Bパート 2

「くるぞローダー! ふんどしを締め直せ!」


『あいにくと、誰かさんのおかげで変身を解けば裸じゃがのう!』


「そういえば、そうだった――なっ!」


 軽口を叩きながらも、背に乗せた主の操縦手腕は見事のひと言である。

 バイクモードならばともかく、ドラゴンモードでは自力行動可能なドラグローダーが自身に関する制御の全てを委ねているのは、主たるホッパーが彼女以上に彼女を上手く操れるからなのだ。


 その証拠に、大灯台の頂上から白煙と共に飛来したを、ローダーはすんでのところで回避することがかなったのである。


『さっきから、何なのじゃアレは!?』


 飛来したの速度たるや猛烈を通り越しており、とてもではないが肉眼で捉え切れるものではない。

 だが、変身したことで極限まで動体視力を強化されたローダーは、一瞬だけの姿を認めることができた。


 ――まるで、亀の甲殻をガラスペンのペン先へ加工したかのような。


 ……そう表現するしかない、奇怪な物体である。

 それが尾部から猛烈な勢いで何か――おそらくは闇の魔力――を噴射し、地上に生くるいかなる鳥類をも超えた速さで飛来しているのだ。


「あれは――ロケット弾だ!」


『ロケット弾じゃと!? 何じゃそれは!?』


「遠くから敵に撃ち込んで、爆発を引き起こす武器だ――よ!」


 またもやロケット弾なる武器が飛来し、ホッパーの操縦によりこれを回避する。

 ローダーにすら捉え切れぬ攻撃であり、おそらくホッパーも動体視力でこれの軌道を見抜いているわけではあるまい。

 長きに渡る実戦経験で培った第六感じみた直感の働きに身を委ね、先手を打ち回避機動を取っているのである。

 しかし、これでは……!


『おのれ……! 次から次へと! これでは踏み込めぬ!』


 三発……四発とロケット弾を回避したローダーがそう毒づく。

 この攻撃の脅威は、ホッパーの拳とも同等であることを示したその威力のみではない。

 むしろ、絶え間なき連射性こそが最大の脅威であった。

 何しろ、そう毒づいている間にもさらに一発が迫りこれを回避しているのだ。

 避けるだけで精一杯であり、とてもではないが接近するための直線的機動など取れぬ。


『魔人族め……姿はまだ見えぬが、ワシらを見てほくそ笑んでいるかと思うとはらわたが煮えくり返るわ!』


「我慢しろ! 少しでも欲を張れば、おれたちはブラックホークにされてしまうぞ!」


『ブラックホーク!? 何じゃそのカッコイイ響きは!?』


「後で教えてやる――よ!」


 また一発のロケット弾を回避するが、敵に近づくための一手が見い出せない。


 ――らちが明かない!


 主従揃ってそのような思惟しいを巡らせた、その時である。


「――勇者殿! 私も戦う!」


 竜翔機りゅうしょうきの圧倒的な飛行速度に置いて行かれていたヒルダの駆る飛竜が、遅ればせながらも空域に馳せ参じたのだ。

 だが……、


「ヒルダさん!? 迂闊うかつだ!」


 ホッパーが放ったのは、叱責しっせきの言葉であった。

 それも当然のことであろう……。

 ローダーの機動力、そしてホッパーの卓越した手腕と攻撃予測能力。

 両者が合わさることで、かろうじてこの攻撃を回避し続けることができるのだ。

 いかにヒルダの駆る騎竜が優れていようと、到底対処できるものではない。


「今こそ! 我が勇気を示す時!」


 しかし、ヒルダはそれを聞かず騎竜を突進させる。

 見れば、彼女の手には常の騎乗槍ではなく、石の斧と呼ぶしかない武器が握られていた。


「――くっ!? ルミナス!」


 このような時、ホッパーの判断は早い。

 彼は新たに得た青いフォームへ変身すると、その手に生まれ変わった聖杖せいじょう――ルミナスロッドを出現させたのである。


 ――ガキン! ガキン!


