第5話 衝撃。






 ポメの言葉に、動揺したのはボクよりもユウキの方だった。

 ユウキは突然しゃべり出したポメに驚いたが、ボクのためだと言われてここに連れてきたらしい。

 詳しい事情は何も知らず、ボクと一緒に現状を把握したようだ。

「ネエちゃん、死ぬの!?」

 衝撃を受けている。

 ユウキは姉のことをネエちゃんと呼んでいた。ユウキにとっても、小さな頃によく遊んでくれた姉は特別だ。家族同然に思っている。

「もう何度も、死んでいる」

 ボクは繰り返される今日のことを話した。

 ユウキは辛そうな顔をする。

「ケイタ」

 ボクを抱きしめた。

「一人で、頑張ったな」

 誉められて、ボクは驚く。そんなことを言われるなんて、思わなかった。

「ユウキ」

 ボクは自分からもユウキに抱きつく。本当はもう、一人で抱えるのは限界だった。涙が溢れて止まらない。ユウキの腕の中で、泣き続けた。

「ケイタ。もう学校に行く時間よ」

 部屋のドアがノックされ、姉が顔を覗かせる。抱き合っているボクたちを見て、小さく笑った。

「朝からラブラブね。でももう家を出ないと遅刻するわよ」

 楽しげに言う。

「今、行くよ」

 ボクは返事をした。

 姉は部屋のドアを閉めて立ち去る。玄関でボクたちを待つつもりだろう。

「ポメ。時間を先に進めるためボクに姉ちゃんの死を認めろと言ったけど、本当はもう一つ、時間を進める方法があるんだろ?」

 ボクは問いかけた。

「何の話だ?」

 ポメは首を傾げる。あざと可愛い。

「姉ちゃんが死ななければ、時間は巻き戻らない。……そうだろう?」

 ボクは答えた。

 姉は出勤途中の朝に亡くなっている。だが、会社を休んで家にいた時は強盗と鉢合わせる午後まで生きていた。つまり、ループのきっかけである姉の死が存在しなければ、時間はループしない。今日一日、姉が無事なら明日がやってくるはずだ。

「それは……」

 ポメは言葉に詰まる。

 どうやら、正解のようだ。

「何度もチャレンジして、駄目だっただろう?」

 顔をしかめる。犬なのに表情が豊かだ。

「知っているんだ」

 特に不思議にも思わず、ボクは事実を確認する。

「私は世界そのものだ。全てを知っている」

 ポメは答える。

「一人では駄目だった。でも、今は一人じゃない」

 ボクはユウキを見た。

「もちろん、協力する」

 ユウキはボクの手を握る。

 一人ではないことをボクはとても心強く思った。微笑むと、ユウキも微笑み返してくれる。

「仲良しだな」

 ポメが感心した。

「ああ。付き合っているから」

 ボクがさらっと答えると、ポメは真ん丸い目をさらに丸くした。

「今時の小学生はそれが普通なのか?」

 食いついてくる。

「普通かどうかはわからない。でも、彼氏なのは事実」

 ボクは答えた。

「その話、詳しく聞きたいのに時間がない」

 ポメは何故か悔しがる。

「ケイタ~。行くわよ」

 玄関から呼ぶ姉の声が聞こえた。

「行こう」

 ユウキに促される。

「ああ」

 ボクは頷いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る