投てきと同時に射線情報はゼラノトルーパーたちへ送信されており、
「――ぐっ!?」
「――くそっ!?」
男の兵たちは、先と同じようにこれを受けて倒れ伏していくが……。
「――くっ!」
よほど勘がいいのか、金髪女はまたもやスタンボムの効果範囲外へ逃れてみせた。
しかし、この結果は織り込み済み!
ゼラノイアの機械戦士は、一分一秒の間にアップデートを繰り返していくのだ。
「ならばこちらはどうでありますかな?
――シャッターフラッシュ!」
ポラロイダス自慢の頭部フラッシュ機構が、撮影時のものとは比較にならぬ強烈な閃光を放った!
「――うっ!?」
有機生命体にとって、目を焼かれるというのは時に物理的な攻撃よりもダメージを受ける者だ。
金髪女もその例外ではなく、両目を閉じながら苦しみ悶えることとなった。
こうなれば、もはやポラロイダス自らが手を下す必要すらなく……。
金髪女にあしらわれていたゼラノトルーパーが、その鎧にインパクトロッドを打ち当てる!
「――うあああっ!?」
スタンボムに比べれば出力が劣るとはいえ、ロッドがもたらす衝撃と電流も対生物としては十分以上のものであり……。
これを無防備に受けた金髪女は吹き飛ばされ、石畳の上を転がっていく。
さすがに耐久力までが他の兵を上回るということはなく、そのまま立ち上がってくることはなかった。
「――ヒルダ!?」
「……ヒルダ……さん!」
桃色髪の少女と銀髪少女が、金髪女のものだろう名前を叫ぶ。
「まだまだ、次はお前であります!」
銀髪少女に向け、スタンボムを投てきする。
「く……!? うう……っ!?」
銀髪少女はもはや歪んでいる鉄板を盾に、それを防ごうとしたが……。
「――ああっ!?」
スタンボムの衝撃と電流は鉄板越しにその身を襲い、一発には耐えられたものの、続く二発目と三発目には耐え切れず吹き飛ばされた。
「く……っ!」
残る桃色髪の少女は、またもやあの不可思議な力を使うつもりだろう……両手をかざし精神を集中させる。
当然ながら、それを許すポラロイダスではない。
「残るは、お前だけなのでありまーす!」
桃色髪の少女に向け、完璧な投球フォームからスタンボムが放たれた。
磨き抜かれたアルゴリズムによって放たれるそれは、もはや投てきの域を超えている。
その精密性たるや一キロ先の空き缶にも必中可能なほどであり、これはもはや精密射撃なのだ。
「――きゃああっ!?」
これを喰らった桃色髪の少女が、演説台から吹き飛ばされ石畳の上に倒れ伏す。
「バーエバエバエバエ!
お前たち、ようやく
ポラロイダスはその様子を、素早く自慢のレンズで撮影していく……。
そして、口元のスリットから出来立ての写真を吐き出しながら、こう叫んだのである。
「フォト……ジェニーック!」
現地生物が少々不思議な力を持っていたくらいでは決して埋められぬ、機械戦士の圧倒的な戦闘力であった。
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