第5章 第2話
抑揚のない喋り方をするくせに、何とも情熱的なことだ。
第二機神を睨み付けて駆け出した
私が相手にするのは第四機神type
接敵までの残り時間は三30秒といったところか。ふと、第二機神と視線が合った。無感情かつ無感動に敵を排除する第一機神ではなく。傲慢かつ驕慢たる態度で人間と、己ら原初の
彼女が一体何を考えているのかなど知れはしない。戦場の前線で
故に、理解できない。彼女が何故、敵意も害意も感じ取ることのできない
「第二機神は無視して構わない。第一機神の思考パターンなら、彼女を戦わせるなどという事はしないだろうからね」
接敵まで残り20秒。ようやく、第一機神と第四機神がこちらへと顔を向けた。
「もし彼女が、君と第一機神の戦いへ介入するようなら私が止める。貧弱な強度しかない私の
残り10秒。笹原朱希から返答はないが、視線が了解の意を伝えてくる。ならば、これ以上伝えることはない。戦闘開始はもう間近だ。
残り5秒。完全停止していた周囲の機神たちが動き出す。同時に、対機神部隊からの砲撃による爆発が、それらを吹き飛ばした。
残り1秒。余裕綽々と構える第一機神に、笹原朱希が打撃を放った。
◇ ◆ ◇
金属同士が凄まじい勢いでぶつかり合う。耳を
ワタシの眼球が捉えた映像、耳で捉えた音声は、対機神部隊のモニターへと映されている。久城局長たちからすれば、第一機神がモニター越しに彼らを見つめているように見えるかもしれない。
「
腕を鈍器と扱い放った一撃は、第一機神の手刀によって防がれている。それこそが、悲鳴の如き音の原因。余裕の無表情でそれを成した彼は、トンネルで体を踏み抜かれたワタシのことなど覚えていないらしい。
「だったら回収していけば良かっただけ。捨て置いたのだから、その程度のモノだったということでしょう」
ワタシと第一機神の間で交わされるのは、見栄えなどない肉弾戦だ。金属同士がぶつかり合う音を響かせながら、打撃を繰り出しそれを防ぐ事の繰り返し。ただその威力は、人間のものとは比較にならない。
「中身をカグラの
ゴミだと。カグラの
「っ⁉」
無言で、無表情に、しかし圧倒的なプレッシャーを放ちながら、ワタシの胴体に一撃が叩き込まれる。人間だったなら肋骨は粉砕し、内臓は磨り潰されていただろう。機神type鷹のままだったならば、全身を粉砕されて中枢に致命的なダメージを負っていたに違いない。
けれど今のワタシは、圧倒的耐久性を誇る第二機神の
「こっちの言葉で揺さぶりをかけることができるのなら……」
勝ちの目はある、少なくとも敗北はない。
第一機神の命令に従って、猪型の機神が突撃し迫り来る。このような雑魚を相手にしている余裕はない。かつては人間で、意志ある者だったとしても、今は第一機神に従う敵兵の1機にすぎない。それに
突進を躱し、牙の部分を掴み、勢いをつけて猪型の機神を、鈍器として叩きつける。第一機神がその手で猪型を払いのけ、こちらの胸部目掛けて蹴りを放つ。空いている左手で蹴りをはたき落とし、後方へ跳躍して回避する。
ワタシと第一機神には、特殊な装備などない。第四機神type
故にワタシたちの戦闘は、四肢と周囲に散らばるモノを使っての殴り合いだ。白兵戦といえば聞こえはいいが、
互いに最強の装甲を持つ機神同士、早々に決着はつきそうにもない。
◇ ◆ ◇
モニターに映し出される成平千尋の戦闘に、指令室にいる誰もが声を漏らした。驚嘆、畏怖、の声だ。
圧倒的、その一言に尽きる。
こちらが行う海上からの砲撃は、無数の機神を吹き飛ばし、装甲を破壊するだけの威力を持っている。だが、その対象が第四機神になればどうだ。火薬を内包した鉄の塊は、破壊を齎すことなく第四機神に受け止められ、吸収された。迎撃するのではなく、回避するのでもなく、軌道を逸らすのでもない。その手で受け止められ、食われるが如く吸収されたのだ。
成平千尋が交戦に入ってからは、周囲の機神を取り込み、人型であったその身を巨大な四足獣へと変身させた。成平の視点では巨大な四足獣ということしかわからなかったが、遠くから見ればマンモスだと一目で理解できた。その巨体を周囲の建物ごと成平を薙ぎ払わんとし、こちらの砲撃が吸収されずに直撃しようと傷一つもない。
変幻自在、その名は伊達ではない。宙を舞う虫の形を成したと思えば、こちらが放ったのと同じような砲撃を、至近距離で放ち破壊を撒き散らす。鷹に変化すれば高所から機神の残骸を投げ落とし、
そう、圧倒的の一言に尽きる。
これだけの多種多様な攻撃に曝され、同時に無数の機神からの攻撃を放たれて尚、一切の致命的なダメージを受けていない成平千尋。彼女のその実力は、最適を選び続ける思考は、圧倒的以外に表現のしようがないだろう。
第四機神の攻撃が止む。踊るように、有象無象の攻撃を回避する。
彼女はきっといつものように、余裕の態度で、不敵な笑みを浮かべているのだ。
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