第4話 本物の皇女
免疫がなかった、ただそれだけ。
故郷にはがさつで幼稚な男の子しかいなかったもの。
主人である皇女にパーティーのことを報告しながら、サクラはそう自分に言い聞かせた。
「サタール国のシルヴァン……」
主人が顎に手を当てて考える。誰だったか思い出そうとしているようだった。
「ああ、第一王子ね。ジェラルド兄様の友人だったと思うけれど」
サタール国はバルカタル帝国とウイディラという大国に挟まれた小さな国ながらどちらにも侵略されず生き残っているというなかなか強かな国で、シルヴァンは幼少の頃バルカタルに留学していたらしい。
「それで、そのシルヴァン王子はあなたにそんな歯の浮くようなことを言ってきたのね」
主人が嫌いな食べ物を前にした時のような顔をした。隣でケーキを手づかみで食べる少年(主人が契約した魔物)に至っては、舌を出して苦いものを飲み込んだような顔だ。
「ツバキ様としてどのようにふるまえばいいかわからず、逃げ出してしまいました。気分を害してしまったかもしれません」
失礼な女性だと悪評が立ってしまわないかも心配だった。
影武者として完璧に役目をこなせなかったと気落ちしてしまう。今なら、主人だったらどのような態度をとるのかわかるのに。
「たいしたことじゃないわ。……でもサタールか」
何やら思うところがあるのか、主人は無言になる。やはりまずいことをしてしまったのかと青ざめると、代わりにアベリアが答えてくれた。
「サタールの王族は昔からバルカタルの皇族と婚姻を結んでいるの。同時にウイディラとも。それによって自国を守っているのよ」
「人質ということよ」
「セイレティア様」
とげとげしい言い方をたしなめるアベリア。
「そうでしょう?自分の娘を差し出したり、もらったり。きっと私はとても都合のいい存在でしょうね」
魔力が高ければ女性でも権力者となれるバルカタルでは、代々女であっても皇帝もしくは州長官に選ばれており、サタールへ嫁ぐ女性の多くは傍系だった。
最近またウイディラがサタールへ圧力をかけているというきな臭い噂もある。より強固な関係を望むならば、現皇帝の妹は喉から手が出るほど欲しい存在だろう。
──ツバキ様の結婚相手の候補のお一人……。
黒曜石の瞳を思い出す。
彼はあの優しい眼差しの奥で何を考えていたのだろう。
うつむいて口を真一文字に結ぶ少年を目の端に捕らえながら、サクラは空になった皿を片付けた。
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