Bパート 3

「ゼラノイアとやらが何するものぞ!

 ――総員、我に続け!」


 ゼラノトルーパーなる戦士たちを召喚し、布陣させるポラロイダスに対し……。

 配下への指示を終えた騎士団長ヒルダは、臆することなく剣を抜き突撃した。

 彼女が率いているのは、王国が誇る最精鋭部隊――竜騎士隊の所属者たちだ。

 竜に騎乗せずとも、光の魔力で身体能力を強化した彼らの実力は、一般の正騎士とは隔絶かくぜつしたものがある。

 自らも含め、惜しむことなく最高戦力で立ち向かった形だ。


「お前たちは下がれ! この場は我らが引き受ける!」


「――はっ!」


 ポラロイダスの攻撃によって一度は倒され、ティーナの魔法で立ち上がった騎士たちと素早く入れ替わりながら、ヒルダたちが布陣を果たした。


「お前たち、ゼラノイアの力を低文明の連中に見せつけてやるでありますよ!」


 ポラロイダスの言葉に、ゼラノトルーパーたちはやはり無言のまま、全く同じタイミングで一歩前に踏み出す。

 そして、まるで糸に引っ張られているような……どこかぎくしゃくした動きで手にした短棒を構えた。


 雑兵ぞうひょう端末なる敵の兵たちと竜騎士たちが、無言のまましばしにらみ合う……。

 そして、示し合わせたように両者が突撃を開始した!


「魔人族との戦いを思い出せ!

 我らの力を示すのだ!」


 先陣を切ったヒルダが配下を鼓舞こぶしながら、ゼラノトルーパーの一体へ切りかかる!

 雑兵ぞうひょう端末も緑色に輝く短棒を構えこれを迎え撃ったが、その動きはヒルダからすれば稚拙ちせつであり……。


「――遅い!」


 振り下ろされる短棒をかわしながら、すれ違いざまに横なぎの一閃を加える。

 その一撃は、確かにゼラノトルーパーの脇腹を切り裂いたように見えたが……。


「く……硬い!?」


 これに致命傷を与えることは、かなわなかった。

 いや、そもそもこの敵相手に、致命傷という概念がいねんは存在するのだろうか……?


 見れば、切られた脇腹は確かに被膜が裂け、その下にあるものを傷つけている。

 だが、そこにあったのは肉体ではない……。

 被膜が包んでいたのは、金属で構成された骨格と呼ぶべき代物であり……。

 それに血流めいて沿わされているくだの数本が切断され、断面からばちばちと火花を散らしているのだ。


「生き物では……ない!?」


 かつて戦った鉱石魔人ミネラゴレムなどは、肉の体を持たなかったが確かに一個の生命を感じさせた。

 だが、こやつらからはそれが感じられぬ……。

 まるで、何もかもが作り物であるかのようなのだ。


「く……っ!? なんだこの棒は!?」


 驚いたのは、騎士団長ヒルダだけではない。

 彼女に続き、ゼラノトルーパーと切り結んでいたスタンレーたち竜騎士隊も同じである。

 やはり胴体への斬撃が目立った効果を発揮せず、これを意に介さず振るわれた短棒を切り払うべく愛剣を振るったのだが……。

 短棒と触れ合った瞬間、その刀身が弾かれたのだ!


 明らかに、膂力りょりょくだけで起こった現象ではない。

 どうやら、この短棒には触れた瞬間衝撃を与える能力があると見てよかった。

 しかも、刀身が触れた瞬間、ばちばちと火花が散っていたのである!


「総員、その棒とまともに触れぬよう注意せよ!」


 ヒルダは支持を飛ばしながら、自身も大きく回避動作を取って敵の攻撃をかわす。

 恐怖というものを感じさせぬのは、かつて戦ったキルゴブリンと同じ……。

 しかし、その防御能力と手にした武器の脅威は段違いだ!


「ふぅーむ……これは興味深いであります!

 自分たち機械戦士のそれには劣る強度と言えど、まさかゼラノトルーパーの強化繊維を切り裂くとは……!」


 単眼を何度も伸縮させているのは、驚きの感情を表現しているつもりなのか……。

 ともかく、ポラロイダスがそう言い放つ。


「見た通りの筋肉量と、その剣に使われた素材では絶対になしえぬはずに技……。

 さっきの不可思議な現象と言い、ひじょーに興味深いのであります!」


 そのまま、何度も閃光を放っては写真なる不思議な絵画を吐き出す。

 それらには、ゼラノトルーパー相手に大立ち回りを演じる騎士団長ヒルダの姿が映し出されていた。


「――はあっ!」


 膝裏への足払いならぬ剣払いで雑兵ぞうひょう端末を転倒させたヒルダが、ポラロイダスに視線を向ける。


「貴様、魔法を知らぬとでも言うのか!?」


 無論、普段ならば戦闘中に雑談をするようなヒルダではない。

 あえてそれをおこなったのは、機械侵略体なる未知なる敵の情報を少しでも得ようという指揮官としての判断であった。


「魔法うぅ……?」


「そうだ!

 姫様は癒しの魔法で傷を治し、我らもまた、光の魔力で身体能力を強化している!

 言われてみれば、貴様らからもその攻撃からも魔力を感じぬ……!

 貴様ら、どうやら魔法は使えぬようだな!」


 何もかもが未知の敵だが、相手にとってもこちらに未知の部分がある。

 その事実は、ヒルダをわずかに力づけた。


「我らゼラノイアの科学力でも分析できぬ、不思議な力……。

 魔法であると言われれば、そうかとうなずく他にないのであります……。

 ――素晴らしい!」


 だが、挑発じみたヒルダの言葉は機械戦士をさらなる暴虐ぼうぎゃくへ駆り立てた。

 ポラロイダスは先の光球を今度は両手に生み出すと、それを高々と掲げたのである。

 いや、今度の光球は色合いが少し異なるか……?


「今、新たな指令を受信したのであります!

 お前たちの魔法、我らゼラノイアが研究し取り込む価値あり!

 どうやら、この世界の人間全てが使えるわけではないようでありますが、ともかく見込みのある者は生け捕りにするであります!」


 そしてそれを、乱戦中の騎士たちやゼラノトルーパーに向け次々と放り投げたのだ!

 一見すれば、味方ごと敵を攻撃しているようにも見える。

 しかし、ゼラノトルーパーたちはまるで背中に目が付いているかのような見事な挙動でこれを回避し、騎士たちばかりが爆発へ巻き込まれることとなった!


「――ぐあっ!?」


「――うおっ!?」


 今度の爆発がもたらしたものは、破壊ではない……。

 これに巻き込まれたスタンレーたちは、マヒ毒でも飲んだかのように全身を痙攣けいれんさせ、倒れ伏していた。


「くっ……おのれ!」


 ただ一人、素早く跳びすさることで難を逃れたヒルダが、ポラロイダスをキッとにらみつける。


「お前たち! 行くであります!

 あの桃色髪の娘を、最優先で捕らえよとの指令でありますよ!」


 ポラロイダスの命に応じ……。

 ゼラノトルーパーたちが糸で操られているかのような、しかし、素早い動きで駆け出す!

 向かう先は――演説台で戦況を見守る巫女姫ティーナ!


「――姫様!?」


 そのうち二体はヒルダが決死で足止めしているが、残りを止めることはあたわぬ!

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