第4章 第2話
久城局長との話し合いを終え、今は研究室へと足を向けている。
私の情報がどこまで第一機神側に知られているか不明のため、朱希と共にしばらく学校を休むことになった。理由に関しては、久城局長から学校の理事長へと伝えてくれたようだ。
親に
「研究への協力は任意だ。君が嫌がるようなら強制はしない」
「ありがとうございます。どんな実験に付き合わされるのかは聞いてみたいので、一度は行きますよ」
30分ほど地下通路を歩くことになる。朱希は対機神部隊の手伝いをしているため、メンバーは変わらずの先ほどの4人。
入り組んだ地下通路の先にあるのは、厳重なロックがかけられている扉。
「ここが機神の研究をしている施設だ。指揮系統が俺たちの部隊とは違うし、基本的に情報は向こうからこちらへ持ってくるから、私も久しぶりに来たよ」
生体認証で扉が開き、久城局長に続いて私もそこへ足を踏み入れる。
「いるんだろう
城嶋と呼ばれた男が、睨みつけていた紙束からこちらへと振り返った。目の下にわずかな隈が浮かんでいる不健康そうな顔だが、その瞳は私を真っ直ぐ捉えている。
「久城か。そして、なるほど君が、
紙束を机に放り投げ、私から視線を一切離さず距離を詰め、ガシッと思い切り両肩を掴まれる。彼の身長はおおよそ180cm、対する私は160cm程度だ。圧が凄い。
「率直に問うが、どの程度までなら許される。
金属化した部分が他の機神と異なる性質かどうかは? 人間から機神に変化していく過程を観察することは可能か? あぁ、いやしかしそれは君を傷付けなければならないらしいから却下だな……。だが、我々が開発を行っている武器が機神に通用するかの実験はどうだ? そういえば君は中枢を二つ内蔵していると聞いたが、記憶や人格はどうなっている。そうだ他にも———」
怒涛の勢いで私に向かって質問を投げつけてくる城嶋さんに、私は驚愕と困惑を隠せず、その様子を眺めている久城局長は呆れたように頭を抱えていた。彼の反応を見るに、この研究員は普段からこの様なのだろうか。
「落ち着け城嶋、彼女は
そんな言い方あります? などの感想を抱きつつ、しかし確かにそう見える構図だなとも思。
「そんなことはわかっている! だが目の前に、進んで協力してくれる研究材料があるんだぞ! これが興奮せずにいられると思っているのか?」
ここまでストレートに「研究材料」と言い切られると、逆に清々しさすら感じる。
そんなこんなで言い争いが始まってから、おおよそ3分が経過した。このままでいても埒が明かないと、私は口を開いた。
「とりあえず、そういった内容をまとめたリストみたいなのってありますか? 無かったら作ってほしいんですけど……」
「あぁ、昨日送られてきた大量の機神の研究にとりかかりきりで忘れていたな……。待っていてくれ、今すぐにつくる」
私の言葉で落ち着きを取り戻し、モニターを睨みつけるようにしながらキーボードを叩き始めた。
「すまんな、先に言っておくべきだった。昔からアレなんだ」
「大丈夫です、気にしてないので」
それなら良いんだが、しばらくかかりそうだな。と独り言を呟いた彼は、こちらへと視線を移し、困ったような表情を浮かべた。
「とりあえずアイツが終わるまで、この研究所を案内するとしよう。何もしないでいると暇だろう」
「そうですねぇー。久城局長が案内してくれるんですか?」
頷き、後ろに控える部隊員2人の方へ顔を向ける。
「お前たちは休んでいて構わんぞ、ここなら人も大勢いるからな。何かあれば、すぐに誰かが気付くはずだ」
渋々といった具合で了承した彼らを置いて、久城局長の後ろを付いていった。
30分後。研究所見学を終えて城島さんのところへ戻ると、来た時同様に書類を睨みつけながら待っていた。
「ようやく戻ってきたか。待ちくたびれたぞ」
書類を放って、こちらが声をかける前に目を合わせてきた。
「すいません、お待たせしました」
ほら、とリストを印刷した紙を、私の頭にぽんっと置く。
「君が協力する研究の項目にチェックをつけろ。午後になったら上から順にやっていく」
それまで僕は仮眠をとる、と言って奥の部屋へと引っ込んだ。
「多いな、50はあるぞ……」
リストを横から確認した久城さんが、思わずそう呟いた。
「どうせしばらく学校には行けないですから。私
私の言葉に久城局長は、ありがとう、と返した。
そして彼らの研究に協力し始めて、6日が経過した。
◇
更新が停止してから604,800秒が経過した。
私という個体に、己で認識できる限り自我はない。
命令は絶えず遂行していたが、それもここまでのようだった。
特筆すべき機能など備えていないこの機体の
用意されていた機械と中枢を繋ぎ、創造主の記憶を私に移す。
私の中にあった疑似人格は消去され、移行したデータを基に新たな人格を構築する。
私の役目は、これで終了だ。
私という個体に、今まで認識できた限り、自我はない。
だからこれは、人間らしい願いなどではない。
けれど、私は彼女を模して造られたから、
───叶うのならば、もっと神樂と一緒にいたかった。
最後に私は、そう呟いた。
◇ ◆ ◇
土日を挟んで平日の真っただ中。この一週間同様に、私は対機神部隊の第二拠点へと向かっていた。パッと見ただけでは私こと浅野神樂だと気付かれないように髪形を変え、普段着ていなかったタイプの服を着て、更にはダメ押しの伊達メガネを装着して。ただ、まぁ。
「
この一週間、機神type
無論、type
「えぇーっと、今日は次を右?」
「そう。その後は、120m先の十字路を左」
イヤホンから聞こえる声は、人間に気付かれないように街内を飛び回っている朱希のものだ。
毎日違う道順、入り口から研究所に向かうようにしなければならない私のために、案内役を買って出てくれたのだ。
地元であるはずなのに歩き慣れない道とはいえ、そんなことを一週間も続けていれば、そういった行為には慣れるものだ。だから、気が抜けていたのかもしれない。機神の気配に対して、細心の注意を払うことを忘れていたのかもしれない。朱希が指示した十字路を曲がった瞬間左足に、ぐにょっとした、しかし決して柔らかくはないモノを踏みつけた感覚があった。
「久しぶりじゃない♪」
跳ねるような、語尾に音符でも付けているのかと問いたくなるような声音。視界に入るのは先日見たスライムの如き姿の銀色。
その粘性のある金属に左足をとられ、バランスを崩して倒れそうになる。
「ようやく、だな」
低い男の声を発した、フードを被った人型が、数秒後にはコンクリートに顔を激突させそうな私の身体を支えた。
2体の機神の気配が、目の前にある。
「探したぞ、機神type
確信する。この男性型機神こそが、第一機神に違いないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます