Bパート 10
「ぬ……うう……っ!」
地に突き立てた魔剣を支えに、
真空・竜巻落としとホッパーキック……。
二つの必殺技による連携攻撃はしかし――ザギの命までは届かなかった。
届かなかったが……、
「――ぐはっ!?」
口部のクラッシャーから吐き出されたおびただしい量の血を見れば、深手であることは火を見るよりも明らかだ。
おそらく、
対するホッパーはと言えば……、
「ぐ……う……」
神速での対決は制したものの、こちらも
笑った膝でどうにか立ち、横腹からの出血を手で押さえたその様は、常の雄々しい立ち姿とはかけ離れたものである。
体に馴染まぬアクセルの力……。
その負担を無視して神速の世界へ再度突入し、のみならず大技を連発したのだ。
もはや、変身を維持できているのが不思議なくらいである。
両者共に、立っているのがやっとの状態……。
ならば、この勝負は痛み分けか……?
――否!
……断じて否である。
――次に戦う時が決着の時。
それは、両者が暗黙の内に取り交わした神聖な誓いであった。
「ふううううう……っ」
呼吸すら苦しかろう状態で、しかし、剣魔がまたも
「…………………………」
対するホッパーも無言のまま、両腕をだらりと垂らしわずかに腰を落とした。
勇者と大将軍……二人を動かすのは、もはや気力のみ!
次の一合こそが、雌雄を決するものとなるであろう。
「――おおっ!」
大将軍ザギが、吠える!
同時に剣を中段へ構え、勇者に向かって突撃を開始した。
全身を巡る血流めいた
「――とおっ!」
一方、勇者が……ブラックホッパーがこの局面で選択する技と言えば、これはただ一つ!
宙空に跳んだ勇者の体が……。
バレリーナめいた華麗な空中回転を見せる……。
この動きこそは、バッタの跳躍力を余すことなく拳に伝えるための極意!
「ホッパアアアアア――――――――――パアアァンチッ!」
――必殺の刺突が!
――必殺の跳躍拳が!
宿敵に向かって放たれる!
もはや二人は、神速の世界にいない……。
しかし、卓越した武人同士が命を削って放つ技の交差は、余人の目で捉えることなど到底不可能であった……。
勝ったのは、勇者か……?
大将軍か……?
はたまた……相打ちか!?
「ごほ……っ!?」
その答えは、ザギの口部から吐き出された先に倍する量の吐血によって示された!
見れば、勇者の拳は剣魔の真芯に突き刺さっており……。
大将軍の魔剣は、勇者の左脇をすり抜けていた……。
ブラックホッパーの勝利だ。
「ぐ……っ!? は……っ!?」
ザギが、一歩、二歩と後ずさる。
脇に捉えた魔剣がすり抜けるのを、しかし、勇者は止めようとしなかった。
敬愛する主君から授かった魔剣は保持したまま……。
そして剣魔は――漆黒の鎧をまとう青年の姿へ戻った。
「わずかに……貴様の技が勝ったか……!」
口元に血をにじませたまま……。
敗者とは思えぬ、実にさわやかな笑みをザギが浮かべる。
その姿は誠に堂々としており、敗れてなお、大将軍の地位に恥じぬ風格であった。
その目が、右手に握られた魔剣へ落とされる。
「ホッパー……。
本来ならば、敗者である私の武具は勝者である貴様が好きにすべきもの……。
しかし、この剣は……!
この剣だけは……!」
そして、最後の力を振り絞ったのだろう……。
上空を仰ぎ、魔剣を天にかざしたのだ!
「魔界へ――我が主の下へ返させてもらうぞ!」
一瞬……。
まばたきする間にも満たないごく一瞬のみ、ザギの姿が
そしてその右手から、
右手にはもう、剣魔を剣魔たらしめる品が握られていなかった。
「見事だ……大将軍ザギ。
おれは貴様を、生涯忘れないだろう」
変身を解除したホッパー――イズミ・ショウが、最期に貫いた忠義へ賞賛の言葉を贈る。
「見事、か……その言葉、貴様にこそふさわしかろう……」
――さらり。
――さらり。
……と。
四肢の端からその身を
爆発は、ない。
魔力のみならず、全生命を絞り尽くした男の……これが最期であった。
「なあ、勇者よ……。
――いや」
最期に何かを口にしようとしたザギであるが、それは言葉にせずかぶりを振る。
しかし、そんな宿敵にショウは力強くうなずいたのであった。
「――ああ、任せておけ!」
「ふ……」
言葉にせずとも、託せた思い……。
これで
「見事なり! 勇者ブラックホッパー!」
まるで、戦場全体に響き渡るかのような……。
それを戦場へ吹いた風が連れ去り……。
誇り高き戦士の魂は、青空へと溶け去って行った。
「大将軍ザギ……。
お前は最大の敵で、そして友だった」
見送りながら、勇者がもう届かぬ言葉をつむぐ。
そして、ぐらりとその体が揺れ……。
気を失ったショウは、その場に倒れこんだのである。
『主殿!?』
ドラグローダーが、慌ててそこに駆け寄った。
--
その頃……。
王宮で立ち働くヌイの髪を、ふいに吹いた風が撫でた。
「あ……」
呆けたように、その場へ立ち尽くす。
しばらくそうしていたが、やがて少女は窓の方へと歩み寄った。
ガラスも何もない、ただ石壁に開けられた四角い穴と呼ぶべきそれが向いているのは、今まさに勇者たちが……
「兄様……」
少女はしばし、労働を忘れ……。
静かな祈りを捧げた。
--
もはや、王国軍の勝利は揺るぎなくなった戦場の
黒毛の馬が一頭、天を仰いでいた。
「――――――――――ッ!」
馬が、天に向けていななく。
それはきっと、短い時を過ごした主に対する別れの言葉であったのだろう……。
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