最終章 第3話(終)

 金属同士が激しく衝突し、削れ、砕け散る音が無限に響き渡っていた人外の戦場だったその場。そこは今、風の音しか存在しない静寂の場となっていた。


 笹原からの連絡を受けやってきた人間たちが到着した時には、数多の機神がその動きを止め地に伏せていた。その中心に佇むのは、砕け散った機械の翼を広げる、わずか17歳の少女だ。


「浅野神樂、で良いんだな」


 問いかけずにはいられない。彼女の纏う雰囲気は前日とは全く異なり、人ではなくなったような顔をしたのだから。


「えぇ、そうですよぉー。ご迷惑をおかけしました、久城さん」


 浅野神樂らしい口調で、しかし彼女らしからぬ表情だ。まるで、他の誰かとゴチャ混ぜになってしまったかのように。


「機神との戦いは終わりました。機神化してしまった人たちが戻ることはできないですけど、彼らが人を襲うことはそうそう無いはずです」


 何故と問えば、彼女は哀愁を感じさせる笑みを浮かべ、答えた。


「第一機神の中枢コアは、私が取り込みました。だから、この機神たちは私が命令を解かない限り、人を襲うことはありません」


 戦慄する。第一機神を撃破したとは聞いていたが、よもやその中枢を取り込んだなどと。


 これは、まずい。非常にまずい。


「久城さんたちは、私が人間を相手に危害を加えるような機神ひとじゃないと信じてくれている。けど……」


 あぁ、知っているとも。君がかつて人間であったことも、人間を守るために全力を賭してくれたことも。そう、だが、しかしだ。


「ほかの人たちは、私がそういうのだって知らないじゃないですか」


 寂しさを含んだ笑顔に、胸が締め付けられるようだ。彼女は、自分が人の中で生活することはできないのだと理解している。ここで私と約束しようが、書面で契約を交わそうが関係ない。彼女が無数の機神その力をこちらへ向ければ、人間には成すすべがない。


 多くの人間は、その状況に恐怖し、彼女らを排除しようとするだろう。


 それを、彼女は理解しているのだ。


「局長」


 深紅の長髪、灼焔の瞳の女性から放たれた声。聞き慣れぬ声で、しかし聞き慣れた音程。笹原朱希が、こちらをまっすぐ見ていた。


「ワタシたち、ここに無数にいるのを含めた機神ワタシたちの今後について、相談したい事があります」


 見慣れない顔の、見慣れた表情。その表情に誰もが、耳を傾けた。


 彼らの話を少し離れた場所から成平千尋が、優しさを含んだ微笑みを浮かべて眺めていた。

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