 ルミナスホッパーが、ロッドに備え付けられたレバーを素早く二回動作させた。

 すると、ルミナスロッドに張り巡らされた魔法文字ルーンがまばゆく輝き、彼の内に秘められた魔法力が開放される。

 レバー動作二回で発動されるこの術は――、


「ルミナス――――――――――ガーディアン・クラスタ!」


 ロッドの魔法文字ルーンから、光り輝く無数のバッタが生み出されていく……。

 そして、それは怒涛の勢いで空中に展開していき、ヒルダと彼女の騎竜を守るように障壁を形作ったのである!

 ブロゴーンの呪術すら防ぎ抜いた光の飛蝗クラスタが完成するのと、新たなロケット弾が飛来したのとはほぼ同時のことであった。


 ただし、今回のロケット弾はドラグローダー目がけて放たれたものではない……。

 此度こたびの一撃は、無謀な突撃を敢行したヒルダ目がけて襲いかかったのだ。


 城門に破壊槌を叩きつけた時の音を何十倍にも増幅すれば、このような音もしようか……。

 それだけで生物を殺せるのではないかという轟音が、王都ラグネアの空に鳴り響いた!

 ヒルダを守るべく発現させられたガーディアン・クラスタとロケット弾が、ぶつかり合った結果である。


 だが、この対決に決着はまだ付いていない。

 ロケット弾は尾部からすさまじい勢いで闇の魔力を噴射し、ぐいぐいと……杭を打ち込むように光虫が群れ成して形作る障壁に食い込んでいっているのだ!


「く……っ!?」


 手綱を操るヒルダであるが、目の前でそんなぶつかり合いが巻き起こっていては、彼女のまたがる騎竜とていかんともしがたい。

 自然、その場で滞空する形となった。


「――危ないっ!」


 彼女の駆る騎竜とロケット弾を防ぎ続ける障壁……。

 その間へ割り込んだのは他でもない――ルミナスホッパーと、彼の操るドラグローダーである。

 まるでガラスの砕け散るような音と共に、障壁が打ち破られたのはそれと同時のことであった。


「――ぐうあっ!?」


 自身の誇る防御術を打ち破られ……。

 ホッパーが選んだのは、自らの体でロケット弾を受け止めることであった。

 咄嗟とっさの割り込みであり、いかなホッパーといえどロッドや腕で防御するいとまもない。

 必然として、彼は胸部へ直撃を受けることとなったのである。


 爆発音が鳴り響き……ロケット弾が炸裂する!

 しばらくすると、生み出された白煙の中からホッパーがその姿を現した。


「ぐ……っ!? は……っ!?」


 そもそもが、ブラックの時と比べて全身の甲殻を減少させ防御力に劣るルミナスホッパーだ。

 その負傷は、深刻なものであった。

 胸部を覆う青い甲殻は無残にひび割れ、そこから鮮血がほとばしっている……。

 通常の人間で言えば口に当たるクラッシャーからも、盛大な吐血が漏れていた。


「勇者殿!?」


『主殿!?』


 ようやく我に返ったヒルダとローダーとが、その姿を見て悲鳴を上げる。


「魔法や呪いには絶大な強さを誇るルミナスだが、実体を持つ攻撃には効果が弱いな……一旦、引くぞ!」


 それでもホッパーは操縦桿を操り、ローダーの機首を巡らせた。

 そしてためらいなくロッドを放り投げると、すれ違いざまにヒルダの腕を握り自身の元へ強引にたぐり寄せたのである。


「――何をっ!?」


 ヒルダが抗議するが、それには構わず全速力でその場から撤退していく。

 彼女の騎竜は見捨てることになるが、それよりも彼女自身の身を案じた行動であった。


 背後から二、三発のロケット弾が追撃として放たれたが……。

 どうにかその全てを回避せしめたのは、負傷してなお健在な勘働きによるものであっただろう。


 そしてどうにか、勇者たちはその場を逃れることに成功したのである。

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