第2話 冬の日。


 さて、話を“今”に戻そう。


 今日はごく普通の冬の日だ。雪が降り、路面が凍る。

 ボクが住む町は北の方にありながら雪はそれほど多くない。どかっと降るのは稀だ。年に一回か二回あるくらいで、普段はそれほど降ることはない。だから、ほとんどの車は雪道を慎重に走っていた。スピードは出さない。

 片田舎にだって、幹線道路はある。国道をトラックが多く走っていた。

 その中の一台が、スピードを出した状態でスリップする。

 凍結した道路でタイヤが滑った。

 運転手はハンドルのコントロールを失い、トラックは走る凶器となる。

 そして次の瞬間、ボクの目の前で姉の身体がトラックに吹き飛ばされた。

 姉は職場に、ボクは小学校に向かって、友達のユウキと一緒に歩道を歩いていた。


 それは一瞬だった。

 少し前を歩いていた姉の身体が無くなる。

 トラックはギリギリボクの目の前を通り過ぎた。

 その時、世界から音が消える。

 無音の中で、スロー再生のように姉の身体が飛んでいくのがとてもゆっくり見えた。

 悲鳴が響き渡る。

 それが自分の口から出ていることに気づいたのは、後からだ。

 言葉には言い表せない音が自分の口から上がっている。

 それと同時に、ピシッという何かにひびが入るような音が聞こえた。

 パリンッ。

 割れた音がそれに続く。

 だがそんなことを気にしている余裕はなかった。

「姉さん、姉さん、姉さん」

 ボクは吹き飛ばされた姉に駆け寄る。

 姉はすでに事切れていた。

 人形のように全ての力が抜けきって、手足がだらんとしている。その下に広がっていく血の海だけが、そこにあるのが人形ではない生きていた人間であったことを物語っていた。

「嫌だ~!!!!!」

 たぶん、そんなことをボクは叫んだ。

「ケイタ!!」

 一緒に登校していたユウキの呼ぶ声が聞こえる。

 次の瞬間、意識が途切れた。世界は真っ暗闇に包まれる。

 気を失ったのだと、自分でもわかった。

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