第3話 争奪戦

「ただの盗賊なんて、一節魔法で余裕よ! 氷の精よ来たれ、氷塊ラグラス

「援護します!魔力付与マジックエンチャント

「《盗賊スキル:超移動ハイムーブ》!」


 黒魔術師の女性が放つ強化された氷塊を超移動ハイムーブで避ける、超移動といってもその移動距離はほんの二歩分の距離。だが魔力が尽きなければ連続使用が可能の回避スキル。


「なっ、避けられた!」

「魔力が弱いからって舐めないでよ!」


 盗賊は魔力の成長が他より劣っている。元々技術で物を言わせる天職だからかもしれないが、盗賊をやっている自分からすればデメリットとは思っていない。他の盗賊がどうなのかは定かではないが。

 超移動を2回使用し、勇者の眼前に迫る。


「取ったよ!」

「舐めるな盗賊風情が! 《勇者剣スキル:風王斬ファストバスター》!」

「闘士の俺も忘れるな! 《斧スキル:覇王斬はおうぎり》!」

「ここで勇者の剣振るうって正気!? …ッチ、《盗賊スキル:超移動ハイムーブ》!」


 馬鹿かこの勇者は、ここ王城の広間だぞ? いくら広い場所だからって力の大きい勇者の剣を振るう奴がある? 周囲の仲間も止めようとしてないし…。

 それに、超移動ハイムーブも起動はしたものの挟まれた一撃に対処しきれず、腹部と背中に斬撃をくらってしまった、幸い死ぬほどではないが。


「これが勇者パーティね、ちょっと舐めてたかも」

「俺達に喧嘩うったこと、後悔しろよ?」

「それはこっちのセリフ……《盗賊スキル:超加速ハイスピード》!」

「!?」


 地を蹴り、それこそ一瞬の如き速さで再び勇者の眼前に迫る。

 腰に入れていた短剣の鞘に手を置き、本気で盗みに入る。


「速っ!?」

「嘘…魔術詠唱が間に合わない!?」

「盗賊は敏捷性だけが取り柄なんだよ!」


 そっちも武器のスキルを使ってきたんだ、こっちも遠慮なくいかせていただこう。


「《短剣スキル:感電刺剣ボルティックタガー》!」

「がっ…!」


 短剣スキル:感電刺剣ボルティックタガーは麻痺効果のある短剣のスキル。一時的に止まる勇者の隙をつき、手に持つ勇者の剣を奪い取り、即座に離れる。


「な、しまっ…」

「ははっ、貰いっと!」

「何やってんのよジャック!」

「俺のせいじゃねぇだろ!」

「落ち着きましょう!」

「喧嘩はよせ、それよりまずはあいつを…」

「……はぁ、貴方達本当に勇者パーティなの? ちょっと期待外れかも」


 盗んだ勇者の剣を腰につけた仮の鞘に納め、その場にいる者全員に鋭い言葉を投げる。

 見てらんない喧嘩を止める為でもあるのだが、これは自分の率直な感想だった。


「…は? 何言ってんだ。当たり前だろ? 盗賊風情が俺達を見下すのか?」

「言葉をわきまえ、その剣をこの場に返上しろ。今なら軽い刑で済むかもしれんぞ?」

「だってさ、私のようなただの盗賊に、勇者が一番大切な物盗まれてるじゃん。しかもそっちは4人いるのに…。あと私、一度奪った物は返さない主義だから」


 その言葉で勇者パーティの怒りが更に加速した。


「だったら取り返すまでだ盗賊風情が! 《剣スキル:雷神斬ボルディアスバスター》!」

「後悔しろ賊の者! 《|斧スキル:大地砕き》!」

「炎の精よ、我に知と力を与え、ここに地獄を作り出さん! 炎熱地獄ヘルディアス

「み、皆さん!?」


 え、嘘ホント? さっきもいったがここ室内だよ? 白魔術師だけがまだまともなのは良かったが。


「ホント馬鹿な奴ら! 《盗賊スキル:超加速ハイスピード》!」


 部屋の扉に超加速の速さで飛び込み、その部屋から離脱する。部屋にいた王妃と王だけはとりあえずギリギリ掴んで部屋から離す事は出来た。

 なぜ助ける必要があるのか? まぁ死なれたら王都の人達はもちろん私までも気分が悪くなるからだ。

 その瞬間、部屋から3人の攻撃が放たれ広間一面に爆風が走る。絨毯と机は焼け、シャンデリアは衝撃で落下し、見るも無残な状態である。


「あっぶない。他の人の事も考えないの?」

「き、貴様…」

「…はぁ、自分たちの身より剣と勇者の心配? 大変だね。それじゃぁ、私は今のうちに逃げさせてもらうので!」

「待て!」


 立ち上がり、超加速ハイスピードで城を離脱する。多分この程度で勇者パーティが死ぬ事はないだろうが、暫くは追ってこない筈だ。

 一先ず「勇者の剣を盗む」という目的は達成した。追ってくるというのなら、先に売り払って母に送ってしまえばいい。


 そうすれば、私なんて用済みでしかないのだから。

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