第2章 第6話
先日の交戦から察していたが、笹原朱希という少女はやはり機神に対処するための機関に所属しているようだった。そういった
そして何より、私には藍の記憶がある。笹原さんが身に着けているその服が、藍が惨殺した彼らと同じであるとすぐさま理解したのだ。故に、彼女の姿を見て多少の驚愕こそすれど、それを態度に表すようなことはなかった。
「しかし、背中の羽(そんな物)を広げて戦場に出れば敵と判断されてもおかしくないと分かっていただろうに。人を救うにももうちょっと後先考えてから飛び出た方が良い」
私の横に並んだ
「……笹原さんは同じ学校の同級生ですよ。彼女がいなくなれば、悲しむ人間はいるはずです」
機神type
「だからといって、他の連中を助ける必要があったのかい。まさか、彼らが死ねば笹原朱希が悲しむ、なんて言い出すんじゃあないだろうね」
口を開き、舌を伸ばそうと構える眼前の敵に対し、彼女は余裕綽々とした態度を微塵も崩さずにいる。
「君は自分の願いを理解していない」
「君が望んでいるのは、自分の日常ではなく周囲の日常。果ては世界の日常だ」
まるで紙でも切るように、刃を振るって機神type
「そんなもの、実現できるとしたら神の如き所業だろう」
それは私が人間だった頃に、冗談めかしに思い描いていた夢。
幸せなことだけでなくて構わない。不幸なことが起きてもいい。最悪なことが起きないくらいに、それなりな日常が永遠に続いてくれればいい。そんな、何とも酷い夢。
「そんなものを追い求めれば、君が先に持たなくなるよ」
「だから君だ、浅野さんの中で寝たふりをしてる蜘蛛の君」
「浅野さんを生かすのは、君次第だよ」
ドクンと、藍の中枢が震えた気がした。「お前に言われる筋合いはない」とでもいうような、怒りに昇華する程ではない苛立ち。藍の感情に充てられて発した言葉は、先程とは比べ物にならないほどに怒気を孕んだ咆哮によって搔き消された。
「さて。世間話もこれくらいにして、目の前のコイツを黙らせようか」
成平さんの表皮が裂け、無数の刃がその姿を現した。人型でありながら人間らしからぬ影。殺戮を齎す白銀が、月光を受けて輝いている。
「私の好みの問題でね。できれば人間らしさを保ったままが良いんだが、お前には借りがある。私の左腕を壊してくれた代償は高いぞ」
不敵な笑み。周囲の人間たちは戦々恐々とし、これから何が行われるのかと退避している。笹原さんは未だへたり込んでいるが、まぁ最悪の場合、私が抱えて逃げればいいだろう。
「
成平千尋の名乗りが、無人の街へと響き渡った。
◇ ◆ ◇
指令室のモニターには現在、2体の機神が映し出されている。全身から刃を生やした長身の女型機神と、6対12枚の羽根を生やした少女の機神。その光景に、私を含めた指令室の誰もが驚きを隠せずにいた。
「ヴァリアブル……変幻自在……?」
余裕綽々といった態度でいる女型の機神は先程、その姿を「好みの問題」だと口にした。ならば、人型以外にも変身できる可能性は大いにあるということだ。
彼女の刃が猛威を奮い、カメレオン型機神を圧倒する。同じ機神でこうもスペックに差があるのかと関心を抱くが、それと同時に恐怖も抱いた。それは即ち、彼女が見知った者と入れ替わっている可能性があるということに違いないのだから。
「姿を変える……? まさか、いやだが……」
変幻自在の機神。それは、15年前を思い出させた。
◇ ◆ ◇
既にカメレオン型機神の体は鉄屑へと変貌し、機神の心臓たる
「隊機神部隊の長」
「……何故私が部隊長であると知っている」
「答える義理はない、と返しておくよ。
それよりもこの鉄屑だ。君たちにとっては良い研究対象だろう」
中枢を拾い上げながら、空いた手でカメレオン型機神の体だったモノを指さした。
「中枢だけは貰っていく。こっちの後片付けは任せたよ」
それだけ口にすると、彼女はアサノの手を掴んで背を向けた。
「えっ、ちょっとこのまま帰るんですか⁉」
「待て機神!」
困惑するアサノと部隊員が向けた銃口を無視し跳躍する。放たれた数発の弾丸は全て回避され打ち落とされた。
『追撃はしなくて良い。したところで、こちらが一方的にやられるだけだ』
久城局長の言葉を、誰もが事実として吞み込んだ。ワタシたちが手も足も出なかった相手にあれだけの戦闘能力を見せつけられて、こちらが勝ち得るビジョンが見えないのは当然だろう。
その後、久城局長の指示のもと機神の残骸の回収作業を進めていった。その最中、残骸の中から食われた部隊員の死体が発見された。
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