第55話 お誘い
「今度のウィシュトリーの日、一二課の鐘が鳴る頃、二人で出かけませんか」
ベラの前に再びダリルが現れたのは、店にお邪魔してから数日経った時のことだった。学校帰りに頼まれていた買い物を済ませようと広場に出たら、彼もまた、買い出しに来ていたのだ。二人は、噴水の縁に腰掛ける。
「ねえ、なんで私なの?」
この頃頻繁にダリルと出会っている気がしていた。しかし、そう思っているのはベラだけで、相手は片っ端から声をかけているのかもしれない。それか、別の目的があって話しかけてくれるのか。
「可愛い子なら他にも沢山いるでしょ。私で良いの? 私とどこか行って楽しいの?」
問い詰める彼女にたじろくダリル。彼はうつむいて、レンガの目を追いながら、じっと考えている。しばらくして、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「すみません、自分は楽しかったんですけど、嫌でしたか」
「え、別に、そういう訳じゃないのよ。ご飯もいただいちゃったし」
「そうですか」
すっと目を細めるダリル。
「初めて貴方に会ったとき、あ、この人だって思ったんです。上手く言葉にできないんですけど、きちんとした理由なんてなくて、ただ、心が、もっと貴方に会いたいと叫んでいたんです」
「でも、私、魔法学校に通っているのよ。その、変な噂とか立ったら困るのは貴方じゃないかしら」
「……。はじめて魔法学校に出店すると聞いたとき、同じことを僕も思いました。もはや魔法使いの需要は大きくなっていて、避けては通れないと、父は言っていましたが、その、つい最近まで、まだ腑に落ちていなかったんです。ですが、貴方と会って、可愛らしい人もいるのだと知りました。その、自分はなんとなく嫌がっていただけじゃないかって、貴方に会えて良かった。心からそう思います」
つかえながら話すダリルの横顔は、誠実そのものだった。
ベラは思い出していた。初めてアシュリーに会った日、彼女の世界が若葉色に染まった日のことを。
今、ベラの前にはダリルがいる。彼らはまっすぐ彼女を見つめている。
(だってあの人は誘っても逃げちゃうんだもの。それと比べたら、ずっとずっと素敵じゃない)
「行きましょう、楽しみにしているわ」
ベラは無自覚のうちに、差し出された手をぎゅっと握りしめていた。
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