Aパート 3
互いの近況を報告するために……。
あるいは、単に親睦を深めるために……。
彼女らとは、これまで何度となく会食してきた。
しかし、今夜の食事は、これまでのなごやかなものとは打って変わった緊張感漂うものである。
余人を排した一室に集ってもらったのは、ティーナ、ヒルダさん、レッカ、ヌイという見慣れた面子だ。
同時にこれは、レイと名乗るあの男が……魔人王がホッパーへ変身した場面を目撃した面子でもある。
長い話になることを予期してのことだろう……。
円卓には地球で言うところのオードブルに相当する料理が並べられており、普段ならば給仕に徹するヌイも今ばかりは着席し、おれが口を開くのを待っていた。
「みんな、集まってもらってすまない……」
まずは、忙しい中こうして時間を割いてくれたことに礼を述べる。
「ようやく考えがまとまったんかのう! 魔人王がなぜ主殿と同じ姿に変身できたのか、はよう教えてくれぬか!?」
気づかいも何もないことを言うレッカに、隣席のティーナが軽く肘打ちした。
「ふ……」
そのあけすけさにかえって心が軽くなり、おれは口を開いたのである。
「まずは、そうだな……。
レッカには出会った時に軽く話したが、おれがなぜ、この力を……ブラックホッパーへの変身能力を手に入れたかについて語ろう。
そもそもおれは、勇者などとは程遠いごく平凡な男だった……」
それから皆に話したのは、おれがある日突然に拉致され、改造手術を施されてからの……戦いの記憶だ。
今さら年寄り扱いをされるのはご免なので年代についてはボカした物言いをしているが、秘密結社コブラを打倒するに至るまでのざっくりとした説明である。
「……そのようなわけで、おれは元々いた世界に覇を唱えようとしていたコブラを壊滅することに成功したわけだ」
「ショウ様はご
話を聞き終えたティーナが、真っ先に口を開く。
「元々は力を持っていなかったとしても、その行いは勇者そのものです。
そもそも、召喚する前の交信でお伝えした通り、勇者召喚の儀は異界に暮らす勇者
胸をお張りください。あなた様は、まぎれもなく誠の勇者です」
身を乗り出しながら告げる言葉には、魔人王の出現により自身のアイデンティティへ揺らぐおれを元気づける意味合いがあるのだろう。
その気づかいに
「ありがとう。
そしてここからが本題なのだが……。
おれは改造手術を受けた際に、ある物質を体内へ埋め込まれている。
そして、これこそが勇者としての――ブラックホッパーとしての力の根源なのだ」
それからおれが語ったのは、体内に埋め込まれた
これを埋め込んだコブラの科学者たちにさえ、全貌を明らかにできぬ未知の物質であること……。
そしてこの石が持つ、不可思議な力の数々を……。
「体内に石があるとは……前に聞いた時も思ったがこう、何かの結石みたいじゃのう!」
レッカのあんまりな発言に、室内が重苦しい静寂で包まれる。
ヒルダさんがごほんと咳ばらいをすることでどうにか雰囲気を戻そうとするが、そこでこくりと首をかしげたのがヌイだ。
「結石って……何?」
「ああ……いや、とりあえず今は知らずとも良いことだ。
――話を戻そう。
秘密結社コブラは、この石に秘められた力をある程度まで再現することに成功していた。
そうして生み出されたのが、さっきの話に出てきた改造人間たちであり……。
先日、みんなが倒したテラースパイダーもその一人だ」
これを聞いて、ティーナたちの顔色が変わった。
「どうりで……魔人ぽくないと思った……」
誰よりも先にそう言ったのは、ヌイである。
なぜか消えなかった怪力さえ除けば、もはや普通の少女と変わらぬ彼女であるが、元々は魔人族だ。
特質も姿も様々な魔人族であるから確信には至らなかったのであろうが、テラースパイダーを見て同族とは異なる何かを察知していたに違いあるまい。
「勇者殿、それは誠なのですか?
だとすれば、その……勇者殿の世界で暗躍していた怪物がこの世界に出現した、ということになるのですが?」
「間違いありません」
ヒルダさんの言葉に、おれは力強くうなずく。
「何しろ、奴はおれが最初に戦い葬った改造人間なのです。
人語を話さなかったという点だけは異なりますが……。
姿はまぎれもなく同じでしたし、話を聞く限り能力もほぼ同一だったと見てよいでしょう。
そして魔人王が変身した……ホワイトホッパー」
「ショウ様は、あのテラースパイダーなる改造……人間も、魔人王が生み出したと考えておられるのですね?」
おれの考えを先回りし、ティーナがそう告げる。
首の筋肉は抵抗を示したが、おれはそれにうなずき返すしかなかった。
「状況から考えて、まず間違いない。
最新鋭の改造人間だったおれを……ホッパーを再現できたのだ。
改造人間としては初期型であるテラースパイダーを生み出すことも、可能であるのが道理だ」
そこまで言い終えて、みんなの顔を見回す。
全員が――レッカでさえも、緊張で体をこわばらせ、それぞれの前に供されている飲み物へ口をつけることすらしない。
恐れているのだ。
おれがこの結論へたどり着くことを怖がり、思索と称した釣りへしばし逃避したように……。
だが、数日そうしていても他の答えはついぞ見つからなかったのである。
「なぜ、奴にそんなことができるのか……?
おれの出した結論は、これだ」
どうにも口の中が乾いて仕方がなく、おれは目の前にある果汁水をぐいと飲み干した。
そして
「おれの体内に存在する
だから、本来聖竜と魔人王にしか備わらぬという存在変換の力を扱えた。
そればかりか、魔人王はおそらくこの石を通しておれの動向を……元居た世界の頃から把握してきた。
誰にも話していないおれの思い出を口にできたのは、それが理由だ。
ホッパーの姿と力、技を手にできたのも……テラースパイダーを生み出せるのも、道理。
全ての改造人間は、奴の力を
魔人王と改造人間……。
二つを結び付け得る唯一の答えに、やはり、静寂が場を支配したのであった。
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