第3話 繰り返される世界。
「ケイちゃん。ケイちゃん」
揺すられて、ボクは目を覚ました。
瞼を開けると、天井が見える。見慣れた自分の部屋の天井だ。
気を失い、自宅に運ばれたのだろう。
「……」
呆然とするボクの視界に、姉の顔が飛び込んできた。心配そうにボクの顔を覗き込んでいる。
「!?」
声にならないほど、ボクはびっくりした。
「姉ちゃん!!」
思わず、飛び起きる。そのまま姉に抱きついた。
幽霊ではない。実体があった。
「ケイちゃん?」
姉は戸惑う。
「どうしたの?」
優しく、ボンボンとボクの背中を叩いた。
ボクは状況を確認する。
時計はまだ6時を過ぎたばかりだ。
ボクはベッドの中にいて、パジャマを着ている。
つまり、朝、起きたばかりということだろう。
(夢だった……)
ボクはほっとした。もう一度、ぎゅっと姉に抱きつく。
温もりがあることを確かめた。
(生きている)
そのことに涙が出る。
「ひっく……」
子供みたいに、泣いてしまった。
「ケイちゃん?」
姉は戸惑う。
「怖い夢でも見たの?」
優しく背中を擦ってくれた。
年の離れた姉は共働きの両親に代わって、ボクの世話を焼いてくれる。
姉が進学も就職も地元を選んだのは、ボクのためであることを知っていた。お姉ちゃん子のボクは姉が遠くに行くのを嫌がった。
「凄く、嫌な夢を見た」
ボクは打ち明ける。
「……そう。でも大丈夫。怖いことなんて、何も起きないわ」
姉は慰めてくれた。
その時は、あれは本当に夢だったのだと思った。
しかしその後、ボクは違和感に気付く。
目の前で、夢で見たのと全く同じことが繰り返された。
寝坊した母は時間がないと朝食を食べずに家を出る。父は車のワイパーが凍ったからといつもより早く家を出て、歩いて職場に向かった。ユウキは学校に行こうといつもより早く迎えに来る。
それらは全部、夢で見たとおりの光景だ。
それを偶然だと思えるほど、ボクはお気楽ではない。
(デジャブなんてものじゃない)
夢と同じことが繰り返されていることを悟った。
(それなら……)
ボクはわざと忘れ物をして、一旦、家に引き返さないといけない状況を作る。
姉やユウキはそれに付き合ってくれた。事故現場を通りかかるタイミングがずれる。
これで大丈夫だと、ボクは思った。
事故に巻き込まれることはない。だが、世界はそんなに簡単に出来ていなかった。
確かに、姉がトラックに吹き飛ばされることは無かった。
その代わり、トラックが衝突して飛んだ看板が姉に直撃する。
悲鳴がを上げ、ボクはまた気を失った。
そしてまた、ボクは目覚める。
いつ起きても、“今日”の朝だ。
世界が、同じ時間を繰り返していることをボクは知る。
その後も、ボクは姉を救うためにいろんなことをした。
家を出る時間を変えても無駄だった。早く出ても、遅く出ても、結局は事故に巻き込まれる。それならいっそ、家から出さなければいいと思った。仮病を使い学校を休む。駄々を捏ねて姉にも会社を休ませた。
だがそこまでしても、姉は死んでしまう。
留守宅だと思って忍びこんだ泥棒と姉が鉢合わせた。相手が居直り強盗に変わって、刺された姉は死ぬ。
それを見て、ボクの意識はブラックアウトした。
世界はもう何度も、今日を繰り返している。
でも、ボク以外の誰もそれに気づかない。
ボク一人が何度も何度も、姉の死に直面していた。
すでに心はボロボロで、壊れかけている。
そんな時、そいつが来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます