第7話 覚えのない記憶。

 蘇ったのはないはずの記憶だった。

 身体を飛ばされた衝撃。

 叩きつけられたアスファルトの堅さ。

 流れ出る血の感覚。

 痛みより感じたのは熱さだ。


「あああ……」

 身体が震える。

 全てを理解した。

「ケイタ?!」

 ユウキがボクの肩を掴む。

「どうした?」

 ボクの身体を揺すった。

「……思い出したか?」

 とても静かな声が尋ねる。

 ボクはポメを見た。

「死んだのは、姉ちゃんじゃない。ボクだ」

 呟いたボクに、ユウキの顔色が変る。

「どういうことだ?」

 ひどく取り乱していた。

「世界と繋がっていたのは、ケイタじゃない。彼女だ」

 ポメは説明する。

「彼女は自分の力に気づいていなかった。世界を変えるほどの力を持っていることに。そして、それは無意識に発動した。彼女の愛する弟の死によって。彼女は弟の死をなかったことにして、世界を作り替えた。自分の力を全て、弟に引き継いで。……この世界は彼女が作り替えた新しい世界だ。それまでの世界とは似ていて、異なる。わかりやすく言うなら、パラレルワールドみたいなものだ」

 ボクはそれなりに状況を理解した。

 だが、ユウキは混乱している。

「ちょっと待ってくれ。トラックにはねられたのはネエちゃんではなく、ケイタで。ケイタを生き返らせるために、ネエちゃんは世界を自分が死ぬ世界に作り替えたってこと?」

 ポメに確認する。

「その通りだ」

 ポメは頷く。本人は真剣な顔をしているつもりだが、くりっとした目でこちらを見る顔はただ愛らしく、深刻さはゼロだ。

「この世界はケイタを想う彼女の愛の結晶みたいなものだ。だから世界はケイタを選び、ケイタと繋がった。そしてケイタが望むから、彼女の死を何度もなかった事にする」

 ポメはため息を吐く。たぶん、やれやれという顔をしているのだろう。

「姉ちゃんが何度も死ぬのは、自分が死なないとボクが死ぬって思っているから?」

 ポメに尋ねた。

「……たぶんな」

 ポメは肯定する。

 姉を助けられない理由をボクは理解した。

 姉が何度も死ぬのは、姉の意思だったらしい。

「ネエちゃんが死ななきゃ、ケイタは助からないのか?」

 ユウキはポメに聞いた。





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