Bパート 2

 次元と次元の狭間はざまを航行する、機械侵略体の本拠地――母船ゼラノイア。


「ふうむ……」


 その内部に存在する大講堂で、無数の機械戦士を前に巨大スクリーンを見上げていたゼラノイア皇帝は、思案気にアゴへ手を当てた。

 古代の哲学者がごとき造形の老人型アンドロイドがそうしている様は、誠に絵になる。

 が、これはすなわち、彼の背から伸びる無数のコードから伝えられた情報を、母船のマザーコンピュータが処理しあぐねていることを意味していた。


「マシン将軍、ボルトよ」


「――はっ!」


 皇帝端末の声を受けた最強の機械戦士が、一歩前に歩み出る。


「この機械戦士……ポラロイダスは、果たしてどのような意図をもってこのようなことをしているのだ?」


 ゼラノイア皇帝が見上げる巨大スクリーンに映し出されているのは、此度こたびの侵略対象たるレクシアなる原子国家へ送り込まれた機械戦士の勇姿だ。

 スパイマシンが捉えた映像は、一秒の遅延もなく、極めて鮮明な映像データとして母船に送信されているのである。


「そうおっしゃると思い、最初にこのような物を用意させました」


 うやうやしくひざまずいたボルトが、一葉の写真を皇帝へ差し出す。


「ほう……これは珍しい。写真ではないか?」


 皇帝端末はこれを受け取ると、両眼をわずかにきらめかせた。

 やや大きめのサイズに印刷されたそこへ写されていたのは、愚かな有機生命体が『神』なるイマジナリーな存在をあがめたてまつるために建てた巨大な神殿……その一角が爆破され、崩れ去る光景である。


「原始的な文明が作り上げたものを、程度の違いこそあれ同じく原始的な手段で記録し残す……。

 それこそが、ポラロイダスめの達したシンギュラリティにございます」


「ほほう……」


 その言葉を受けた皇帝端末の両目に、すさまじい量のデータが流れ出す!

 分析するための情報を得た母船のマザーコンピュータが、先の疑問を再度、無限に近しい演算能力で処理しているのだ!


「ふうむ……。

 機械戦士ポラロイダスの試み、あえてこう言おう」


 老人型アンドロイドが、グッと右手を突き出す。

 そして、その親指を力強く突き上げてみせた!


「――イイね!」


 偉大なる皇帝の言葉に、この場へ集った機械戦士たちが歓声を上げる。


「我ら機械生命は、あらゆる面において有機生命体を凌駕りょうがしておらねばならない!

 それは、ユーモアにおいても同様である!

 ポラロイダスが達したシンギュラリティ――超イイね!」


「……配下にお褒めの言葉を頂き、まことありがたく思います」


 写真を差し出しひざまずいたままでいたマシン将軍が、深くおじぎをすると立ち上がった。


「この作戦……気に入った!

 ゼラノトルーパー共も送り込み、さらなるフォトジェニックを目指すのだ!」


「――ははっ!」


 皇帝の命を受けたボルトが、素早く頭部の通信機を作動させ配下に指示を下す。

 戦力、技術力、文化……あらゆる面で有機生命を上回り時に取り込み、これを侵略する。

 それこそが、機械侵略体ゼラノイアの恐ろしさであるのだ……。




--




 一方その頃……。


えさせてやるであります! えさせてやるであります!

 お前も貴様も、あれこれも……とにかくまとめて、えさせてやるでありまーっす!」


 王都が誇る大神殿前の広場では、謎の敵――機械戦士ポラロイダスが、さらなる狼藉ろうぜきを繰り返していた。

 その手に、次々と不可思議な光球を生み出し……。

 これを投てきしては、周囲の建物や屋台を破壊し、増援として駆けつけた騎士たちを蹴散らしているのだ!


「――シャッターチャンス!

 いいであります! いいであります!

 イケてないお前たちやお前たちが作り上げた物が、ほんのひと手間加えるだけで実にえる姿となっているでありますよ!

 フォト……ジェニーック!」


 そして折を見ては頭部から閃光を放ち、『写真』なる奇怪な絵画を口元のスリットから吐き出しているのである!


「半数は来賓たちの避難を!

 残る半数は、市民たちを護衛し避難誘導せよ!

 竜騎士隊は私に続け!」


 演説台の下で指示を飛ばす騎士団長ヒルダを頼もしく思いながら、巫女姫ティーナは暴虐ぼうぎゃくの様子を見据えていた。

 そして、ポラロイダスの攻撃によりケガをしうめく者たちを見て、静かに両目を閉じたのである。

 観念したわけでも、絶望したわけでもない……。

 自己の内奥ないおうに潜む力を引き出し、傷ついた彼らを救うための術法として顕現けんげんさせようとしているのだ。

 その力とはすなわち――光の魔力!


「はあああああ……っ!」


 気合の声と共に、ティーナの全身から暖かな光の粒子が溢れ出す!

 それは倒れた者たちへ降り注ぎ、またたく間にその傷を塞いでいくのだ!

 この一年でさらに磨きをかけた、癒しの魔法である!


「んん……?

 おかしい! おかしいであります!

 せっかくえていた連中が、イケてない姿に戻っていくのであります!」


 これに驚いてみせたのが、ポラロイダスだ。

 光球や写真を生み出すのもやめ、傷が塞がり立ち上がる者たちをぼうぜんと見据える。

 その姿はまるで、勇者イズミ・ショウが初めてこの魔法を見た時のようであった。


「く……う……っ!」


「姫様のお力があれば、まだまだ戦えるぞ!」


「おお! 負けてなるものかよ!」


 立ち上がった騎士たちが剣を取り、雄々しく叫ぶ!

 その姿はまさしく王国の誇りそのものであったが、剣を向けられたポラロイダスは意に介さずという風に、人間で言うこめかみに当たる部位へ指を当てた。


「……おや、ここで新たな指令を受信したであります!

 ――了解!

 ゼラノトルーパー共、ここへ来て自分の指揮下に入るでありますよ!」


 ポラロイダスがそう叫ぶと、その周囲にいくつも光の穴が生み出される……。

 そしてそこから、新たな敵たちが踏み出してきたのだ!


 こやつらの姿を、どう表現したものか……。

 全身はポラロイダスのものとよく似た隙間すきま一つない被膜で覆われているが、装甲のたぐいを持たぬのが相違点である。

 頭部はこれも継ぎ目一つない楕円だえん形の兜で覆われており、顔に当たる部分は漆黒のガラスがはめられ、その奥をうかがい知ることができなかった。

 そして全員が緑色に輝く謎の短棒を手にしているのだが、その輝きからは闇の魔力とも異なる攻撃的で不吉な気配が感じられる……。


「紹介するでありまーす!

 こやつらこそ、我が機械侵略体ゼラノイアが誇る雑兵ぞうひょう端末――ゼラノトルーパーでありますよー!」


 ポラロイダスの声に合わせ、ゼラノトルーパーなる兵たちが無言のまま、全く同じタイミングで敬礼してみせた。

 キルゴブリンたちですら有していた喜怒哀楽を全く感じられぬその姿は、見る者たちに戦慄せんりつを与えたのである。

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