Cパート
つわものどもが、夢の跡……。
とは、よく言ったもんだ……。
俺は懐かしい重みの魔剣を携えながら、タチアナ街道へと降り立っていた。
すでに陽は落ち……。
勝利した王国軍は撤収し、もう少し離れた場所に昨日用意した簡易な野営所で戦勝の宴を開いている。
もっとも、最大の功労者である兄弟――イズミ・ショウはこんこんと眠り続けているけどな。
俺がウルファちゃん――いや、今はヌイちゃんか。
あの娘に与えた力は、あくまで彼女のために最適化したものだ。
いかに最強の改造人間ブラックホッパーと言えど、それを無理矢理に引き出せば相応の反動が待っている。
おそらく、兄弟は今、栄養失調と過労と熱中症を全部混ぜ込んだような苦痛に苦しんでいるはずだ。
まあ、数日は眠りっぱなしだろうな。
「お前たち、立派な戦いぶりだったぜ……」
魔人の戦死とはすなわち、完全なる消滅だ。
ザギ亡き後……。
こいつらは統率こそ乱れ、圧倒的劣勢に立たされこそしたものの……ただの一兵たりとも、戦場から逃げ出そうとする者はいなかった。
「それもこれも、お前の教育が良かったからだろうなあ……」
魔剣をかざし、その刀身を通じて今は亡き忠臣へと語りかける。
もっとも、あいつの認識とは違って届け先たる俺は地上へ降り立っていたわけだけどな。
「約束するぜ……。
――お前たちの忠義、決して無駄にはしない」
そのまましばし、瞑目する。
こいつは、俺なりの
この戦いで……これまでの戦いで散っていったかわいい魔人たち……。
あいつらの望みを、あいつらが望んだ以上の形で必ず実現してみせるという、鉄の誓いである。
「さて……と……」
「これまで、長かったなあ……」
生身の感触は、久しぶりだ。
全身の感覚を確かめるように、ぐるりと腕を回し、こきりと首を鳴らす。
ただそれだけの動作だが……。
愛すべき臣下たちの
「そんで、ここからが大詰めだ」
空に浮かぶお月様へ向け、この
――月。
……太陽と並んで、俺が欲しかったもの。
俺たちが、欲するもの。
……手に入れようじゃねえか!
「楽しみにしとけよ、兄弟……。
今から先は、この俺が遊び相手だ」
俺は……。
魔人王レイは、月を通じて親愛なる勇者にそう語りかけたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます