Aパート 5
まるで天災に見舞われたかのような……。
はたまた、疫病でも発生したかのような……。
人界の混乱など我関せずとばかりに空を飛び回るのは、ハトやカラスといった人類と共生関係を築く鳥類たちである。
確かに、人間のおこぼれは重要な食料源ではあるが、元来は野生動物である彼らだ。
もしもこの地上から人類が消え去ったとして、生きる術はある。
故に、直感として人間たちがただならぬ状況にあることは察知していたが、素知らぬ顔で生命を謳歌していたのであった。
――一部のカラスたちを除いて、であるが。
そのカラスたちは、人間たちの様子を注意深く観察していた。
元より知力と観察力に優れた種族ではあるものの、彼らの熱意と執念深さたるや尋常なものではない。
また、自らの意思を感じさせぬかのような振る舞いや近づいただけで悪寒が走るような禍々しさから、同族たちもこれを
正常なカラスたちがそういった個体を避けたのは、野生の勘がもたらす
何故ならば、その個体たちはもはやカラスであってカラスではない。
世界を越えて巧妙に伸ばされた
「まっこと……まっこと愉快ですな……」
使い魔共が見ている光景を幾重もの虚像として玉座の間に映し出しながら、これを使役するルスカは声帯など存在せぬ白骨そのものの体を震わせながらそう言った。
「うむ……ルスカよ。貴公の配下は見事な働きであったぞ!」
玉座のかたわらに立つ、漆黒の鎧を身にまとった男――大将軍ザギが、これも満足そうにうなずきながら腰の魔剣を抜き放つ。
すると……おお……! その刀身に揺らめく邪気の何と強大なことであろうか?
かつては
「――むううううん」
ザギがこれを正眼に構え、本来敬愛する主が座するべきである空の玉座に向ける。
次の瞬間、剣がまとっていた邪気は吸いこまれるように玉座へ放出され、そのまま雲散霧消し果てた。
いや、消えたというのは正しい表現ではない。
生物が食物を消化し血肉へと変じるように……。
空の玉座へ確かに座す何者かは、これを取り込み無形の存在感を見せたのである。
再び軍勢を送り込むのに十分な量の
ルスカと獣烈将ラトラもこれに続きひざまずくと、千年前の栄華が戻ってきたかのようであった。
「また一歩、陛下の復活に近づいたな。
――ルスカ、今度ばかりは脱帽だぜ!」
十分な間を置き立ち上がった三者の内、まず口を開いたのがラトラだ。
一つ一つが恐るべき切れ味の刃によって構成された
獅子のごとき顔では表情を作ることもかなわぬが、一切の含みを持たぬ
「フッフ……褒めてくれるのは嬉しいが、先日お主が言っていた言葉を返すとするかの。
あくまでも、この手柄はこれを成し遂げたブロゴーンめのものよ……」
「そういや、そんなこと言ったっけな?
――ガッハッハ!」
――先日。
あくまでも配下たる
自らの栄達ではなく、活躍した者たちへの論功こそを重んじる……。
二将の姿に謙虚さよりも頼もしさを感じたザギは、
「では、その功労者はどうしているのだ……?
ここへ帰還した後、
「ブロゴーンですか?
それがどうやら、体力と魔力が回復しきっていないようでして……」
「ふむ……巫女の防護を打ち破り、勇者を物言わぬ像に変えるというのはそこまでの難行であった、ということか……」
あごをさすりながら、ルスカの言葉にうなずく。
とはいえ、油断できる相手でないのは間違いがないし、まして魔人の頂点に立つ三将軍からしても得体の知れない当代勇者を打ち破ったのだ。
その消耗たるや、並大抵のものではないのだろうと結論付けた。
「まっこと、ブロゴーンほどの術巧者をあそこまで
ですが、本人の意気は上々。
回復し次第、引き続き地上侵攻の任に当たらせることを進言いたします」
「ザギ様、オレからもお願いしまさぁ」
「……ほう? ルスカがそうするのはともかく。
ラトラよ、お主までこれを進言するか?」
獣烈将と幽鬼将……固い友情で結ばれた二人であるが、それでもライバルであることに変わりはない。
ならば、ブロゴーンが動けぬ今こそ配下の動員を望むのが本当であるし、出番を待ち戦意に燃える魔人戦士を従える者として見せねばならぬ姿であった。
それが故にこう聞いたのだが、ラトラはバリバリと音を立てながら自慢の
言葉を探すのに苦労してるのは
「その……なんてーか……。
オレはミネラゴレムの奴に恋人がいたなんて、知らなかったもんで……」
ザギが、唇を微笑に歪める。
例え死しても、配下は配下だ。
ラトラは将たる身として、最大限にこれへ
「フ……ならば
――ブロゴーンには回復し次第、再度の地上侵攻を命じるものとする!」
大将軍の言葉に残る二将がうなずき、軍議は終了となった。
「それにしても、だ……。
まさか、我ら魔人が人間共がうたうように愛の力で事を成すとはな……」
思いついたまま口をついて出た言葉に、ルスカが深くうなずく。
「げに恐るべきは、女の情念ということですな……。
こればかりは、いかなる魔導の技を持ってしても超えることあたいませぬ」
ラトラが、考え込むように腕を組む。
玉座の間を包む沈黙は、女という存在への
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